慕容垂19 鄴都再包囲

翟斌てきひんが殺されると、甥である翟真てきしん

残った者たちをまとめ、

一度北の邯鄲かんたんに脱出した。

そこで体制を整えたあと、改めて南下。

ぎょうに向い、苻丕ふひの加勢を目論む。


慕容垂ぼようすいは翟真軍に対し、

息子の慕容宝ぼようほう慕容隆ぼようりゅうを差し向けた。

二人はみごと、撃退に成功。

そこで更に慕容楷ぼようかいを派遣し、追撃させる。

こちらは下邑かゆうで反撃を受け、敗走。


翟真は、承營しょうえいに拠点を構えた。

この事態を受け、慕容垂は言う。


「苻丕はこちらがどれだけ

 攻め立てたところで、投降はすまい。

 一方で丁零ていれいどもの混ぜっ返しは、

 腹の中をまさぐられているにも等しい。


 ここから拠点を新城しんじょうに遷し、

 苻丕の逃げ道を確保したうえ、

 進む先の戦いでは

 苻堅ふけん様よりの御恩に答え、

 振り返っての戦いでは

 きっちりと翟真を迎撃するだけの

 備えをしておかねばならん」


こうして慕容垂の本陣を北の新城に移し、

部隊を再編する。


息子の慕容農ぼようのうには

黃泥こうでいにいる翟嵩てきすうを攻め破らせた。


また慕容垂、弟の慕容德ぼようとくに言う。


「このまま攻め立てたところで、

 苻丕は決して立ち去るまい。

 それどころか、じわじわと南から迫る

 東晋の軍を引き入れ、鄴の守りを

 更に固められてしまうやもしれん。


 このまま手をこまねくわけにはゆかん」


そうして、改めて鄴を攻撃。

ただし苻丕が脱出できるよう、

包囲のうち、西はあけたままにした。




斌兄子真率其部眾北走邯鄲,引兵向鄴,欲與丕為內外之勢,垂令其太子寶、冠軍慕容隆擊破之。真自邯鄲北走,又使慕容楷率騎追之,戰於下邑,為真所敗,真遂屯于承營。垂謂諸將曰:「苻丕窮寇,必守死不降。丁零叛擾,乃我腹心之患。吾欲遷師新城,開其逸路,進以謝秦主疇昔之恩,退以嚴擊真之備。」於是引師去鄴,北屯新城。慕容農進攻翟嵩于黃泥,破之。垂謂其范陽王德曰:「苻丕吾縱之不能去,方引晉師規固鄴都,不可置也。」進師又攻鄴,開其西奔之路。


斌が兄の子の真は其の部眾を率い北の邯鄲に走り、兵を引き鄴に向い、丕を內外の勢為らんと欲す。垂は其の太子の寶、冠軍の慕容隆に令し之を擊破せしむ。真の邯鄲より北に走れるに、又た慕容楷をして騎を率い之を追わしめ、下邑にて戰えど、真に敗らる所と為る。真は遂に承營に屯ず。垂は諸將に謂いて曰く:「苻丕は寇に窮し、必ずや守死し降ぜざらん。丁零の叛擾は、乃ち我が腹心の患いなり。吾、師を新城に遷し、其の逸路を開き、進みて以て秦主が疇昔の恩に謝し、退りて以て真を擊ちたるの備えを嚴にせんと欲す」と。是に於いて師を引きて鄴を去り、北の新城に屯ず。慕容農は進みて翟嵩を黃泥に攻め、之を破る。垂は其の范陽王の德に謂いて曰く:「苻丕は吾が之を縱せど去る能わず、方に晉師を引きて鄴都を規固せん、置かるべからざるなり」と。師を進め又た鄴を攻め、其の西奔の路を開く。


(晋書123-19_妙計)




孫子そんし「いや慕容垂、お前そのやり方だと西に脱出しようとしたところをフルボッコにする目論見にしか見えんぞ」


囲帥は周せず、ってね。まーあれは下手に敵を追い詰め過ぎればこっちに激甚な被害来るしやめーやって感じのやつですが。ただ苻丕にしてみれば、まるでもって罠にしか見えなかっただろうなぁ。あからさま過ぎるんですもん。


人間、普段からの信頼関係の積み重ねが大事なんだなあって思いました。こなみ。


なお十六国春秋を見たら


時垂攻鄴久不下,將北詣冀州,命撫軍將軍隆屯信都,樂浪王溫屯中山,召驃騎將軍農還鄴。於是逺近聞之,以燕為不振,頗懷去就。


「えー? 慕容垂なんで鄴落とせないのー? だっさぁーいwww ついてくの考えなきゃダメかもねーwwwwww」とささやき合われていたそう。せつないね。

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