第41話『休息が必要なとき』
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選挙は延期という形で行われることになった。
そして無事に投票日を迎え、『推進派』の敗北によって幕を閉じた。つまり、魔法技術の研究は未だ続けることが可能になり、リリーもマーガレットさんも無事に魔法を学び続けることが可能になった。
これにてマリナさんの護衛任務も無事に終了。
今は俺とリリー、そしてフェルトの三人でマリナさんを見送っている。
事務所の前にと止まっているピアノブラックに輝くリムジン。その前に、上品にマリナさんは佇んでいた。
「サカイ様、この度はわたくしの護衛をしていただき本当にありがとうございました」
「いえいえ、これも仕事ですから。むしろ色々と危険な目に合わせてしまい申し訳ありませんでした」
「そんなことはありません! あのような危険な状況にあっても、わたくしを守ってくださったことに最大限の感謝を送ります」
「最大限の感謝……?」
いったいどんな感謝をされるんだ? 最大限ってくらいだから、報酬はたんまりといただけるってわけ? まぁ、今回は大変だったからな。沢山もらってもバチはあたらないよね。
「サカイ様、本当にありがとうございました」
そして、頬にちょっとだけ暖かい湿った感覚。
え、ちょっと待って。俺、今なにされてるの? なんでマリナさんの顔がこんなに近くにあるの? いやいやいや、ちゅーされてんじゃん俺!
「な、なぁ……!! さ、サカイ、さん」
そんな途切れ途切れのリリーの声が聞こえると、マリナさんは俺から離れる。赤みがかったその顔はなんだか色っぽくて、女性として意識してしまうには十分すぎる破壊力があった。
「ふふ……また何か依頼することがあれば、そのときはよろしくお願いしますね!」
「は、はい。どんな依頼でも、俺たちは承ります。なぜなら、俺たちは何でも屋のジェネシス。何でもするから何でも屋、なんですから!」
「はい! それでは、また会いましょう」
「分かりました。いつか、必ず、また会いましょう」
そしてマリナさんはリムジンに乗り込み、俺たちジェネシスの事務所から去っていった。
色々とあったが、任務を無事に終えることができた。
ルビーちゃんはロディの奴に送ってもらってるし、あいつが帰ってくれば本当に何もかもが終わることになる。怒涛の襲撃ラッシュを乗り越えた先には、安寧の暮らしが待っている……のだろうか?
確かに、フォートレス=ホークとかいうデカブツを落として、そん中から出てきた黒い獣を蹂躙し、その後の後処理も済んで、これ以上の襲撃は無いと判断できるほどの時間も経った。
だが、解決していないことが一つある。
ヘーレジア。
フェルトも、この俺も、そこにいた存在だとフェルトは言った。
そもそもヘーレジアは名前だけがふわふわと浮いている存在自体不確かなもので、その詳細は何も分かっていない伝説上の存在。生き物なのか、無機物なのか、大きさはどれほどのものなのか、定かではない。
あの思い出した記憶の中にあった黒い獣に襲われているあの場所。あれがヘーレジアの中ならば、きっとヘーレジアは建物なんだろう。しかも、姿を消す不可思議な力を持った。
「サカイさん!」
「ん? どうしたリリー」
「どうもこうもないですよ! なにマリナさんにちゅーされてるんですか!」
「お、おう、そうだな。俺もビックリしちまったんだが……ま、男として女に好かれるのは決して嫌なことではないというか」
「はぁ……そうですよね。でも、サカイさんがマリナさんのこと女性として好きになっちゃダメですよ!」
「なんでだよ?」
「なんで、って……その、サカイさんは、今は恋愛に現を抜かしている場合ではないからです!! ね、フェルトちゃん」
「はい。ナオシさんは仕事に集中するべきです。今が稼ぎ時なのですから」
フェルトの対応が冷たいな……。まぁ、あんなことされちゃあねぇ。しょうがないことだろうから諦めるけど。こういうときは甘いものでも食べさせて機嫌を直してもらおうじゃないか。
「ま、でも今は休息が必要じゃないかな。じゃ、ロディが帰ってきたらみんなで甘いものでも食べに行こう。もちろん、俺のおごりでな」
リリーは目を見開いて驚いてるけど、なんでそんな反応をするんですかね。そんなに俺ってケチくさい性格に見えるのか?
「どうしたんですかサカイさん。そんな太っ腹な対応初めてですけど」
「今回はキツイ仕事だったからな。それに、リリーには面倒くさい仕事を押し付けちまったし、疲れちまっただろう? そんなときは甘いものでも食べて英気を養ってもらおうかなっと、粋な計らいだよ」
「はいはーい、じゃあ、私パンケーキ食べに行きたいです!」
「おーいいぞ。今回の報酬は結構たんまり入ったし、結構高いものでもオーケーだ。フェルトも、パンケーキでいいか?」
「はい、大丈夫です」
ま、とにかく今は難しいことを考えるのはよそう。せっかくの休暇だ。こういうときにこそ思いっきり休むことが大事なんだ。仕事ってのはもちろん疲れることだし、今回の仕事はドぎついものだった。ここで疲れを取らなきゃ次の仕事に支障が出てしまう。
思いっきり甘いものを食べて元気を蓄えてもらおう。
「お、ちょうどいいタイミングだな」
他の車より目立っているマフラーからの甲高い音が聞こえてきた。あれは間違いなくロディのファルカオの音。毎日のように聞いているから間違えるはずがない。
振り向けばそこに、赤いセダンが近づいてきていた。
俺は手を軽く振ってロディに合図を送る。すると、ドアのウィンドウから手を出して手を振り返してきた。
四人が再びここにそろった。今度は仕事ではなく、平和を取り戻した安寧の時間にて。
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