慕容徳16 殿試 

慕容徳ぼようとくは学生らを大いに集め、人材抜擢のための試験を自ら監督する。試験も終わり、ねぎらいの宴が開催された。慕容徳は高所より遠方を眺めてから、尚書の魯邃ろすいに言う。


せい、魯ろの地には昔より賢人が多い。特に威王いおう宣王せんおうの時代にはいわゆる稷下しょくかの士、接予せつよ慎到しんとう田巴でんは淳于髠じゅんうこん鄒衍すうえん田駢でんべんと言った人材を輩出している。彼らは王の庇護のもと清き沼のほとりにて、色艶やかな車に乗り、長剣を佩き、非馬の雄辭や談天の逸辯を口にした。結果指させば中途半端な色合いであっても文様を描きだし、丘を仰ぎ見れば山が歌い出す、とまで言われるほど言辞が盛んになったと聞く。しかるにいまはその気風も廃れてしまった。いかほどによき言葉も、千年の時の末には頼るにも及ばんのかな!」


魯邃は答える。


しゅう武王ぶおう比干ひかんの墓を整え、かん高帝こうてい信陵君しんりょうくんの墳墓を祭りました。彼らはみなな心に賢人哲人を奉じ、古のことに思いを募らせております。陛下のもたらされたお恵みはこの二君主よりも更に深く、その恩沢は中華全土をも覆うほど。もしかの二君主が陛下のご恩寵を目の当たりとしたならば、そのなさりように感じ入ることでしょう」




德大集諸生,親臨策試。既而饗宴,乘高遠矚,顧謂其尚書魯邃曰:「齊、魯固多君子,當昔全盛之時,接、慎、巴生、淳于、鄒、田之徒,廕修簷,臨清沼,馳硃輪,佩長劍,恣非馬之雄辭,奮談天之逸辯,指麾則紅紫成章,俯仰則丘陵生韻,至於今日,荒草頹墳,氣消煙滅,永言千載,能不依然!」邃答曰:「武王封比干之墓,漢祖祭信陵之墳,皆留心賢哲,每懷往事。陛下慈深二主,澤被九泉,若使彼而有知,寧不銜荷矣。」


德は大いに諸生を集め、親しく策試に臨む。既に饗宴さるに、高に乘じ遠きを矚し、顧みて其の尚書の魯邃に謂いて曰く:「齊、魯には固より君子多く、昔の全盛の時に當り、接、慎、巴生、淳于、鄒、田の徒、廕に簷を修め、清沼に臨み、硃輪を馳せ、長劍を佩き、非馬の雄辭を恣まとし、天の逸辯を奮談し、指麾せば則ち紅紫は章を成し、俯仰せば則ち丘陵が韻を生ず、今日に至るに於いて、草は荒れ墳は頹れ、氣消え煙滅ず、永言千載、依然せざる能うや!」と。邃は答えて曰く:「武王は比干の墓を封じ、漢祖は信陵の墳を祭る。皆な心に賢哲を留め、每に往事を懷う。陛下の慈は二主に深く、澤は九泉を被る、若し彼をして知らしむ有らば、寧ろ荷を銜えんか」と。


(晋書125-16_文学)




このへんも斉の現状を嘆くと言うよりは、自身の寿命の近さを嘆いて、この国の将来を危ぶんだ、と見るのがいい気がします。この段階で慕容超のぼの字も出てこないとかどういうことだよって感じですもの。


それにしても慕容徳の発言、ここも典拠祭なんだろうなぁ。

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