夢の終わりがあまりにも悲しく、胸を締め付けるような演出が見事でした。
深酒は夢と現実の境界すらも曖昧にし、一時の幸福を与えてくれます。しかし、それは所詮かりそめのもの。酒が辛さを忘れさせてくれるなんて大嘘で、時が満ちれば誰もが否応なしに素面へと引き戻されるのでした。
作中でオマージュとして用いられている「線路と死体」はS・キングの名作『スタンドバイミー』から持ってきたものです。映画化もされたこの作品が読者に教えてくれる真理、それは「最良とは、そうである時には気付かないもの」
そう、振り返って見た時に初めてわかるのです。あの時こそが人生の最良であったと。
しかしながら、人は過去を振り返って思い出に浸るだけでは生きていけません。思い出とはただ懐かしみ、感傷を味わうためだけのもの。それを独特な……何とも俗っぽい手法で表現してくれたオチも大好きです。
夢で泣かせ、それからしっかりと現実に叩き返す。
それはつまり主人公の趣味である飲酒映画鑑賞のようなもの。
この小説は人生において大切なことを読者にも疑似体験させてくれるのです。
感動だけでは終わらない独特な深みを持ったアトラクション。
ぜひ堪能して下さい。