慕容垂25 三年の服喪

慕容垂ぼようすいの臣下、婁會ろうかいが上疏をしてきた。


「父母を喪ったときの、三年服喪は

 守るべきルールとされておりますが、

 この争乱の日々の中にて失われ、

 むしろこの期間であっても

 戦士として駆り出されております。


 人々は互いに競い合い、

 栄達を望むのであれば、

 むしろ喪服に身を包んだまま

 兵役に馳せ参じるような有様。

 このような者たちが、国に対して

 忠である、となど言えましょうか?

 目先の利益に目がくらんでいるだけ、

 とは申せませんでしょうか。


 聖王の教化とは、

 方針変更するとしても、

 それはトラブルや大乱を

 理由とはせぬものです。

 そこのように振る舞うからこそ、

 暴力の連鎖を止めることが叶います。


 陛下はいま、歴代連なる王らの

 末席にその身を置かれ、

 えん室中興の大業を興されました。

 これにより、ようやく天下に

 平穏が取り戻され、

 軍役も落ち着きを見せつつあります。


 ならばこの辺りで、戦時下の

 誤った慣行を廃し、

 古よりのルールに復されるべきです。


 官吏らが父母を喪ったときの、

 三年服喪のルールを復活なされれば、

 再びこの地には孝徳が行き渡り、

 人々は礼ある振る舞いを

 思い出しましょう」


慕容垂は却下した。




其尚書郎婁會上疏曰:「三年之喪,天下之達制,兵荒殺禮,遂以一切取士。人心奔兢,苟求榮進,至乃身冒縗絰,以赴時役,豈必殉忠於國家,亦昧利於其間也。聖王設教,不以顛沛而虧其道,不以喪亂而變其化,故能杜豪兢之門,塞奔波之路。陛下鐘百王之季,廓中興之業,天下漸平,兵革方偃,誠宜蠲蕩瑕穢,率由舊章。吏遭大喪,聽終三年之禮,則四方知化,人斯服禮。」垂不從。


其の尚書郎の婁會は上疏して曰く:「三年の喪は天下の達制にして、兵荒にて禮は殺され、遂に一切を以て士を取る。人心は奔兢し、苟しくも榮進を求まば、至乃ち身は縗絰を冒し、以て時役に赴く、豈に必ずしも國家に殉忠し、亦た其の間の利に昧ならんや? 聖王の教を設くるに、顛沛を以て其の道を虧けず、喪亂を以て其の化に變ぜず、故に豪兢の門を杜し、奔波の路を塞ぐ能う。陛下は百王の季を鐘じ、中興の業を廓し、天下は漸く平らぐらば、兵革は方に偃にして、誠に宜しく瑕穢を蠲蕩し、由にて舊章を率うべし。吏の大喪に遭えるに、三年の禮を終うるを聽さば、則ち四方は知化され、人は斯くして禮に服さん」と。垂は從わず。


(晋書123-25_規箴)




崔浩さいこうさん「言ってやって言ってやって、鮮卑せんぴの蛮習は根絶すべき! マジでクソ!」


鮮卑に三年服喪なんてやらせたら、ただ座して死を待つだけなんですよねえ。いくら慕容垂の代でだいぶ漢人の習俗の中にあることに慣れてきたからって、三年服喪には違和感しかなかったんじゃないかな。


ただ一方で、中華の民が「古くからのしきたりに従うべき」と考えるのも、それはそれで当然のこと。ましてしん書は「五胡によって毀損された漢人の誇りを取り戻す」的なテーマもどうしても背負わざるを得ない。なので、慕容垂のこの却下を蛮行的に扱わせるためにも、あえて婁會の上疏をきっちり採録したんでしょう。「礼」の観点から言えば、とてつもなく重要なエピソードなのだ、ってことになりそうです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る