第107話 女の子同士、至福の湯浴み
外の
そんな中、宵と光世、そして下女の
湯気こそ立ち込めているが、風呂場と言っても、ただ室内に大きな木製の桶の湯船が置いてあるだけの簡素なものだ。そして湯船の脇には兵士が1人。湯船の底にある
「あの兵士は、もしかして私達が入浴中も居るんでしょうか? 姜美殿」
竹筒で火を吹いている兵士を見ながら、心配そうな表情で宵が先導してくれた鎧兜を纏った姜美に問う。
「まさか。御二方が裸になる前に出て行ってもらいますよ。安心してください」
「ですよね。でも、そしたら途中の火加減の調整はどうしたらいいですか?」
「私がやります。清華は2人のお身体を洗ってあげなさい」
「承知致しました」
姜美の指示に清華は素直に頷く。
「えー、清華ちゃんも一緒に入ろうよー」
しかし、それに異を唱えたのは光世だった。
「いえ、光世様。あたしも入りたいですが、この狭さだとお2人でいっぱいになってしまいますし……」
確かに3人が同時に入るには狭過ぎる湯船だ。もともと2人用に作られたものなのだろう。
「火は私が見ていますから、3人で入るならどうぞお入りください。私は構いません。身体は3人で交互に洗えば良いでしょう」
姜美はそう言うと、湯船の下の薪に竹筒で風を送っていた兵士を下がらせた。
「姜美殿、私達だけすみません……」
「お気になさらず。軍師殿。御二方にはこれから
「……では、お言葉に甘えて。傷が治ったら一緒に入りましょうね、姜美殿」
「ええ」
宵の誘いに、姜美は嬉しそうに微笑んだ。
♢
3人の女は閻服を脱ぎ、そばに用意されていた行李の中へと畳んで入れた。
若い女の裸体が顕になる。清華は長い黒髪を髪留めを使って高い位置で団子のように纏めていた。普段見えない清華の
一方の姜美は黒い鎧兜を纏ったままの姿で竈の前にしゃがみ、3人の裸体を興味深そうに眺めている。女同士ではあるが、男のような格好の姜美に凝視されると妙に恥ずかしさを感じる。
その視線を避けるように、宵は胸と股を手で隠しながら姜美に背中を向けた。
だが、光世と清華は、姜美の視線を気にする素振りはない。身体を隠しもせず、堂々と豊かな胸を揺らしながらお互いの身体をしげしげと見てキャッキャとはしゃいでいる。光世も清華も掴んだら掌から少し溢れるくらいの大きさの胸ではあるが、掴む事すら出来ない宵の絶壁の胸よりは遥かに良い。
同じなのは、胸のアクセントの桜色と股を彩る黒い飾りだけだ。
「じゃあ一番風呂頂き〜!」
踏み台に上り、上機嫌に湯船へと入る光世。
「あぁ……!! 最っ高!! 気持ちいいー!!」
「宵様、お先にどうぞ」
気を遣って清華が先を譲ってくれたので、宵はモジモジしながら踏み台に上る。
「宵様ー身体隠してちゃ危ないですよー。女同士なんだから大丈夫ですよー」
清華に言われ、宵は覚悟を決めて身体を隠す手を湯船の縁に置いた。
すると、目の前で宵の身体を物珍しそうに眺めている光世と目が合う。
宵の生まれたままの姿はついに上から下まで親友に見られてしまった。
「な……そんなに凝視しないでよ、光世」
「恥ずかしがり屋だなぁ宵は」
光世は気にした素振りを見せず湯船の端に寄ってくれた。宵はゆっくりと足を熱い湯に付けると、そのまま光世の正面に座った。湯船の底は鉄製のようだが、
2人が入っただけで中の湯はドバーッと溢れ出た。身体に染み渡る熱い湯が、宵の疲れや不安を吹き飛ばす。
「うはぁ〜気持ちぃぃ〜! ねぇ光世、もっと脚引っ込めてよ」
「えー、いいじゃん別にー」
「ただでさえ狭いんだから……」
「宵も私の脚の間に脚入れていいよ」
「え〜」
光世の脚は膝こそ折っているが、それでも宵の太ももの辺りに触れている。光世の提案通り、片脚をお互いの脚の間に交互に置いた方が楽ではあるが……
「ほれほれ宵ちゃんもっと堂々とせんか〜」
「や! ちょっと光世……! やめて……! くすぐったい……! あははは」
いつまでもナヨナヨしている宵の腹を光世の脚の指先が器用にくすぐる。
耐えられず宵は水中で足をバタバタさせて悶える。
「あの……すみません、寒いのでもう入っていいでしょうか?」
2人がイチャイチャしているせいで、裸のまま湯船の外で待たされている清華が痺れを切らして身を乗り出した。
大きな胸が淫靡に揺れた。近くで見ると光世より少し大きい気がする。
「ごめんごめん、宵イジめるの楽しくてさぁ〜、入っていいよー」
光世が笑顔で言うと、清華は「やったー」と笑顔で2人の隙間に滑り込んで来た。さらに湯は溢れる。
「御2人とお湯に浸かれる出来るなんて幸せです!」
さぞかし嬉しそうに清華がはしゃぐ。清華の綺麗な脚が宵と光世の交差する脚の下に収められた。
お互いの顔の距離は30cm程。かなりの至近距離である。
「私も嬉しいよ。3人で湯浴み出来て。姜美殿、今度4人で入る時は、もう少し大きな湯船をお願いします!」
「分かりました。4人が入っても余裕のある湯船を作らせておきます」
姜美はそう言うと兜を脱ぎ、竹筒を手に取り、湯船の下の竈の火を吹いた。
「それにしても宵様のお胸。あたしの幼少期の頃の胸の大きさと同じくらいなのに、ちゃんと大人の身体をしていて驚きました」
「むっ!? 幼少期と……同じ!?」
「ちょっ!? 清華ちゃんやめたげてよぉ。それ10割悪口じゃん」
清華の歯に衣着せぬ物言いに光世は引き攣った口元を手で覆う。
「悪口じゃないですよぉ! ペッタンコでもちゃんと大人の女性のお胸だし、下の方もちゃんと──」
「清華ちゃん? 沈めてあげよぉかぁ!?」
「ちょっ! 宵! 狭いんだから暴れないでよ! お湯なくなっちゃう!」
泣きそうな目をした宵が清華に掴み掛かろうとするのを光世が止めに入る。そんな時も光世と清華の胸はフルフルと揺れているが、宵の胸だけは微動だにしない。
すると、3人の様子を黙って見ていた姜美がクスリと笑った。
「まるで仲の良い姉妹ですね……でも、時間を忘れて長湯すると釜茹でになってしまいますから程々に」
その姜美の言葉に、宵はピタリと動きを止める。
「釜茹で……」
ポツリと呟いた宵を見て光世は目を細めた。
「……どした? 宵?」
「いや、何でもない」
宵の様子を見て、機嫌を損ねたのかと不安そうな清華が口を開く。
「お気を悪くされたのならごめんなさい、宵様。胸を大きくする秘訣は胸に適度な刺激を与える事ですよ」
「……5年くらい自分でやってるけど……これだもん」
「「え」」
宵の発言に光世と清華は同時に驚きの声を漏らす。
その反応を見て、言わなくて良い事を言ったと気付いた宵は、静かに肩まで湯に浸かり口を押えて黙り込んだ。
「だ、大丈夫ですよー宵様! あたしも自分の胸揉みますし! 恥ずかしい事じゃありません! 普通です! 普通!」
「清華ちゃんアンタもう喋るな」
清華の空気の読めない発言に光世の的確なツッコミが入る。
「宵様ごめんなさい、怒らないでください」
しょんぼりした清華に謝られた宵はすぐに笑顔を見せる。
「怒ってないよ。せっかく楽しい時間なんだから、のんびりしよ」
「そうですね!」
宵の優しい言葉を聞いた清華にも笑顔が戻った。
この世界の暮らしは楽しい。
だが、いつかは元の世界に戻らなければならない。
それが宵と光世の
清華や姜美とも別れなければならない。
でも、今は忘れよう。
今はこの楽しいひとときを堪能し、
自分が味わったこの幸せを、閻の民が平等に味わえるように。
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