姚泓16 劉裕侵攻8   

姚懿よういがついに挙兵、王を自称。

更には檄文を各地に飛ばし、

匈奴堡きょうどほに蓄えてあった糧秣を

領内の者ものに分配しようとする。


いやいや待ちーや! 姚成都ようせいと

姚懿の自分勝手を止めようとする。

すると姚懿は自らを卑しめ、

しかも佩いていた剣を姚成都に送り、

「あなたを大切に思ってますよ」的な

ポーズをとってきた。


が、姚成都、受け入れない。

それどころか、姚懿が送ってきた剣を

姚泓ようおうのもとに回した。

「姚懿の野郎、ヤベーでガス」

を伝えたのだろう。


はぁ!?

下手に出てりゃつけアガりやがって!

姚懿、王国おうこくという武将に数百人を率いさせ、

姚成都を攻めさせる。が、ボロ負け。

王国は生け捕りとされた。


姚成都は姚懿をなじる。


「陛下と母を同じくなさるが故に、

 貴方様は重用されていた!


 いま、お国は未曾有の危地にある!

 ならば陛下と憂いを共とし、

 よく補佐なさるのが役目であろう!


 にも関わらず、奸物を腹に収め、

 お国を脅かさんと目論まれるとはな!

 貴方様の父祖がこれ以上、

 貴方様をお守りになることもあるまい!


 それに、確かにこの砦には、

 糧秣が備蓄されていた!

 ただしそれは有事のためのものであり、

 貴方様が手を付けて良いものではない!

 何か糧秣を与えるに足る功績を

 挙げたとでも仰るのであれば、

 その功績とやらをお教え願おうか!


 王國は蛇が自らに描いた足と成り果てた!

 ゆえに罪人として収監した!

 陛下よりのお許しが出次第、

 処す予定である!


 そして、この姚成都!

 貴方様を裁いて進ぜる!

 兵力が集まり次第出向くゆえ、

 黄河こうがにて首を洗ってお待ちめされよ!」


それから姚成都は各地に改めて檄を飛ばし、

姚懿ではなく、姚泓につくよう宣言。

かつ自らの兵を激励、

馬には十分な飼い葉を与え、

その上で、周辺からの軍資を調達した。


結果、姚懿に従おうとするものは

ほぼいなくなり、姚懿は青ざめる。

その中にあって臨晉りんしんの数千世帯のみは

姚懿に従おうとしたが、

そんな臨晋には、すかさず姚紹ようしょうが出て、

あっという間に平定してしまう。


進退極まった姚懿。この様子を見て、

側にいた郭純かくじゅん王奴おうどが離反。

姚懿を包囲する。


姚紹が蒲坂ほはんに入ると、姚懿を捕縛。

孫暢そんちゅうらについては処刑した。




懿遂舉兵僭號,傳檄州郡,欲運匈奴堡穀以給鎮人。甯東姚成都距之,懿乃卑辭招誘,深自結托,送佩刀為誓,成都送以呈泓。懿又遣驍騎王國率甲士數百攻成都,成都擒國,囚之,遣讓懿曰:「明公以母弟之親,受推轂之寄,今社稷之危若綴旒然,宜恭恪憂勤,匡輔王室。而更包藏奸宄,謀危宗廟,三祖之靈豈安公乎!此鎮之糧,一方所寄,鎮人何功,而欲給之!王國為蛇畫足,國之罪人,已就囚執,聽詔而戮之。成都方糾合義眾,以懲明公之罪,復須大兵悉集,當與明公會於河上。」乃宣告諸城,勉以忠義,厲兵秣馬,徵發義租。河東之兵無詣懿者,懿深患之。臨晉數千戶叛應懿。姚紹濟自薄津,擊臨晉叛戶,大破之,懿等震懼。鎮人安定郭純、王奴等率眾圍懿。紹入于蒲阪,執懿囚之,誅孫暢等。


懿は遂に兵を舉げ僭號し、檄を州郡に傳え、匈奴堡が穀を運びたるを以て鎮人に給さんと欲す。甯東の姚成都は之を距まば、懿は乃ち卑辭にて招誘し、深く自ら結托せんと、佩刀を送りて誓を為せど、成都は送じたるを以て泓に呈ず。懿は又た驍騎の王國を遣りて甲士數百を率い成都を攻ましむ。成都は國を擒え、之を囚え、遣りて懿を讓ぜしめて曰く:「明公は母弟の親なるを以て推轂の寄を受くるに、今、社稷の危にて若綴旒然し、宜しく憂勤を恭恪し、王室を匡輔すべきなり。而るに更に包藏奸宄し、宗廟を謀危せば、三祖の靈、豈に公を安んぜんか! 此れ鎮の糧にして一方の寄す所、鎮人に何ぞの功もて之を給せんと欲さんか! 王國は蛇に畫きたる足と為り、國の罪人なれば、已に囚執に就き、詔じ之を戮さんことを聽さる。成都は方に義眾を糾合し、以て明公の罪を懲しめ、復た須く大兵は悉く集じ、當に明公と河上にて會さん」と。乃ち諸城に宣告し、勉むを以て忠義とし、兵を厲まし馬に秣し、義租を徵發す。河東の兵は懿に詣せる者無く、懿は深く之を患う。臨晉の數千戶は叛じ懿に應ず。姚紹は薄津より濟り、臨晉の叛戶を擊ち、之を大破せば、懿らは震懼す。鎮人の安定の郭純、王奴らは眾を率い懿を圍む。紹は蒲阪より入り、懿を執え之を囚じ、孫暢らを誅す。


(晋書119-16_仇隟)




気になるのは「王國為蛇畫足,國之罪人」って表現です。これは後秦人特有の言い回しなのかなあ。おそらく「蛇足」の語源なのかしらって感じはするんですが、他のところでは見掛けず、後秦でこれが二例目なんですよね。さて、どう評価したものか。


比喻做事節外生枝﹐不但無益﹐反而害事。


辞書を引くとこう載ってる。出典は戦国策。「節の外に枝が生える」ってのは、本来あってはならぬところに生じる枝で、こんなんメリットは一切なく、むしろ害しかない、という感じでしょうか。蛇足よりも圧倒的に意味合いがきついなこれ。


ただ 調べてみると、やっぱり「蛇足」と同じ故事からの発祥語でした。みんなに蛇の絵を描かせたところ、一番早くに蛇を描いたやつがうっかり足を付け加えて、二番目に描けたやつに「足がついたら、もうそれ蛇じゃねーじゃん」と栄冠を奪われたやつ。で、それがなんで「悪人の配下」みたいな意味合いになるんでしょうかね。


そう表現されるに相当する故事が、戦国策と晋書との間に存在してそうです。さて、どう探したもんか。

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