第17話 柔軟剤
「柔軟剤は、目王の新商品がおすすめです!」
俺は柔軟剤。とある町の花丸ドラッグストアに、商品として陳列されている。何回もリピートされるCMに、マジでイライラしていた。最前列にいるから、そろそろ誰かに買われるはずだ。
「ウィー。これでいいや」
そう思った直後、酔っ払いのサラリーマンらしき男が、俺をヒョイと持ち上げてレジに向かった。
男はかなり酔っている。足元がフラフラしていて、今にも倒れそうだ。男の白いクールビズには、大きなシミが付いていた。きっと飲み会で、何かをこぼしたのだろう。
「袋いらないっす」
「かしこまりました」
レジで俺は、赤いレーザーみたいなものを通された。ピッという音が周りに響き渡る。直後、店員にシールをベタっと体に貼られた。
「350円になります」
店員は若い女だ。まだ慣れていないのか、おどおど感じで男に値段を告げた。すると男は、小銭をやや乱暴に金銭トレイにのせた。
「ちょうどお預かり致します。ありがとうございました」
店を出た男は、俺を片手で持ち、フラフラしながら帰路についた。
*
「何だ? 何で俺、こんなの買ったんだ?」
トイレから出て来た男は、フラフラしながら俺の所に近づいてきた。
「まあいいや。捨てちゃえ。ぎゃはは」
捨てるという言葉を聞いて、本能的に恐怖感が湧いてきた。まだ酔いが冷めていない男は、フラフラしながら俺を持ち上げる。
――やめてくれ!
心の中で叫ぶが、当然男には聞こえない。男は窓を開けて、俺を外へ放り投げた。
宙を舞った後、俺は地面に叩きつけられた。幸い中身は漏れなかった。
あの男が許せない。いくら酔っぱらっていたとはいえ、腹立たしくてしょうがなかった。だが、物は人には逆らえない。動けない上に、意思を伝えられないから、人間にされるがままだ。
あの男よりもっといい家にいけないだろうか? 俺は淡い期待をして、落ちた場所で待ち続けた。
*
翌朝になり、太陽が出て来た。これから地面が焼けるように熱くなるのだろう。俺ももう終わりか。そんなことを考えてると、空から白いものが飛んできた。鳥だ。
鳥は俺を嘴でくわえると、上空を舞った。朝の街並みが見える。風も涼しいし、気持ちが良かった。
しばらくして、鳥は家のベランダの洗濯籠に俺を置いた。
「コウノトリ! 見て! コウノトリよ! あやちゃん」
ベランダの窓から、小さな子供と妊婦さんが出て来た。あの鳥はコウノトリというらしい。直後、コウノトリは羽をバッと広げ、再び空を舞っていった。
「ほんとだ。きれい」
あやちゃんという小さい子も、妊婦さんのお母さんも喜んでいた。するとお母さんが、洗濯籠の中を見た。
「あら柔軟剤! ちょうど切らしていたのよ」
お母さんは窓を開けて、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「コウノトリさんからのプレゼントね。ありがとう。」
お母さんはお腹をさすりながら、俺を大事そうに抱えて家の中に入って行った。
こうして俺は、この家の柔軟剤として、正式に役目を果たす日々がやって来た。
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