鮮血のメリークリスマス VS 退役軍人

ちびまるフォイ

良心をもった殺人鬼

世は静かなホワイトクリスマス。


とある湖畔のログハウスが格安で泊まれるということで、

1も2もなく飛びついた宿泊客はまだ知らない。


そこのログハウスで泊まった人間がこれまで誰一人として生きて帰れなかったことを……。


※ ※ ※


キャンプ場のはずれにある地下室では殺人鬼の兄弟が準備を進めていた。


「今年もこの時期が来たね、兄さん」

「鮮血のクリスマスを届けてやろう」


壁にはこれまで狩ってきた人間の生皮が吊るされている。

頭蓋骨にはろうそくが立てられインテリアの一部。


人間狩りをする今日の日のために鍛え上げてきた体は武者震いし始める。

殺人鬼兄弟は刃物を磨き終えると、寝しずまった時間帯にログハウスを訪れた。


ギシ、と床をきしませながら勝手知ったるログハウスの中を進む。


2階にたどり着くと、布団めがけてマチェットを振りかざした。


「デス・メリークリスマス!!」


殺人鬼はマチェットを振り下ろした。

しかし、声に反応されて布団から猛スピードで中身が逃げ出した。


「敵襲!! 敵襲ーー!!」


襲われた老人は暗闇で何も見えないにも関わらず、

殺人鬼へとタックルして倒し顔面に無慈悲な連打を浴びせかける。


「ちょっ……! 待っ……!!」


「この腐れ敵兵めぇぇぇ!!!」


「敵兵!? え!?」


容赦ない殴打に殺人鬼のマスクの下は血まみれになった。

マウントポジションでボコボコにされる兄を見て弟が助けに入る。


そのわずかな足音に反応した老人は、弟の刃物をかわしてしまう。

その身のこなしはもはや常人ではない。


「なんだよこのじいさん!?」


暗闇に紛れた老人の方からガチャリと金属音が聞こえた。

次の瞬間、四方八方から発砲音が轟いだ。


「ぶっころせーー!!!」

「祖国に栄光を!!」

「腐れ敵兵をぶっころすのじゃーー!」


1階からも雨のような銃弾が降り注ぐ。


殺人鬼の兄と弟はたまらずログハウスから逃げ出した。

ぼろぼろになりながら根城に戻ることができた。


「な……なんとか逃げ切れた……」


「あいつら……いくら森に逃げても……どこまでも追ってくる……」


「頭いかれてるよ……なんなんだよぉ……」


危うく鮮血のメリークリスマスを自分の血で彩る結果になりかねなかった。


「兄さん、宿泊名簿を見てよ」

「これは……」


「今回の宿泊客は、第100次異世界大戦の退役軍人の慰安旅行だったみたい……」


「うん……もうね、あの動きからしてプロだなって殴られながら思ったわ」


「あんなのに勝てっこないよ。あの目は完全に戦時下の狩人の目をしていたもの」


「俺たち殺人鬼よりもずっと多くの人を殺めている風格遭ったよな……」


殺人鬼兄弟の主要武器であるマチェットも、

退役軍人たちが寝ている間も手放さない散弾銃に比べればおもちゃも同然。


戦闘訓練を受け、地獄すらぬるいほどの煉獄を生き抜いて帰還した彼らに対して殺人鬼は赤子同然だった。


「兄さん、こんどはもっとちゃんとした人を狙おう」


「……そうだな。クリスマスに浮かれているティーンエイジャーにしよう……」


退役軍人たちからの猛反撃で肉体的にも精神的にも大ダメージを負った2人は、

持っていた殺人宿泊名簿をもとに若い人が泊まるキャンプ場のログハウスへと向かった。


ギシ、とまた床をきしませながら寝室のドアを開ける。


殺人鬼は山なりに膨らんだ布団を前にマチェットを振り上げた。


「デス・メリークリスマス!!」


その瞬間、声に反応したスピーカーAIがすべての照明の電源を入れる。

殺人鬼兄弟の目がくらんでいると、タンスやベッドの下に隠れていた男たちが飛び出してくる。


「すげぇ!! まじで殺人鬼出たぞ!!」

「捕まえろ!! これはバズる!!」


男たちは3Dプリンタで作り出したプラスチック銃を手に取り、

FPSゲーム感覚で殺人鬼めがけて躊躇なくヘッドショットを決めていく。


「逃げたぞ!! 獲物を逃がすなーー!!」


たまらず逃げた殺人鬼兄弟を男たちが追いかける。

この配信を見た人たちはキャンプ場へと押し寄せ、殺人鬼を探すかくれんぼへと発展。


静かな湖畔のキャンプ場にはドローンが飛び交い、

恐怖がごっそり抜け落ちた若者による殺人鬼探しが昼夜問わず行われた。


隠れ家になんとか戻った殺人鬼兄弟は恐怖に震え、すぐに荷物をまとめた。



「兄さん、早く逃げよう!! この世界の人間はみんな狂ってる!!」

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