Jitoh-13:非情タイ!(あるいは、リフレしようね!/膠着カステェッロ)
体育館の全域に、遠巻きにこの試合を見守っていただろうギャラリーからの押し殺した歓声なんだかため息なんだかが一拍遅れで広がっていく。
かくいう俺も喉奥から自然と「ぐう」の音を不本意ながら漏れ出させていたわけなのだが。
野郎の二・三・四投が終わり、局面も混沌は混沌してきたんだが、俺らに利するところなど全く無さそうなその混沌具合に、急激な「どないしよ」感が脊椎を駆け上がってくる。
いまや
……それが出来たら神業だ。かたや白球だけに当てて緑包囲網から外に出そうとするにしても相当厄介な「壁」に見えるぞ? ピンポイントのコントロールが要求されるんじゃねえかよ?
いや、その危惧もそうだが。ひとつ確認しとかなきゃならねえ。
「……ボールの材質とか重さってのは自由なのか?」
流石にほぼほぼ全精力を使い尽くしたのかそれとも回復に努めているのかは分からねえが、また車椅子のシートにもたれしなだれかかるような格好で息を荒げている鉄腕の野郎に向けて言葉を放ってみる。と、
<外側の材質や中身が何ということは定められていないが、重量は275グラムプラマイ12、周長、周りの長さは270ミリメートルプラマイ8となっている>
左掌だけは雄弁にそうわしゃわしゃ動くと、そんな詳細説明が返ってくる。よくそんな細かい数字までぽんと出てくるもんだ。が、
「……白を弾いた奴はだいぶ重かったみてーだがよぉ?」
<ああ、事前にキサマらにも一応『この特注の
何か笑いを含んだ声で返されたんだが。確信犯ってことかよ。何が「神聖なる」だよ。ってなことは頭に浮かんだは浮かんだが、それよりも頭に引っかかってる事がある。
「何かよぉ……そういうことを敢えて見せてねえか? 俺たちに」
俺の方は確信があって問うたことでは無い。ただ何となくこいつが目指しているところはこの「ボッチャ」では無いような気がしていた。いや、ボッチャはボッチャなんだが、「普通のボッチャ」では無いというか。なんかもやもやしてうまく言葉には出来ねえが。
車椅子のところから、壮年声ではなく喉から絞り出すような空気音が二度三度漏れてきたのが聴こえたが、笑ってんのかよ。読めねえなほんとに。
<キサマはいろいろと勘が鋭い。場も見えているようだ。売られた喧嘩を混沌でまぜっかえして今このような『試合』らしきことを繰り広げたりしているが、その運び方も大したものだ。相方のフィジカルも捨てがたく思えてきたし、ここでこう逢ったのは運命かも知れんな……>
得てして得体の知れない奴からほど意味不明であるところの好意だとか全幅信頼とかを寄せられがちな俺ではあるが、それがこいつに対しても遺憾なく発動したというわけか。ありがたいのかそうじゃねえのかも判別できないまま、いや答えになってねえよと何か陶酔入った台詞めいた言葉を発し出した野郎にそう突っ込むは突っ込んでみるが、
<……この一局に集中しろ。私に勝てたらすべてを話そう>
何だそりゃ。何かもう、入っちゃってんのか? 俺ぁ別に能動的に知りたいとかってわけではさらさらねんだけどよぉ。だが、
「……」
ますますこいつをNO完膚にて負かしなめしてキャィン言わせたい欲求だけは高まってきたぜぇ……ッ!!
場に視線を戻す。的球からいちばん離れてしまったのは赤球、つまりは次の投球は俺の第三投ということになる。先ほどの鉄腕の絶技(反則技でもあったが)により、いま一度言うが「的球は三つの緑球に至近を包囲されている」……
どう攻める? どんなアプローチをすればいい?
的球らの塊があるのは場の中央から結構右寄りだ。中央ちょい左の投擲位置の俺からは
とは言え、いまだ俺に対しては、俺の方向に対しては無防備な腹を晒しているように見えるんだよなぁ……緑球に防がれているのは白球の手前・奥・右。俺から見える「左」はガラ空きだ。さっきから俺をいないものとしやがってぇ……とか思わなくも無かったが、今回はまあそこから「入城」したわけだし、空いてるのは当然とも言える。仮に正面側が空いていたとしたら、白球を弾きつつ、自球にその後を追わせて「蓋」をすることも野郎だったらやってのけたかも知れねえが、真横からそれをやるのは角度的に無理だろう。あの
とにかく
……いや「避けられた」? 俺は能動的にコトを運んではいねえ。これすら野郎の術中だったとしたら? いやいやそこまで掘り進んでみても始まらねえよ。俺がやらなかったとしてもJの字が引っ掻き回してくれてたじゃねえか。奴の二投目……相手の手球を散らしつつ、自分の球はステイさせるというそれもまた絶技、それをこの後もまた期待するっていうのなら、白球に寄せておくに越したことは無いはずだ。迷わずいくぜ。
なんか嫌な予感はしたが、それは押し込めて盤面に向き直る。大丈夫だ、今度も軌道上には邪魔球は無え。真っすぐ、真っすぐ投げる。今度も受け止めてくれる壁はあるから気持ち強めでも問題ない。ただただ精密な軌道だけをイメージしろ。
意を決して、緑球を左右後ろに従わせたかのように見える白球にロックオンする。真っすぐ、真っすぐ……
「……!!」
いい感じだ。この上なく真っすぐいけた。力はやや入っちまったかもしれねえが、このまま白球に多少強くぶつかっちまっても、副次的に後ろの緑球を向こう側に弾き飛ばせたり出来るかもだ。考え得る最良ッ!! いけぇぇぇぇぇぁぁあああッ!!
俺なりに会心な投球と思われた。実際投げ終えたその右掌を握ってしまったりもした。
刹那、だった……
「!?」
白球に予測通り当たるようにしてその至近に寄った、と思った俺の赤球が、
次の瞬間、向かって左方向に素っ気なくも跳ね返されたのであった。そう、まるで白球に拒絶されるかのように……
な……バカな、だろッ?
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