第29話 ブーン

 突然のことでした。六月上旬の晴れた日に目撃しました。


 その日の私は、しばらく放置していた庭の草むしりに精を出しました。足元には緑の渦巻きを置いて蚊の対策は万全です。首に掛けたタオルは汗拭き用で、すでに汗でぐっしょりと濡れています。

 とにかく暑いです。汗が止まりません。麦わら帽子を被れば良かったと思いました。草むしりの合間に取りにいくことはできます。ですが、家の中の心地よさに負けて、部屋で大の字に伸びている自分の姿が目に浮かびます。

 辛いことは一気にやり遂げる気概が必要です。固く心に誓ってタオルで顔を拭います。汗をなすり付けているような気がしますが、気分は大切です。

 一度、腰を伸ばしてトントンと叩き、元の中腰の姿勢になりました。軍手を嵌めた手で纏めて雑草を引っこ抜きます。

 遠くから微かな音が聞こえてきます。こちらに近づいているようでした。その速度はとても早く、低いブーンという音にビクッと肩が上がりました。

 私は瞬間的に真上を見ました。黒と黄色の縞模様しまもようで十字架のような物体が飛んでいました。滑らかな弧を描いて木々が密集するところへ突っ込んでいきました。時間にすると三秒くらいでしょうか。

 今年、初めてみたオニヤンマでした。凄い迫力です。羽音が大きくてびっくりします。私の家の近辺では宅地造成が進んでいます。でも、あの雄姿を見ると、まだ自然は守られていると実感できます。

 来年、再来年、オニヤンマを見ることはできるでしょうか。


 今日も暑い日になりました。窓から覗く青空を見て、ふと思ったことを綴ってみました。

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