第30話 コピー機
「こうかな?」
――あーもう! 違うってば!
私はコピー機。私は今、コピー用紙を体にセットされている。でも旦那様、久しぶりの操作のせいか、かなり手こずっている様子だ。
私は音声案内機能が搭載されていないため、してほしいことを思い通りに伝えられない。そのせいで段々とイライラしてきた。
すると旦那様が、また違う場所を触り始めた。そこじゃない。そこは触ってほしくない場所なのよ!
「ここに紙を通すのかな?」
――痛い。痛い!
旦那様は、全く違う場所に紙を通そうとしている。体に鋭い痛みが走り、私は必死で我慢した。
「はー……。ここじゃないみたいだな。一体どうすれば良いんだよ!」
旦那様も思い通りにならないせいか、イライラし始めた。本当、どうしてこんなに通じ合えないのかしら。してほしいことと、されていることが全く噛み合っていない。
「――何か疲れたな。このコピー機ももう古いし、そろそろ新しいのと交換かな。こんな使いにくい機械より、最新の方が良いかもな」
その時、旦那様が酷い言葉を口にした。分かり合えないからって、私は簡単に捨てられてしまうのね。確かに私は、少し複雑な造りになっているけど、あんまりだわ。
絶望の余り、私は放心状態になった。操作ガイドの画面をオフにする。そして部屋が静まり返ったその時だった。
「何してるの?」
隣の部屋から奥様が入ってきた。旦那様が顔を上げ、奥様にコピー用紙を渡す。
「このコピー機に、用紙をセットしていたんだ。だが想像以上に難しくてな」
旦那様の疲れ切った顔に、奥様は穏やかな笑みを浮かべた。
「何だ。そうだったの。私、ちゃんとセットできるわよ」
「本当か?」
奥様の言葉に、旦那様が目を輝かせた。まさか奥様がセットできるとは、思ってもいなかった。一筋の光が、私を眩しいほどに照らしてくる。
「ええ。私の勤め先の機械と同じだもの。だから簡単にセットできるわよ」
奥様は旦那様に微笑んだ後、早速作業に取り掛かった。とても嬉しい。奥様の丁寧な手さばきに、私は安心感を覚えた。
「こうして。ここは上から通すのよ」
「なるほど!」
手順も完璧だ。そうよ。この手順でしてほしかったのよ! やっと通じ合うことができた。私は嬉しさの余り、涙が出そうになった。
「できたわ。じゃあテストしてみるわよ」
奥様がスタートボタンを押す。私は指示通り、紙を外に排出した。詰まってる箇所も、破損している部品も全然見当たらない。
「凄い! ちゃんとできてるじゃないか!」
「でしょ! 次も分からなかったら、私を呼んでね!」
「おー。ありがとう!」
奥様は微笑んで、隣の部屋へ戻っていった。旦那様もとても嬉しそうだ。本当に良かった!
奥様ありがとう! 私はまだまだ、この家の役に立ちたいです!
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