姚泓21 劉裕侵攻13  

蒲坂ほはん攻めに当たり、檀道濟だんどうさい

陣地の守りを固めこそしたものの、

攻めあぐねていた。


沈林子しんりんしは、そんな檀道濟に言う。


「蒲坂の守りは鉄壁と言うべきです。

 速やかに落とせなくなった以上、

 これ以上攻めても損害を出すだけ。

 しかもここを拠点として保つのにも

 時間を多く費やしてしまいます。


 ならばこの城は諦め、

 潼關どうかん攻略を優先するべきです。


 それでなくとも潼關は

 天然の要害、と言ってよろしい。

 そこに挑むのが王鎮悪おうちんあく一軍なのです。

 攻め落とすには、やや力不足と

 申し上げざるを得ません。


 そこに姚紹ようしょうがやってきて、

 守りを固められてごらんなさい。

 もはや奪取は至難となりましょう。


 なので、とにもかくにも、

 潼關を抜いてしまうのです。

 さすれば姚紹も、戦うまでもなく

 降伏して参りましょう」


なるほど、もっともだ。

檀道濟はその進言を採用、蒲坂を諦め、

潼關に向けて南下した。


檀道済らを防ぐため、長安からは姚讚ようさん

近衛兵七千を率いて渭北いほくより東下、

蒲津ほしんに駐屯した。


また姚紹は方陣を組んで進み、

檀道濟を迎撃しようとする。

対する檀道濟は砦を築いて守りを固め、

姚紹との激突を避けようとした。

そこで姚紹は砦の西方に攻撃を仕掛ける。

が、落とせない。

なので今度は全軍でもって仕掛ける。

すると檀道済は遊軍として動かしていた

王敬おうけい、沈林子らに姚紹軍の虚を突かせた。

姚紹軍はこの攻撃に大混乱。

定城ていじょうに引き還さざるを得なくなった。


しかし姚紹も、

そのまま引っ込むわけにはいかない。

姚鸞ようらんを地の利を取れる場所に進ませ、

檀道濟軍の補給路の寸断にかかった。



一方、同じころ。

劉裕りゅうゆうは、雍州ようしゅうにいた沈田子しんでんし傅弘之ふこうし

一万余の兵力を率いさせ派兵、

武関ぶかんを通じて上洛じょうらくに進軍させた。

途中の城主はみな進軍を恐れ城を放棄、

長安へと逃げ込んでいった。

沈田子らは更に進み、青泥せいでいに至った。




道濟深壁不戰,沈林子說道濟曰:「今蒲坂城堅池濬,非可卒克,攻之傷眾,守之引日,不如棄之,先事潼關。潼關天岨,形勝之地,鎮惡孤軍,勢危力寡,若使姚紹據之,則難圖矣。如克潼關,紹可不戰而服。」道濟從之,乃棄蒲坂,南向潼關。姚讚率禁兵七千,自渭北而東,進據蒲津。劉裕使沈田子及傅弘之率眾萬餘人入上洛,所在多委城鎮奔長安。田子等進及青泥,姚紹方陣而前,以距道濟。道濟固壘不戰,紹乃攻其西營,不克,遂以大眾逼之。道濟率王敬、沈林子等逆衝紹軍,將士驚散,引還定城。紹留姚鸞守險,絕道濟糧道。


道濟は壁に深じ戰わざれば、沈林子は道濟に說きて曰く:「今、蒲坂は城堅池濬にして、卒やかに克ずべかるに非ざれば、之を攻むらば眾を傷とし、之を守るに日を引かば、之を棄つるに如かず、先に潼關を事とすべし。潼關は天岨にして形勝の地なれば、鎮惡孤軍にては勢危なく力寡なし。若し姚紹をして之に據しむらば、則ち圖るは難かりき。如し潼關を克さば、紹は戰わずして服したるべし」と。道濟は之に從い、乃ち蒲坂を棄て、潼關に南向す。姚讚は禁兵七千を率い、渭北より東し、進みて蒲津に據す。劉裕は沈田子及び傅弘之をして眾萬餘人を率い上洛に入らしめ、在せる所の多きは城鎮を委ね長安に奔ず。田子らは進みて青泥に及ぶ。姚紹は方陣にて前み、以て道濟を距がんとす。道濟は壘を固め戰わず、紹は乃ち其の西營を攻むれど克せず、遂に大眾を以て之に逼る。道濟は王敬、沈林子らを率い紹軍を逆衝せば、將士は驚きて散り、定城に引還す。紹は姚鸞を守險に留め、道濟が糧道を絕たしむ。


(晋書119-21_衰亡)




https://kakuyomu.jp/works/1177354054888050025/episodes/1177354054891005574

宋書沈林子伝と、ほぼ状況が一致しています。基本的には後秦サイドに残ってた史料からの再現でしょうから、両者の見解がだいたい一致してた、んでしょう。とはいえさすがに沈林子のセリフは宋書から引っ張ってきたのかもなあ。こんなセリフが後秦側の資料に残るとも到底思えませんし。


この辺、後世史料である晋書はより広い視野で伝が組める感じがありますね。さすがに十六国春秋のときはもうちょっと視野が狭かったのかもしれません。その時の記述を、どうにか探し出せないものかなあ。

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