(旧)霊能力者紅倉美姫43 クリスマスの事件

岳石祭人

一,紅倉の小さな友だち


ここまでのお話:


「現代最強の霊能力者」として活躍していた紅倉美姫。しかし出演していた心霊オカルト番組が不祥事を起こして打ち切り。紅倉はパートナーの芙蓉美貴と共に裏日本の地方都市に都落ちする。小さな借家のつつましい暮らしながら、大きな黒犬を拾ってきて「ロデム」と名付けて飼い始め、のんびりまったり、楽しく日々を過ごしているのだった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 時折雪がちらつく寒風の中でも紅倉は感心に愛犬ロデムの散歩だけは毎日欠かさずやっている。仕事は犬の散歩だけというずいぶんいいご身分だが。

 今日も昼からのんびり散歩に出かけた紅倉とロデムは、下校してくる近所の一年生たちに会った。

「あ、紅倉さん、ロデム、こんにちは」

「はい、こんにちは」

 揃って一年生、男の子二人女の子一人に紅倉はニコニコ挨拶した。

 男の子二人が悪い顔を見合わせ、一人が言った。

「紅倉さんは今年一年良い子だった?悪い子だった?」

 う~~ん、と子ども相手に紅倉はまじめに考えた。

「とっても良い子の時と、しゃれにならない悪い子の時と、両方あったなあー」

 男の子二人はどっちなんだと顔を見合わせ、女の子が男の子たちのもくろみを晴らすべくお利口な顔で言った。

「怖いサンタクロースの都市伝説なの。良い子って答えても、悪い子って答えてもバッドエンドになるインチキなのよ」

「都市伝説でバッドエンド?」

 紅倉は小学一年生が物騒な物を知っているなあと感心した。ネタを明かされた男の子二人は空気を読まない女の子につまんないなあと非難の目を向け、女の子はつーんとしている。紅倉は興味を持ったふりをして男の子たちに訊いてやった。

「良い子って答えるとどうなるの?」

 食いついてきた紅倉に男の子は得意そうに意地悪な顔で言った。

「良い子にはプレゼントをあげようって、その子が怖がる物をあげるんだ」

「良い子なのに? 変なサンタ。じゃあ悪い子って答えると?」

「悪い子は、おまえをプレゼントにしてやる!って、袋に詰められてどこかに連れて行かれるんだ」

「ふうーん。怖いサンタねえ?」

「くっだらなーい」

 女の子はそっぽを向いた。男の子たちは意地悪に顔を見合わせて笑った。

「リンはほんとは怖いんだよなあ~?」

「別に怖くないもん」

「へへーん、強がってるだけのくせにい~」

「ほんとに怖くないもん!」

 女の子のリンちゃんは口では怒りながら目にじわりと涙をにじませて、紅倉は困ったものだと男の子たちに訊いた。

「何か裏技はないの? こういうのってだいたい弱点があるじゃない?」

「弱点っていうかさ。そのサンタに『今年一年良い子だった?悪い子だった?』ってきかれたら、『サンタさんは良いサンタ?悪いサンタ?』ってきくと、『俺は悪いサンタだ』って笑って行っちゃうんだって」

「へー。そうだって」

 紅倉がニッと笑うとリンちゃんも少し安心したように笑い返した。女の子を安心させたところで男の子たちに説教した。

「君たちい、女の子をいじめちゃいけないぞお? 十年後には恋しちゃってるかもしれないんだぞお?」

「うえ~~、キモイ~~」

 おどける男の子たちを見て紅倉は子どもって子どもだなあと思った。

「あーあ、嫌われちゃっても知ーらない」

「へーん、別にいいもーん」

 べー、とやる男の子たちに紅倉もつーんとした顔になった。

「あらそう。じゃあいいもーん。女は女同士、ねー?」

 紅倉が首をかしげるとリンちゃんも嬉しそうに「ねー?」と真似をした。

「しっかし物騒なサンタクロースねえ。サンタのかっこうした変質者か人さらいじゃないの?」

 憤慨してみせる紅倉のコートを、リンちゃんがつんつんと引っ張った。

「ほんとに裏技きくかなあ?」

 うん?と紅倉は首をかしげた。

「どこかにその悪いサンタが出たの?」

 また男の子たちが余計な意地悪を言った。

「ほんとだもんねー。駅前広場で声を掛けられた子どもがいるもんねー? そのサンタは小学校低学年の女の子を狙って声を掛けるんだもんねーー?」

 リンちゃんがまた泣きそうになって、紅倉は「めっ」と男の子たちを叱り、しゃがんでリンちゃんに顔を寄せた。

「大丈夫だよおー、出る場所が分かっているんなら、リンちゃんがそこに行く用のあるときはロデムをお供に貸してあげるよー? ロデムは強いから悪いサンタなんて悲鳴を上げて逃げて行っちゃうよー?」

「ロデム、バス乗れる?」

「う~~ん、駄目かもおー……」

 すっかり泣きモードに入ってしまったリンちゃんは眉間と顎にしわを寄せて睨むみたいに紅倉を見た。

「紅倉さん、悪いサンタやっつけて」

「うーーん、それはお巡りさんのお仕事かなあ?」

「連れて行かれた子どもたちを助けてあげて」

「え?」

 紅倉は目をパチパチさせた。

「悪いサンタにさらわれた子どもが、本当にいるの?」

 リンちゃんはうなずき、男の子たちもうなずいた。

「先生はただの病気だって言ってるって言ってたけど、みんな本当は悪いサンタに袋に入れられて連れて行かれたんだって言ってるよ?」

 うーーん、と紅倉は眉間にしわを寄せた。

「それって、誘拐じゃない?」


 家にランドセルを置き、子どもたちもロデムの散歩に付き合うことにした。

 いつもの公園に向かいながら紅倉は子どもたちから話を聞いた。

 二年生のクラスで二人の女の子が一週間以上欠席しているのだそうだ。

 先生は病気でお休みしていると説明しているが、欠席する前日の放課後遅く、先生たちが緊張した顔で走り回っているのを児童クラブで残っていた生徒たちが目撃していた。

 病気だと説明している担任教師の様子もそわそわして落ち着かず、子どもたちは

「悪いサンタに袋に入れられて連れて行かれたに違いない!」

 と推理したのだった。

 紅倉はうーんと考えた。

「袋に入れられるのは『悪い子だった』って答えた子だったわよねえ? 休んでいる二人は悪い子だったの?」

 子どもたちは顔を見合わせて

「知らなーい」

 と答えたが、勉強の出来るコージが付け足した。

「でも二人はいっつもいっしょにいて、よく子どもだけでゲームセンター行って怒られてるからやっぱり悪い子だよ」

 リンちゃんも思い出して言った。

「わたしも二人で撮ったプリクラのシール見せてもらったことある」

 羨ましそうなリンちゃんに続いてユーゾーも得意そうに知識を披露した。

「駅ビルのゲームセンターにプリクラの最新の機械がいっぱいあるもんな。きっとそこで撮ったんだよ」

「そこで、駅の広場に来たところで悪いサンタに捕まってしまった、ということね?」

 紅倉は子どもたちの話に一応納得したが、ここから駅にはバスに乗って行かねばならず、小学校の校区は当然子どもが歩いて通える範囲だから、休んでいる二人の家もそう遠くない距離にあるはずだ。プリクラのあるゲームセンターはちょっと遠いが歩いて行ける大型ショッピングセンターにもあるし、そもそも平日に小学二年生が二人きりでプリクラを撮りに出かけるのもどうだろう?

「やっぱり病気なんじゃないの? 今学校はインフルエンザ対策でお医者さんから確かに治りましたっていう診断書をもらわないと登校しちゃ駄目なんでしょう?」

 家でゴロゴロしていると子どもたちを道路で遊ばせてお母さん方がぺちゃくちゃ立ち話しているのが聞こえて、紅倉は小学校事情に割と詳しいのだ。

「紅倉さん」

 リンちゃんが怒って説教した。

「紅倉さんも迷子になってお家に帰れないとき、すっごく不安でしょう? 悪いサンタに連れて行かれた女の子たちもすっごく不安で、きっと泣いてるよ? 紅倉さんは正義の味方なんだから、悪いサンタをやっつけて、女の子たちを救出しなくちゃ駄目だよ?」

「最近はロデムのおかげで迷子にならないんだけどなあー……」

 紅倉はかっこわるくて口を尖らせながら、リンちゃんにムン!と睨まれて、

「はあーい。分かりましたあー。帰ったら美貴ちゃんに相談しまーす」

 と約束させられた。

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