第5話『これが始まりの物語』

   5




「あの、ナオシさん」



 俺がこの街を去り、地元のクリオタウンに戻る最中の事だ。


 フェルトに裾を引っ張られ、名前を呼ばれた。



「なんだよ?」


「ありがとうございました。それと、お願いがあります」


「お願い?」



 お礼を言われても、その表情はなく、声にも抑揚がなく平坦だ。


 本当に感情を表現できないのだろう。その原因は、あの黒スーツの野郎に何かされたのか、それともアイツに出会う前に何かあったのか、それは分からない。



「ナオシさん、ずっと私といてくれますか」


「それってプロポーズ?」


「違います」


「そ、そうかい」



 そんなハッキリ言う事ないだろうが。ちょっとしたおちゃめなボケですぜ。


 もうちょっとこう……面白おかしくしてもいいんじゃない?



「私はジェネレーターとして生を受けました。そして、それを扱うマシンナーとしての素質がナオシさんにはありました」



 ジェネレーター、マシンナー、聞いたことなのないワードだった。


 そして、きっとこのとき、俺はどこかで理解していたはずだ。


 この子の力は本来ここにあってはならない《領域》にある力だってことを。



「なんでそれが分かったの?」


「喫茶店で私に触れた、あのときです。ナオシさんも不思議な感覚があったはずです」



 あの心臓が飛び出しそうな気持ち悪い感覚このことか。あの時じっと俺の事を見つめていたのはそういう事だったんだな。


 だから急に態度を改めて俺に助けてもらおうとしたのか。


 そんでもってフェルトはかけてみたんだ。本当に俺がフェルトを剣にできるような人だとしたら、試してみない手はなかった。そしてあの提案だ。つまり俺はまんまと嵌められたって事になる。


 だけども、だからこうしてフェルトはあの黒スーツの束縛から解き放たれ、こうして俺と歩いているんだ。



 さて、こんなとてつもない力を手にしてしまった俺はどうすればいい?



 投げ出すワケにもいかず、一生付き合っていかなくてはならないのだったら、どうやって彼女とともに歩んでいけばいいのか。


 その答えは簡単だ。


 こんな身に余るような力を悪用してはならない。そして誰かに奪われてはならない。


 ならばフェルトという少女を守り、その力を善意で使っていこう。


 それが、力を手にした俺の責務なんだ。



 じゃあ、どうやって使っていこうか。


 彼女と並び、歩きながらその方法を考えていると、ふと思い出す。


 俺はフェルトにお願いされ、助けた。そして、あのフェルトの元主様とやらに「やって欲しいことがあったら俺に言ってくれ」と言った。



 つまりはそういうことだ。



 誰かのお願いを叶える仕事をしよう。


 たとえどんなことであっても、なんだってやっちゃる仕事をやればいいんだ。



「俺からもお願い、いいか?」


「なんですか」



 そう――俺は何でも屋ってやつを始めるんだ!



「なぁに、簡単な事だよ。俺はクリオタウンに戻ったらいわゆる何でも屋をやろうと思ってる。だからさ、お前と一緒に居てやるから、その代りに俺と一緒に仕事をしてくれないか? 良きパートナーとしてさ。それが俺の、何でも屋として活躍するであろうお前への最初の依頼だ」



 この言葉をきっかけに、フェルトは仲間になった。


 これからずっと共にしていく、かけがえのない仲間の一人に。



「分かりました。ナオシさんの為に私は一緒に歩みます」


「そうこなくっちゃ。一緒に、やっちゃろうぜ!」



 そしてフェルトと俺、二人が合わされば誰にも負けない最強の戦士となった。


 自分でも怖くなるくらいに……強すぎた。


 だから誓う。絶対にこの力の使い方を誤ってはならないと。



――フェルト、安心してくれ。絶対に、お前を俺の一生を使って大切にする。絶対に不幸になんかさせやしない。そして、お前の力を善意を持って使うと誓おう。これが俺の戒めだ。

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