冷凍の夢

@Yomuhima

第1話

アタシ達はその人の事を大切に思ってた。


その人は治らない病気になってしまった。アタシ達は泣いて悲嘆にくれながら日々の生活をして、その人の看病をした。

 寒い日の夕方だった。治らない病を癒す方法がある事を知った。


ある研究者の論文だった。

人の細胞を破壊せずに瞬間的に冷凍すれば未来の治療を受けられる。SFで言う所のコールドスリープの実用化の目処がたったと言う。

アタシ達は話し合って決めた、あの人を助けよう。


私は、車を運転した、アタシは車椅子でその人を運んだ。

分厚くて大きな扉だった。広くて暗い場所だった。黄泉平坂、何故か神話を思い出した。


カラカラと車椅子の車輪は回る。


与えられた部屋の前でその人はアタシを振り返って言った。

何をするの?

私は微笑んで、病気を治すと告げた。


怯えていた。嫌だ1人も寒いのも嫌だ。帰りたい。家に帰ろうと、椅子を押す私の手に縋った。



私はその手をしっかりと握って引き剥がした。




会えなくなるのは辛いけど、貴方にとって元気になるのが一番良い事だから、今は我慢して欲しいと言いながら、死に物ぐらいで縋ってくる手を、暗くて寒い小さな部屋に押し込めた。

扉を閉めようとした時に内側から必死で伸ばされた指が、分厚い扉に挟まれて細く開いた隙間から叫び声と嫌だ助けてと聞こえた。少し戸を押す力を緩めると指は内側に消えたけれど、爪と血がこちら側にぽろりと剥がれ落ちて靴の爪先に当たった。

悲鳴は、鉄の扉が閉まり気密を上げるバルブを回すと同時に断ち切られる。

耳が痛い程の静寂の中で、私の息遣いとワタシの心音だけがうるさい。

アタシ達は大切な人にあえない悲しみと寂しさと、良い事をした満足感を胸に、来た道を引き返した。


その後暫くはがらんとした部屋でぼんやり過ごした。あの悲鳴が耳に聞こえる時はあの人が送るであろう私達の居ない未来の幸せを思った。



私はアタシは、あたしワタわたくし、あああぁああなんて事、なんて事をしてしまった。あの人をあの人がころしたコロシタ死んでもう居ない。


コールドスリープは失敗だった。説明会で安全が保証されていると聞いて縋ってしまった。SFは小説の中だから成立する。信じてしまった。あの人に何も言わずに決めて1人で自己満の中で突き放して、爪を剥がされて最後の時、冷たい暗い棺のような子部屋でアタシ達からの拒絶と悲しみと痛みの中でジワジワ指先から冷えて凍ってしんだ、シンダ死んでしまった。

いいや、ワタシが私がころした。


騙された、騙した奴らが憎い、すがるものを騙すのはさぞ容易い事だろう、腸をを引き摺り出して蝶々結びにした挙句錆びたまち針で裂いた腹を止めてやりたい程。ああ、アイツらを許す事は出来ない。


もうあの人の未来は無い、愚かな私が間違えたから、大切な人を殺した私は、悲しむ事すら烏滸がましい。騙されたから被害者?馬鹿馬鹿しい。縋って嫌がる手を引き剥がした、生々しい温もりを知るのはアタシだ、不安がるのを連れ出したのは私だ。


あの人の懇願を聞いて止まる事が出来るのはあの時のアタシ達だけだった。あの悲鳴がこだまする。


身体を保つ事が出来ない。ガタガタ震える。関節が消えたかのように座り込む。

復讐するならまず愚かな自分から苦しんで消えろ。次に卑劣な詐欺師達を次に無能な医師をワタクシタチを囲む全てが復讐の対象。だけれど順番を間違えてはいけないし、報復の重さも間違えてはいけない、私に最も重い罰を、詐欺師達にも同じくらいの罰を無能な医師達にも、あぁ泣いて良いのは死んだあの人だけだ。少し待っていて。誰も許さない。


アタシは私はワタクシタチはあの人の復讐をする

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