第5章 葛州攻防戦
第76話 軍師としての一大プロジェクト
姜美と共に、と言っても、今回宵は姜美の馬の背に揺られているわけではない。自ら1頭の馬の手綱を取ったのだ。栗毛の可愛らしい
しかしながら、まだ乗馬に慣れない宵は馬を
李聞の陣営に着くと、宵は数週間ぶりに見る男の顔を見つけ馬を飛び下りた。
「
宵は楽衛の優しげで勇壮な顔を見ると嬉しさのあまり駆け寄りその両手を握った。
「うわ!? ぐ、軍師殿!? な、何事です??」
謎に元気過ぎる宵のスキンシップに動揺した楽衛は、顔を赤くして目を泳がせた。
周りにいた兵達は宵と楽衛の様子を目の当たりにしてブツブツと文句を呟く。
「あ! ごめんなさい、久しぶりに楽衛殿に会えたのが嬉しくてつい」
「それは光栄です。私も嬉しいです……が、軍師殿は“
「そんな事気にしないで! 私と楽衛殿の仲じゃないですか! ところで、私の“例の陣形”は習得出来ましたか?」
「はい、軍師殿の満足のいく出来になっているか分かりませんが」
「楽衛殿を信じますよ! さ! 早速軍議をしましょ! あ、こちら
「どうも」
いつの間にか馬から降りて隣に立っていた姜美を宵が紹介すると、姜美はクールな表情で楽衛へ拱手した。
「楽衛と申します。姜美殿、どうぞお見知り置きを」
楽衛も礼儀正しく拱手して応じた。
それを見ると、姜美はすぐに踵を返した。そして自分と宵の馬を
「美しい方ですね」
「え? だ、男性ですよ?」
まさか楽衛は姜美を女と見抜いたのかと思い、宵はすぐさま男だと強調する。
「……そう……ですか」
しかし、楽衛は納得していないのか、首を傾げながら姜美の後ろ姿を見ていた。
♢
議場となる幕舎の中には、総大将の
遅れて姜美、楽衛、そして宵が中に入る。
軍師である宵は、李聞の隣に立つ。すっかりこの位置も板についたものだ。以前のように自分なんかがと思う事もない。今は頭に
「軍議を始める」
李聞の合図で
「まずは現在の我が軍の状況を整理する。
指名された張雄は一歩前へ出た。
「申し上げます。まず、本陣営ですが、兵の数歩兵1万7千。騎兵2千。本日楽衛殿が率いる歩兵2千5百と騎兵5百が加わり、合わせて2万2千。そして、隣の姜美殿の陣営に騎兵5千。さらにここから北へ十数里の地点に
張雄は正確に全兵数を報告した。宵が張雄に出会った当初は自軍の事を把握していない無能将校であったが、今はその面影はなく、いつの間にかしっかりとした将校へと成長していた。
「補足しますと、北東の
「よし。今動員出来る兵力は合計5万2千だな。では
李聞が言うと今度は成虎が一歩前へ出た。
「はっ! 軍師殿の間諜の報告によりますと、
「うむ。武器、兵糧は問題ないか、
若い将校達が報告をする中、最後に指名された李聞と同じくらいの歳の龐勝が前へ出た。
「はっ! 武器、兵糧共に
「うむ。兵力はこちらが上回り武器、兵糧も万全。私が見る限り、
「御意!」と将校達は威勢のいい声で応えた。
「では、早速、軍師に砦、及び景庸関攻撃の策を訊く事にする。いつも以上に軍師の顔に闘気を感じる。きっと素晴らしい策があるのだろう。皆心して聴け」
李聞が言うと、将校達は皆宵に注目した。
宵が元の世界で夢に見た軍師としての仕事。これまでは生き残る為に仕方なくだったり、軍師としての覚悟が決まらぬまま献策させられてきたが、今は違う。
軍師として戦に身を投じる覚悟を決めた。十分に考える時間も貰えた。もう戦う事に迷いはない。軍師として
これは宵の社会人としての一世一代の大プロジェクト。そのプレゼンテーションの場。責任は途方もなく重大だ。が、それが軍師となった宵の仕事。
「では、僭越ながら申し上げます」
宵は胸の前の羽扇を撫でた。いつの間にか、それが献策する際の癖になっていた。
将校達は信頼の眼差しで宵を見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます