Jitoh-27:選定タイ!(あるいは、台場モンド/セカイ/ピアチェーヴォレ)
そして。遂にこの日がやって来たわけで。
レンタルした七人乗りミニバンに結構な荷物を何とか詰め込んだ俺たちは、あきる野から圏央道、八王子JCTから中央自動車道で高井戸、そこから首都高速を南下してようやく目的の地、台場へと降り立つことと相成ったのであった。途中で休憩を挟んでJから運転を代わり、時間にして二時間半、長いようで短い出立は完了したわけだが、勿論ここからが始まりだ。
「……」
台場にカジノがあるのは知っていたが、見るのは初めてだ。馴染の無い淡い潮風に吹きっ晒されながら屹立していたのは、見上げるばかりの……本当に間近に行ったら首どころか背骨まで曲げ逸らさなければ全容を窺うことの出来ないほどの高さの、のっぺりとした白い巨塔……が六棟。おそらく上空から見たら星型あるいはペンタゴン型に配置されているのだろう、ひときわ太く高く天を突いている中央の建物から放射状に周りの五つに向けて空中回廊が伸びている。
他の面子と荷物をその近場に降ろして、駐車場にミニバンを置きに行く。辺りには「それ」と思われる他の参加者たちがまばらに散っているのが見て取れるが、カジノ自体の本番にはまだ早いこともあって、閑散とした感じだ……本当にここでやるんだろうなあ……湾岸の風を浴びながら、スペースの取り方がいちいち余裕のあるそこかしこの風景に何とはなしに目をやりながら思う。と、
「でかいですタイなぁ……」
戻って来た俺に言ったわけでは無いだろうが、脊椎が喋らせているのかと思わせる要らんシンプル感想をそのでかい体躯から繰り出して来たのは例のJ川専務であったものの、その口調は凪いでいるが漲っているという不思議ながらわずかに頼もしさを感じさせるものであり、まあいい感じの気合いノリじゃねえかとちらと横目でその姿を目に収めてしまった。
それがいけなかった。
「……!!」
運転中の恰好は確かに無駄に糊の利いた水色つなぎだったはずだが、その下に着込んでいたか秒で着替えたのかは定かでは無いし定かにする意味は毛ほども無いものの、胸元が大きく開いた光沢のある真っ白なジャンプスーツがその筋肉のひと房ごとを強調するほどにぴちぴちに貼り付いている……ズボン部の裾はこれでもかと末広がっており、袖の部分一帯からはびっしりとヒラヒラのフリンジが多分に静電気を孕んでもわもわと展開しているという、万人が「プレスリー」を想像しろと言われたら思い浮べるそのイメージをxyz三軸に極限まで伸ばしひん曲げた末に現れる、現実には現れてはいけない類いの巷の職質レベルを軽く跨ぎ越してくるであろう何かは分からないが何らかの被疑者であることに疑いを抱かせてこない事は確定であろうところの、例えハロウィン時であろうと自宅の庭に出現したのならば
何より本人のテンションがフラットであるところが根源的に怖ろしいが、それも気合いの顕れと無理やり吞み下して、おそるおそる上げていった目線が巨顔にびっちりと嵌まりこんだミラーレンズのごついサングラスに焦点を結びそうになったところでくいと視界を彼方へ離脱させることは出来た。が、その先には、
<最大級規模のこの『シーゼアー』だが、この素っ気ない外観こそが、中身の猥雑さを隠し込んでいるようで逆に卑猥とも言えるな……>
いやいや。
何かまた今日はひときわダンディーな声色だが、そのいつも通り等身大の車椅子にしなだれかかる細身を包んでいるのはこれまた白銀のエルビスィックスーツであり、貧相な体躯の奴が着ると痛々しさが否応増すものの、今日の為に俺も手伝ってバリバリのチューニングを施した右手側に設置された鉄腕にもヒラヒラがいつの間にか貼り付けられているのを見るにつけ、嗚呼……としか頭に浮かばなくなる俺がいる。と、
おらリーダーの分やで、と、昨日からちょっと俺に対する当たりがキツくなったような国富が、空状態の俺に無造作に手渡してきたのは、広げて見なくてもその形態が予想されるところの畳まれた衣装なのであって。しかも全体的に赤いよ何これェ……
ばかやろう俺たちゃロックンロールのムーブメントを起こしにきたわけじゃねえぞと抗議しかけるものの、詰め寄りかけた俺の目の前で着込んでいたジャージの上のジッパーを勢いよく下ろしばっと広げてみせた下にはやはりの漆黒のジャンプスーツがあったことは予測出来てはいたのだが、その割り広げられた胸元から甘酸っぱい果実のような香りと共に覗いた練色の果実をふたつ寄り沿わせたような双丘は想定外であったため俺の全神経はフリーズする。勝ち誇ったかのような見下すかのような視線は、それ以外の何かも含んでいるように思えたが、
「あ……私選んだんですけど、リーダーは赤ってイメージだったから……だめ?」
思わずその天上のミラノバ(意味は不明)のような声に振り返ると、そこには同じく羽織ったジャージのジッパーをじれるようにおずおずと下ろしながら、天使が御みずから、そのたわわさでは国富の双果実を凌駕するほどの質量存在感を有する双球をじりじりとにじり出しながらこちらの網膜に焼き付けようとしてくるのであった……
いや着るけど、と演算能力を視細胞に全て持っていかれている俺からはそんな無表情な音声が出るくらいが関の山だったが。天使のイメージカラーは水色……でも何で俺にだけこのコスが伏せられていたのか……昨日のことから俺はハブられ始めているのか……?
背後からこれ聞こえよがしな国富の舌打ちが響く中、案内もまるで無い出迎え方に不穏さをさらに増されながらも、鉄腕の先導に従い、「塔」のひとつのエントランスをくぐると巨大なエレベーターで一路「地下」を目指す。
結構くだったが、こんなに地下ってあったっけか……と思う間もなく、割れた扉の向こうには、絨毯敷きの廊下を挟んでまた重厚そうな両開きの防音性高そうな扉があって。両脇に控えていたこれでもかの黒服の両名が引き開けた、その先には。
「……!!」
歓声と怒号が包むように響き渡る、とんでもない大空間があったわけで。
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