第36話『前兆』

  3




 やりやがった……。ロディの野郎、アレをかわしやがったぞ。



「サカイさん! 無事ですか!?」



 車から飛び出してきたのはリリーだった。どうやら心配させちまったようだが、今はロディの奴を褒めてやって欲しいなって思う。思うだけで口にはしないが、今はそんなことよりも……あのフォートレス=ホークとかいうデカブツを破壊する!



「リリー、マリナさんたちは任せたぞ! 俺はアレを破壊しに行く!!」



 俺は車の屋根から飛び降りると、一直線に駆け出す。目指すはあの鉄の塊。


 目的は破壊。ズタズタになった街中を、俺は転びそうになりながらも全力で駆ける。



「フェルト、ブースターオン!!」


『はい』



 俺はその掛け声と同時に、前へと飛ぶ。


 その瞬間――。



「ぐぅ!?」



 とてつもない風圧が俺を襲った。俺の背中辺りから、粒子を爆発させるかのように噴射させることによって、加速させる――というよりは自分自身を吹き飛ばす荒業。粒子を背中に集中させてしまうために、ほかの事に粒子を使えなくなってしまうのがネックだが。


 そんなデメリットを無視してでも一刻も早くあのデカブツに近づかなくちゃいけない。


 空を飛ばれちまうと、これを破壊できるような攻撃をする術が俺にはないからだ。



 クィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン……!!



 という轟音を出しながら、フォートレス=ホークは再び空を飛ぶ準備をし始めた。


 こうなっちまったら破壊できなくても良い。最悪飛び移るぞ……。



「間に合えぇぇぇええええええええええええええええええええ!!」



 その瞬間、ものすごい勢いでソイツは空へと飛んだ。


 そして、俺も大空へとこの身が投げ出された。


 結果としては間に合った。だが、自分の体を固定するほどの猶予がなかったんだ。だから、コイツが空を飛ぶ勢いで、俺は空中にこの身が投げ出されてしまった。



「クッソ……フェルト!」


『分かっています』



 今度は粒子をツタ状にしてそれをあのフォートレス=ホークへと伸ばす。


 届け、届け、届け、届け、届けェ!!



「来た!」



 それは見事に届いた。後はターザンのように移動して、乗り移るのみ!


 だけど俺はそのとき、肝心なことが頭から抜けていた。あれは、単なる空飛ぶ鉄の塊ではないということを。



『ナオシさん。エネルギー反応です。砲撃、来ます』


「バッ……カヤロウ!! フェルト、全力で防御だ。粒子を一転集中!!」


『いえ、ここは――』



 フェルトの勝手な判断により、俺が望んでいた防壁が張られなかった。


 俺のほうを向いている砲身に、紅の光が集中していくのを見ながら、俺は叫ぶしかなかった。



「なんで防壁を張らない!? 死にたいのかッ!?」


『タイミングはこちらで計ります。ですからナオシさんは剣を構えておいてください』


「なぜここで剣!?」


『あのビームを切り裂き、吸収します』



 切り裂く? 吸収? どういう……いや、待てよ。あのフォートレス=ホークは確かジェネレーターの技術を流用して作られたってフェルトが言っていたような……。つまりだ、あの攻撃はジェネレーターが作り出す粒子と同等のモノってことなのか?



 ジェネレーターが作り出す粒子は同じ粒子に弱い。出力が強い方が勝つ単純明快な世界なんだ。つまり、あの攻撃は、オリジナルのジェネレーターが本気を出せば打ち消せるどころか、同じ力だからこそその力を自分のものにできるってことなのか、フェルト?



「分かった。お前のその言葉、信じるぜ」


『はい。ありがとうございます』



 俺は片手で粒子のツタを握り締め、もう片方の手でフェルトの剣を握り締める。


 そして、それは放たれた。赤い火花を散らしながら、禍々しい光線が、俺に向かって放たれた。それはとてつもなく正確に、俺を狙い、溶かしつくそうとしている。だが、そうはいかない。俺はフェルトの力を信じて、剣を振るった。



 赤い光線と、緑色に透き通った剣がぶつかり合う。


 とんでもないエネルギーが、俺にぶつかっているのが分かる。それくらいに、その力は強大だった。しかし、所詮はジェネレーターの紛い物らしく、その攻撃は剣の中に吸い込まれるようにして消滅していく。


 だが、衝撃までは吸収しきれない。



「ぐ……うぅ……やべぇ……」



 粒子のツタはその衝撃に耐え切れなくなってしまったのか、ミシミシと音を立てる。


 こちとら光線を受け止めるのに必死で、そっちにまで手を回していられないんだよ!


 お願いだ……攻撃が終わるまで何とか持ってくれ!



「なげぇんだよ……どんだけ溜めたんだよ」



 俺を殺しきるまで攻撃をやめないつもりなのか? いや、そんなはずはない。チャージしていたってことは、この砲撃は有限であるはずなんだ。


 ミシミシ、ミシミシ、ミシミシ、ミシミシ……!!


 いくら粒子で作ったからと言って、耐久力が無限大であるわけではない。強い衝撃などを受けていけば、粒子の結束する力は弱まっていき、霧散してしまう。


 だから――



「あ……」



 その粒子のツタは、千切れてしまった。結束力が弱まり、ツタの一部の粒子が霧散してしまったのだ。


 本当に空中に放り出される俺の体。だが、ここで終わるわけには行かない。



「砲身の光が弱まっていく……!」



 空中に投げ出されてもなお、俺をしつこく攻撃しているその光線が、ついに終わる。


 これで俺は自由に粒子の力を行使できる!!



「フェルト、ブースターオン!!」


『はい』



 背中で粒子が爆発した。緑色の星屑に体が包まれながら、俺は天空を目指す。


 目標、フォートレス=ホーク。


 この剣に溜まりに溜まったお前さんの粒子の力を使って、ぶっ壊してやらァ!!



「どりゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 俺の剣が緑から赤く染まり、その赤い粒子によってその剣身が大きくなった。その力は今までに見たことないくらい強大で、それを振るう俺自身が恐怖を抱いてしまうほどに、禍々しさを感じた。全てを破壊しつくす、悪魔のような何か。



「…………ッ」



 それでフォートレス=ホークを突き刺し、見事撃破に成功した。


 灰色の煙を上げながら落っこちていく光景を見て、やりきった達成感と、自分が何を仕出かしたのか、それを自覚し己の中に恐怖心を抱いていた。


 しかしこれでは終わらない。


 フォートレス=ホーク。


 飛行輸送自律兵器。


 その本分は、兵器をその名の通り輸送すること。



「確かにでかい飛行機だったよ? だけどさ、なんでこの量がアレに入ってたんだよ!?」



 墜落したフォートレス=ホークの中から出てきたのは――。



『ナオシさん。あれは先日対峙した獣型の兵器です。数は――少なくとも一〇〇』



 やっぱり……何かがおかしい。俺の中にある何かが、疼いて出てきたがっている。血液が沸騰しそうなくらいに体が熱くなり、頭が重くなる。この前、聖ヴァリアント学園で戦ったときにも感じたが、あれは状況で頭に血が上っていたからではないのか!?



「ぐ……ぐぅぅぅぅ!! 頭が、かち割れそうだッ!! これは、俺の記憶なのかよォ!?」



 そのとき、全てを思い出した。


 俺がこの世界に来る前に、どんなところにいて、どんな生活をしていたのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る