Jitoh-02:強引タイ!(あるいは、ここは異世界/うなれ大自然もののけパワー)
「あ、まあ端的にというか、すなわちのセッ」
「来い」
下手してもしなくても、応対しようとも無視しようとも、その脂ぎったデカ
「改めての申し上げとなるのだがッ!! かいつまんでのセッ」
「いや、おぉ……いいからそこ座れ」
三階建て屋上ぐるりを囲むは木々のざわめき、というなかなかに風情のあるサラウンドに包まれながらも、どうともそれが自然の持つ絶対的な力の圧迫感のように最近では感じられてきてマイナスイオンならぬマイナス思考をここに来るたびに浮かばせられてしまうものの、いつものようにそれを押し広げるために懐から取り出した高級嗜好品の一本に慎重に火を点けてから、もう真夏仕様かと思わせるほどの爽やかな洗いざらし白Tシャツをその筋肉質の身体にぱんぱんに這わせた大男に、ちゃちなベンチの今しがたまでつがいが腰かけていた多分にいやなぬくもりが残っていそうな方へ着座しろという旨を顎で促す。何を期待しているのか分からねえが相変わらず瞳孔が開き気味のそのつぶらな瞳には、何と言うかの「待ち」めいた光が宿っていて怖ろしいが……
「カウンセリングだったら金曜午後に回ってくるそうだ。明日まで待てねえっつうんなら、十三時半発のバスで駅までくだるっていう手もある」
「医者がこの手の病を治せるとお思いかッ!?」
一服ついでに端末で調べつつ穏便な回答をしてやったというのに、被せ気味に食いついてきた。そして意外と諸々を把握してそうな口ぶり。厄介さの度合いとベクトルが単に変わっただけに過ぎねえとは思うが、割と話は出来そうな感じだ。一本喫い終わるまで、と決めて俺はそいつを右目の視界ぎりぎりに入れながらとりあえず全容的なものを聞いてやってみるのもいいかと思い始めている。何より暇な身分。潰せる時は潰すに越したことはねえ。
「なんで俺」
「かなりの手練れの者とお見受けしたッ!! ついてはセックスへの、うまい持って行き方などを、教えていただくことに幾ばくの躊躇があろうものかッ!! 否皆無ッ!!」
ああ。世界で交わされる会話が全てここまで臆面なき豪直球のみで為されるのであれば、人類は差別や偏見その他諸々から解放されるのやも知れない……それと同時に途轍もないピーキーな混沌が展開するかも知れねえが……それより何より俺とこいつの会話の相性は最悪だ。どちらかがどちらかを遮ることでしかキャッチボールが出来てねえ。なぜ二人しかおらんのに互いのインターセプトを虎視眈々と狙うような履き違えコミュニケーションを続けないとあかんのか……少し落ち着け。次の講義は昼挟んでの二時間後くらいだ。落ち着いてせめて会話の体を成り立たせるところから始めていこう……
「なんでセック」
「愚問かッ!? したくない男がどこにいると? したくても出来ない、ゆえにしたさは否応募り吊り上がるッ!!」
駄目だ。即応過ぎる予測変換を先に脊髄へと送り込んでいる感じで俺の言の葉は空気を振動させるその一歩前で逐一潰されていってしまう……それにしても大分興奮してきてるよ下手に刺激したら人目も無えし俺の身が危険だよ……との考えに至り、ままならないこのやり取りを何とか軌道修正しようとさせる常日頃なら無駄に思える一手を繰り出さざるを得ないのであった。
十秒間何があっても口を開くな開いたら俺はもう二度と喋らない、と俺にしては結構な早口でまくしたて、とりあえず大男のがっつきを抑える。巨顔に押し込めた無言の中にまた変な期待感が否応増しているかのようで面倒だが、そこはしょうがない。
「こっちも直入でいかせてもらうが、お前は『セックスがとにかくしたい、その上でその
俺の言葉を今度は言葉で遮るということは無く、だが代わりにでかい鼻穴をおっぴろげつつ、ふんふんと首を横に振ってきやがった。違うのか? じゃあ何だよ喋れと促す。
「セックスに持ち込める『場』は既に得ているわけであり……その上で伏してお願い申し上げるのでござる……いい感じの『セックス場』へと持ち込める手練手管を……ッ!!」
いやぁ……初めて聞く言葉が出てきたな……それに伏しては無ぇし……いや、それより何より気になるのは。
「『場』っつうのは」
「週末、『
こいつ……そんな乾坤一擲の引きを……ッ!! うちみたいなド底辺とつるもうなんて他大なんて皆無と思っていたが……「氷川福祉大」がどの程度のレベルかは知らねぇ。だが女子と触れる機会がほぼ無い俺らにとってこれは正にの僥倖……とんでもない奴に絡まれたと思ったが、これは俺の灰色の青春に舞い降りた……千載一遇の機会かも知れない……
学内にも女は一応いる。しかして男女比は9対1。さらには圧倒的需給バランスを逆手にとっての自意識の高さだけが鼻につくいけ好かないメンタルを多かれ少なかれどの女も持っているわけで。そう、例え何喰う為に進化したんだよ的なガラパゴスもびっくりのガタッ歯でも、屋外実習の際もがっつりメイクで顔と首がツートンカラーの鳥ガラみたいになってるのでも、さらには異世界から逆転移してきたと思われるオーク
「外」での出会い。それに賭けるしか、俺の青春は開けない……ッ!!
急速にやる気が出て来た自分に逆になかば一歩引きながらも、俺はそいつの言葉に耳を傾けようという気にはなってきている。
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