慕容農4 石越を破る

苻丕ふひ列人れつじんでもそもそ動く慕容農ぼようのう

潰そうと考え、石越せきえつを派遣。

この動きに対し、慕容農は言う。


「石越と言えば智勇兼備で知られる。

 そんな将を、南にいる父を捨て置き、

 我らのもとに派遣してきたのだ。

 苻丕殿はよほど、

 おれたちが恐ろしいらしい!


 とは言え、ろくにこちらへの

 対策を練る暇もあるまい。

 さて、どう料理してくれようか」


 配下らは列人城を修繕の上、

 籠城戦に臨もう、と言い出す。

 が、慕容農。却下する。


「戦巧者は人の心を掴むもの。

 それ以外の要素なぞ無駄よ!


 いま、義兵が集まってきたのは

 つまり、敵を求めてのこと!

 ならば山河を天然の要害となせばよい!

 列人城を修復したところで、

 どれほど守りに資そうかよ!」


というわけで、石越が

列人城の西に到着したところで、

趙秋ちょうしゅう綦母滕きぼとうに石越軍の前鋒を襲わせ、

敗走させる。


ここで、幹部の趙謙ちょうけんが慕容農に言う。


「石越軍の装備は充実していますが、

 士気は低くなっております。

 このような軍は、脆い。

 速やかに攻め、討ち果たしてしまうのが

 良いでしょう」


しかし、慕容農は言う。


「奴らの鎧は外に見える。

 対する我々の持つ鎧は、心の強さ。


 とはいえ、見た目の差は侮れん。

 下手に昼間に戦いでもすれば、

 我らの兵は敵の装備の前に

 恐れおののくかもしれん。


 今は待ち、夕刻になるのを狙い、

 攻めかからせよ。

 さすれば、必ず打ち破れよう」


慕容農、守りを厳重に固める。

配下もそれに答え、

迂闊に動くものもいなかった。


対する石越、自らの陣に柵を立てさせ、

防備をなした。

それを見て、慕容農は笑う。


「見てみろ! 石越軍は装備も揃い、

 その勢力も多い!

 ならば進軍の勢いをそのまま

 打撃力に転化すべきだったろうに、

 おめおめと自ら勢いを殺しおった!

 ずいぶんな無能もいたものだ!」


やがて、日暮れを迎える。

慕容農は戦鼓を打ち鳴らし、

列人城の西に布陣した。


慕容農のもとに、劉木りゅうぼくという人物が

石越軍の柵を破砕させてほしい、

と願い出てきた。

慕容農は笑って言う。


「目の前にごちそうがあるのだ、

 求めているのはお前一人ではないぞ!

 抜け駆けをしようというのか!


 が、その気炎は嘉するに足る!

 ならば先鋒の任、

 見事に請け負ってみせよ!」


こうして劉木は壯士四百を率い、出撃。

柵を破砕、陣中に踊りこめば、

たちまち石越軍は大崩れを起こす。


そこに慕容農ら本軍も付き従い、

完膚なきまでに石越軍を叩きのめし、

石越と配下の勇将である毛當もうとうを斬った。


そうして遂に兵を率いて慕容垂ぼようすいと合流、

ぎょうへの攻撃に参加するのだった。




苻丕使石越討之,農曰:越有智勇之名,今不南拒大軍而來此,是畏王而陵我也。必不設備,可以計取之。眾請治列人城,農曰:善用兵者,結士以心,不以異物。今起義兵,惟敵是求,當以山河為城池,何列人之足治也!越至列人西,使趙秋及參軍綦母滕擊越前鋒,破之。參軍太原趙謙言於農曰:越甲仗雖精,人心危駭,此易破也,宜急擊之。農曰:彼甲在外,我甲在心,晝戰則士卒見其外貌而憚之,不如待暮擊之,可以必克。令戰士嚴備以待,毋得妄動。越立柵自固,農笑謂諸將曰:越兵精士眾,不乘其初至之銳以擊我,方更立柵,吾知其無能為也。向暮,農鼓噪出,陳於城西。牙門劉木請先攻越柵,農笑曰:凡人見美食,誰不欲之,何得獨請!然汝猛銳可嘉,當以先鋒惠汝。木乃帥壯士四百騰柵而入,越兵披靡,農等大眾隨之,越等大敗,斬越及驍將毛當,遂引兵會垂攻鄴。


苻丕の石越をして之を討たしめんとせるに、農は曰く:「越に智勇の名有り、今、大軍を南拒せずして此に來たるは、是れ王は畏れ我を陵せんとせるなり。必ずや備えを設けずば、以て之を取るべく計るべし。眾は列人城を治むべく請えど、農は曰く:「兵を用うに善き者は士を結ぶに心を以てし、異物を以てせず。今、義兵は起ち、惟うに敵は是を求め、當に山河を以て城池と為せり、何ぞ列人の治むに足れるや!」と。越の列人が西に至れるに、趙秋及び參軍の綦母滕をして越が前鋒を擊たしめ、之を破る。參軍の太原の趙謙は農に言いて曰く:「越が甲仗は精なると雖ど、人心は危駭す。此れ破るに易かりきなれば、宜しく急ぎ之を擊つべし」と。農は曰く:「彼の甲は外に在り、我の甲は心に在らば、晝に戰わば則ち士卒は其の外貌に見ゆるに之を憚からん。暮れを待ちて之を擊つに如かず、以って必ずや克たん」と。戰士に令し備えの嚴なるを以て待ち、妄りに動ける毋れるを得る。越は柵を立て自ら固まば、農は笑いて諸將に謂いて曰く:「越が兵は精にして士は眾かれど、其の初に至れるの銳に乘ぜるを以て我を擊たずして、方に更に柵を立つ、吾れ其の無能為るを知れるなり」と。暮るるに向わば、農は鼓を噪じ出で、城西に陳ぶ。牙門の劉木の越が柵への先攻を請うに、農は笑いて曰く:「凡そ人の美食を見るに、誰ぞ之を欲さざらんか、何ぞ獨り請うを得んか! 然れど汝が猛銳なるは嘉すべし、當に先鋒を以て汝に惠む」と。木は乃ち壯士四百を帥い柵を騰じ入らば、越が兵は披靡し、農ら大眾は之に隨い、越らを大いに敗り、越及び驍將の毛當を斬り、遂に兵を引き垂に會し鄴を攻む。


(十六国50-6_暁壮)




慕容農あげターンがいつ果てるともなく続くのが、こう。いや楽しいんですけど。


しかしこれ、石越が無能だったと言うか、元々士気がズンドコだったんでしょうね。石越は平州へいしゅう、つまり慕容が元々いたエリアを鎮守した経歴もあり、慕容の騎馬戦術に暗いはずがないんです。それが、守ることしかできなかった。積極的に動かせるだけの気力が兵らになかった、とするのが正しい気がします。


そうやって考えると、このときの鄴周りって前秦ぜんしん後燕こうえんとで凄まじい士気の差だったんじゃないかしら。慕容垂も、その気になれば簡単にを落とせたのかもしれません。けど、そうはならなかった。


このあたりは妄想が捗りそうです。

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