姚沖   後秦動乱の芽  

姚沖ようちゅう姚萇ようちょうの末っ子、つまり姚興ようこうの弟だ。

勇敢で怪力、騎射を巧みとした。

姚興、そんな末の弟には北の守りを任せる。

狄伯支てきはくしらとともに、赫連勃勃かくれんぼつぼつを防ぐ任務だ。


ところが軍を任された姚沖、

その軍で長安ちょうあんを襲おう、などと言い出す。

もちろん狄伯支、従おうとしない。

すると姚沖、狄伯支を毒殺した。


えっ。


赫連勃勃との戦いに備え、

姚興自身も平涼へいりょうから朝那ちょうなに出る。

そこで飛び込んできたのが、姚沖の謀反。


しかし姚興、姚沖が末の弟であり、

またその武力の高さも買っていたので、

どうにか許せないか、と考えていた。


その様子を見て、

泣いてすがってきたものがいた。

斂成。もと姚沖の部下である。


「あの者の残虐無道なること、

 左右に侍っていたとき、

 いつ何時殺されるかと気が気でならず、

 まともに眠ることもできませんでした!


 そんな男が自らの配下を殺し、

 謀反を企てておるのです!

 どうか速やかに、然るべきお裁きを!」


すると姚興は答える。


「沖ごときになにができる!

 私はただ、軽率に名将を殺した罪を、

 天下に知らしめるべき、としたのだ!」


そうして姚沖に手紙にて自殺を命じた。

爵位は剥奪され、葬儀は庶民扱いだった。




姚沖,萇之少子,興弟也。勇力善騎射,興署為 平北將軍,使與狄伯支等率騎攻赫連勃勃。軍次嶺北,沖欲回襲長安,伯支不從,鴆殺之。興自平涼如朝那,聞沖謀逆,以其弟中最少,雄武絕人,猶欲隱忍容之。後軍將軍斂成泣謂興曰:「沖凶險不仁,每侍左右,臣常寢不安席。今復賊殺寮佐,反形已露,願早為之所。」興曰:「沖何能為也!但輕害名將,吾欲聲其罪於四 海耳。」乃下書賜沖死,遂以庶人之禮葬之。


(十六国60-6_肆虐)




姚興周りの人物っていいやつばっかりだから、こういう人物にめぐり当たると「ぁあ^〜五胡十六国^^^〜」って心安らぎますね!


にしても改めて姚沖だけ抜き出すと、姚興って姚萇兄弟の絆の硬さが当たり前にあったもの、として認識してたくさいですね。いやいやそれって姚弋仲ようよくちゅう姚襄ようじょうが流転する情勢を生き延びるために丹念に蒔いてきた種を、姚萇がまた丹念に育ててきた結果ですから! そこのバックグラウンドを、姚興は見いだせていなかったのかもしれません。いくら押し寄せる外患のせいで判断力が摩耗してたからって、血族に対する無邪気な信頼がひどすぎる。


不足は人をはぐくんで、充足は人をたゆませる、のかなあ。後秦の結末からはそのようにも読み取れそうだけれども、さて。もちろんこんなことは、晋書というごく限られた大きさの覗き穴から彼らを覗いた感想に過ぎないとは弁えねばなりません。


まぁ、唐がそういった流れを戒めようと考えていた、までは言ってもいいと思うんですがね。

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