俺を召喚したのは小さな魔王様
雨見屋
第1話 魔王様、召喚する
ウキウキ気分で家路を急ぐ。
今日から俺は自由の身だ。
ようやく期末テストが終わり、一家の支配者である母さんからゲーム禁止令を解除されるのだから。
長い長い忍耐の時が終わりを迎えたのだ。
「ただいま!」
リビングに入ると腕組みをした母さんの足元にPS4が置いてある。
流れるように正座をし、うやうやしく頭を下げる。
「母上、期末テストが終わりました。ゲーム禁止令の解除をなにとぞお願い申し上げます」
「結果は?」
「平均以上は確実かと」
「よし!」
「ありがたき幸せ!」
頭を下げたままPS4を持ち、後退りつつリビングを出ようとした時、
「平均以下の時は破壊する」
「ぎょ…御意…」
返事は「はい」か「イエス」しか言わせない気迫を後頭部に受けつつ、なんとかリビングから脱出した。
多分平均以上は取れたと思うが確証はない。
大丈夫と自分に言い聞かせつつ自室へ向かう階段を上る。
「ダメな時はダメだし、ダメだったらその時考えよう」
PS4をセットしつつどのゲームで遊ぶか考えていたら不意にお腹が鳴った。
時間は3時。おやつの時間だ。
セットが途中だが、空腹には勝てない。
自室を出ようと扉を開けるといきなり何かを突きつけられた。
身構え、突きつけられた物を確認するとアンマーガリンのコッペパン。
「ありがたき幸せ!」
息子の空腹を察知した母さんに驚きつつも、おやつのコッペパンを両手で受け取る。
「夕飯を残したら殺す」
「はっ!」
有無を言わせぬ迫力に脊髄反射で返事をする。
母さんは鼻を鳴らすと扉を閉め、ドスドスと音を立てて階段を降りていった。
願わくば上がる時も音を立てて欲しい。
「まあ、いいか、今はゲーム、ゲーム〜」
コッペパンの袋を咥えつつ、ゲームの選定に入る。
プレイ時間は限られている。ここでの選択次第で有意義な時間を過ごせるかどうかが決まる。
どれにしようか悩み、ソフトを取り出しては戻すを繰り返していたら、いきなり足元が明るくなった。
「なにごとですか?」
足元を見ると、自分のいるあたりを中心に光り輝いている。
よくよく見ると、円形状で、なにか読めない文字や記号が書かれている。
「まさか…魔法陣?」
うちの家系に魔法使いはいないし、魔法陣を出せる人もいない。それ以前に魔法なんてものが存在するはずもない。
そんなことを考えている間にどんどん光は強くなっていく。
逃げなければと思った時には遅かった。
足は床に張り付いたように動かない。
「せめて、ゲームをしてからにしてほ…」
言い終わるより早く目が開けられないほど光が強くなり、俺は意識を失った…
「やった!やった!成功した!成功したよ〜!」
何が起きたかわからないが、俺の周りを誰かが飛び跳ね回っている。
ゆっくり目を開けつつ体を起こすと
「あ!起きた!気分はどう?」
だんだんと目が慣れ視界がひらけてきた。
声が聞こえた方を見ると
「子供?」
ぱっと見130センチの小さな女の子に見えたが、頭には黒髪の間から見える小さなツノが、肌も浅黒く、なにより黒いローブに木製の大きな杖、ドクロの首飾り、これは確実に
「黒魔道士?」
「違う!私は魔王だ!」
「ま…魔王?君が?」
「どこからどう見ても魔王だろ?」
威張っているのか胸を張っているが、どこからどう見ても魔王には見えない。
なにより場所だ。
「あのさ、君が魔王だとして、ここは魔王の城?普通に野原なんだけど」
そう、今いる場所は野原。雑草が生い茂る野原なのだ。普通魔王の城は山の上の石でできた城をイメージするはずだ。
この野原にある建造物は、自称魔王の後ろにあるあ今にも崩れそうな掘建て小屋だけ。
「こ…これは…その…いいからお前は私の言うことを聞け!私がお前を召喚したんだから!」
と威勢良く言った後に自称魔王のお腹が盛大に鳴った。
流れる気まずい空気。
ふと気づくと、3時のおやつのコッペパンが腹の上に落ちていた。
「食べる?」
「いいのか?」
今日イチの笑顔で聞いてきた自称魔王様。
部下から食料を貰うのはなんともないのかなと思いつつ、袋を開け半分に分けて差し出したが受け取らない。
何やら不満そうに頰を膨らませ、上目遣いで睨みつけてくる。
「食べないの?」
「そっちの方が大きい」
差し出した方ではなく、俺用の方を指さした。
小さいよ、小さすぎるよ、魔王様!
仕方なく自分用を差し出すと奪うように取り食べ出した。
美味しい美味しいと言いながら食べる自称魔王様を見つつ、ここはどこなのだろうと言う疑問がようやく湧いてきた。
というか、俺の名前すら言ってない。
けど、今はコッペパンを食べよう…と思ったが、自分の分を食べ終えた自称魔王様が俺の分をじっと見つめている。
「いいよ」
「いいのか?いいのか?」
言うより早くコッペパンを奪い取り食べ始める。
本当に美味しそうに食べる自称魔王様を見ているとどうでも良くなってきた。
まあ、どうにかなるのかもしれない。
雲ひとつない空を見て、自分に言い聞かせた。
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