第19話 「く」と「つ」


 

 ウリは何処でどうやって稼いで来るのか知らないが、しばらくすると家賃をキチンと支払うようになった。ボクの部屋の家賃はこの近辺の相場とは言え、この近辺の土地の相場は安い方ではない。12万の家賃は学生には分不相応だと思っていたが、少し背伸びしてそれを維持する事が大事だと思っている父に、半強制的に家賃の設定をされた。この家賃の支払いを維持する事が出来ないのならば、早々に一人暮らしなど諦め、甘えて実家から通え。と言うことだ。

 その家賃の半分、つまり6万をウリは納めた。初めて6万を渡された時に、まじまじとボクがその6万を見ているとウリは、「いかがわしい事はしてないよ?」少しだけ声を尖らせて、裸の札をボクの目の前に出した。場所は近くのサイゼリア、時間は18:00を過ぎたころ。テーブルに付いたドリンクの水滴を避けるようにして、放り出された6万円。


 サイゼリアに来る少し前にTwitter を見ていたら、好きな実況者が『18:00からいつもの始めるよ』とツイートしていたので、いつものように電源を入れるボク。あわよくば一緒にプレイ出来るかと思ってワクワクしていたので、最初 ウリの外食の誘いを断った。

 ところがモニターが立ち上がる音や、筐体の中のファンの微かな唸りに共鳴して、

「陰キャ陰キャ陰キャ陰キャ陰キャ陰キャ陰キ———」

 耳元でウリが繰り返し呟く。囁かれるウリの呟きに負けて趣味の時間を削り、外食嫌いの主義を曲げ、効率化を価格設定に反映させた、お財布に優しいお店に行くことになった。と言う経緯だ。


「いや、どんな稼ぎ方をしても、ボクには何も言う権利は無いけど、こんなに貰う筋合いも無いよ? なんなのコレ?」

 この時、ボクはウリの出した6万円が家賃代だとは本当に思っていなかった。

「宿泊費」

「こんなに要らないよ」

「え? 1ヶ月分だよ? 1泊分じゃないよ?」

「うんうん。分かってる。1ヶ月分のとしても、多いよ。だって、それにウリは そのぉ、払ってるじゃない? ウリ自身で」

「アレは、うん、まぁ、そうだけど。でも、もう そうじゃないって言うか、ワタシもって言うか……」

 ウリの歯切れの悪さをボクは早合点して受け取った。

「あぁ! ごめん。この6万円で、今後は あぁ言う行為は無しにしてくれってことか」

 一瞬、タレ目をキョトン? とさせたウリだったが、スグに頭を横に振った。

「ちがうちがう、でいい。イヤ、チキが嫌なら無しでいいけど、その場合、やっぱりその6万円のしゅく……、家賃を払う必要があるし」

「イヤ、だから多いし」

「じゃあ、いっぱぶんじゃなくて、いっぱ分てことで」

 18:00過ぎのサイゼリアは結構混んでいた。ウリの声は結構大きかった。ウリはいつもハキハキとモノを言う。ボクはテーブルの上で組んでいた指を一本立てて、シーッ。

「ウリ、はっきりと喋るのは良いけど、言ってることがオッさんの、」

「あ、1発分じゃなくて、30発分にして」

「ウリ、とりあえず黙ろうか」

「うん? なんで?」


 そんなボクたちの会話を近くで聞いているヤツがいた。

「おぅ、お前ら なんつー会話をしてんだよ。面白そうだから、オレも混ぜてくれよ」


 Nだ。


 

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