恋は夢すら変えさせる

ゼロC

第1話


俺は、闇の中へ消えていく…俺の名前は…


 最近、こんな夢を見る。自分自身が海か湖か、何かは分からないが、水の中へと沈んで底が見えない暗闇へと落ちていくそんな夢だ。

息はすることができる。

「まぁ夢の中なので出来て当然なのだが」

地上に出ようといくら足掻いても、まるで体に何キロもの錘をつけているかように体は沈んでいく。

そして体が沈むにつれ、少しずつ光が消えていき、全てが暗黒へと変わる。

落ち続けると、下の方から小さな丸い光がみえてくる。

それは体が沈むにつれ、だんだん大きくなってくる。

近くにつれ、その光に照らされ、その光の”正体“に気づく。

「なんだよ…あれ」

見た目はチョウチンアンコウのようだが、そのサイズが今までに水族館で見た、ジンベイザメやエイなどとは比べものにならないくらいに大きい。

それは俺に近づいてくる、そして抵抗する間もなく俺は食べれ、そこで夢から目を覚ます。

 あまりいい夢とは言えない、夢のほとんどはすぐに忘れるらしいが俺はこの“夢“を懸命に覚えていた。

「わぁっ!……くそ」

その日も、いつものようにするあの夢で目を覚ます。

「って、もうこんな時間かよ。卒業間近で遅刻とか絶対したくねぇ」

俺は高校三年で卒業式までもう一ヶ月にまで迫っていた。

「だりぃな、これ」

俺は机の上にある一枚のプリントを手に取りつぶやく。

それは卒業アルバムにのせる、みんなへの思い出を書くプリントだった。

「これいつまでだったかな?っおいおい今日じゃねぇかよ」

携帯のアラームが鳴る

「やべ、急がねーと」

そのプリントをリュックへとねじ込み、学校へと向かった。

 俺は後ろの扉から教室へと入り、一番後ろの窓際の席に座る。

すぐにチャイムが鳴り始め、教室に先生が入ってくる。

「わぁ〜眠い…」

あの夢のせいで睡眠が浅いのか、眠気が襲ってくる。

どういうわけか、あの夢は夜しか見ることはない。

そして俺が太陽のポカポカした暖かさで眠りにつこうとしていた時。

「では!今日提出だったプリントを出してください」

その一言で目覚める。

「書くの忘れてた、まぁいいか」

今から書いても間に合わないので俺は白紙のままプリントを提出した。

「寝よ」

結局、その日授業は何があったかも覚えていなかった。

放課後、やはり先生に呼び出され、書き直してこいとプリントを押し返された。

「どうすっかな、これ」

教室で何も書かれてい紙を眺めながら、考えていた。

「高校生活の思い出か〜」

体育祭は、影が薄いせいか、綱引きしか出てない、クラス対抗の大縄跳びもトイレから戻って来たら終わっていた。

文化祭では、喫茶店をやったのだが、裏方の仕事に入れられたまま忘れられた、しかも二日間ともだ。

修学旅行では、部屋割りに、名前書くのを忘れられて一人部屋だった、後は自由行動の時、班が俺のことを忘れて置いていったために先生と京都の観光地巡りをすることになった。

「あれ、全然楽しい思い出なくね?てか俺の存在薄くね?」

そしてシャーペンをクルクル回しながら、どう書くか、考えていた時、ガラガラッと教室のドアが開く。

「忘れ物〜って、あれ何してんの?」

教室に入ってきた少女に声をかけられた。

彼女は…名前は忘れたが、まぁ見た目は髪型がショートで顔も整っており、美人系というよりは可愛い系か。

確か、クラスの上位グループにいたような気もする。

「これをやっていたんだ」

俺は持っていた、白紙のプリントを見せる。

「これって、卒業アルバムにのせる内容書くやつ?」

「ああ、期限を忘れてて、書いてなかったんだ。」

「んー帰っても暇だし、一緒に書く内容を考えてあげるよ」

「えっ?」

えっ初対面のやつとそんなことする?あっ別にそう思っているのは俺だけなのか、一年間は同じクラスだったんだから、覚えていない俺の方が変なのか。

「あれ、嫌だった?」

「そんなことない、ただ驚いただけだ」

「じゃっ書こっか」

「あ、ああ」

彼女は俺の前の席に座る。

「えーっと、じゃあ体育祭とか文化祭の思い出とか話してくれる?そこからどう書けばいいか一緒に考えるよ」

「わかった」

俺は先程の“最高“思い出たちを彼女に教えてあげた。

「んっ!ははははっ」

彼女はお腹を抱えながら、笑い出す。

「そんなに面白いか…」

流石にここまで笑われるとへこむな。

「あーごめん、ごめん!想像以上に面白かったから、確かにそれじゃ書けないのも納得だよ、けど嘘書けばいいんじゃないの?別に楽しくない思い出だとしても、楽しかったーとか適当なのじゃダメなの?」

「それもそうなんだが…」

「ん、他になんかあるの?」

「ああーー」

そして俺はあの夢の話をした。

「んー、そのプリント貸して」

俺は頷き、彼女にプリントを渡す。

彼女は雑に「文化祭や体育祭楽しかったです。みんなと同じクラスでよかったです」と書いた。

「これでいい?いいよね!」

「あ、ああ構わない」

「じゃあこれ出してきて」

「今か?」

「今!早く戻ってきてね」

俺はプリントを職員室に持っていた。

先生には「少し雑だな」と言われたが、別に俺が書いたわけじゃない。そしてまた教室に戻った。

「やっと戻ってきた〜遅いよ」

「すまん、先生と少し話していた」

「じゃあ、“本題“だね」

「本題?」

「さっき夢の話してたじゃない?私がその夢見なくなるようにお手伝いしてあげる」

「いいよ、別に…」

「そんなこと言わないでさ、私ね将来カウンセラーの先生になりたいんだ、その為の練習として手伝わさせてよ」

そこまで言われると断りづらい。

「わ、わかった」

「後、連絡先交換しとこ、その方がなにかと楽だしね」

そして俺の携帯に親以外の女子の連絡先が追加された。

「じゃっ帰るね、バイバイ〜」

「ああ、色々とありがとな」

 その日の帰り道、なぜ俺は彼女に夢のことを言ったんだろう、俺自身ほんとは誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。

そしてこの先、俺に起こることをまだ俺は知らない。



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