第28話 タオル
「助けて!」
「キャー!」
ドラム式洗濯機が、最終段階の脱水に入った。今日もいつものように、私は物凄いスピードで振り回されている。仲間たちの声が、洗濯機の音に負けないくらい大きく聞こえてきた。
私は別に、高速で振り回されるのが嫌いではない。だが今一緒にいる仲間の中には、これが結構苦手な子もいる。
「お前、今日も平気そうだな。ちょっと捕まらせてくれ」
するとその時、突然バスタオルが私にしがみ付いてきた。
「や、やめてよ。私より大きいあんたが来たら、生地についている水分が取れなくなるでしょ!」
「だって……。怖いんだもん」
「ちょっと来ないでよ!」
私が必死に抵抗しても、バスタオルは離れてくれない。それに私よりも体が大きいため、無理に払いのけることもできない。困ったわ。このままじゃ、体の水分が取れなくなってしまう。
洗濯後、爽やかな太陽の光を浴び、人様の肌に触れる。私達にとって、どちらも至福の一時だ。絶対邪魔されたくないわ。このバスタオル、いい加減離れてよ!
そうこうしていると、脱水が終わった。洗濯の終わりを知らせるアラームが、外に響き渡る。
すると音が鳴ったと同時に、足音が聞こえてきた。そして洗濯機の扉が開き、この家の奥様が中を確認する。
「洗濯終わったわね」
奥様は確認して、順番に私達を外に出していった。目の前にいたハンカチが出され、次に私が手に取られる。
「あら。このタオル、まだびしょびしょに濡れてるじゃない!」
奥様の声が聞こえたと同時に、私はバスタオルを睨みつけた。バスタオルは申し訳なさそうに、私をチラチラ見てくる。
イライラしていると、奥様は私を洗濯機の中に戻した。きっと私は、もう一度脱水されることになるのだろう。
こいつのせいで、至福の一時を味わえなかった。そのため仕返しに、奴の糸を引っ張り出そうとしたその時だった。
「あら。バスタオルは綺麗に洗えているわね」
奥様はそう言って、バスタオルを外に出した。私はその言葉を聞いて、更に怒りが込み上げてきた。
「ごめんね。タオルちゃん」
「バスタオル。帰ってきたら覚悟しておきなさい」
バスタオルが小さな声で謝ってきたため、私は敢えて笑顔を見せた。バスタオルは青ざめたまま、奥様にたたまれていく。
さあ、あいつが帰ってきたら、どのように仕返ししようかしら? 私は冷たい洗濯機の中で、ひたすら考えを巡らせた。
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