12

「西側の景色見たことないだろう?」


「……えっ?」


引き寄せられた体は、大きなガラス窓の前に立たされていた。そこからはまた街並みがパノラマに広がる。


いつも執務室から見える南側、先ほどエレベーターの中から見た北側、そして今見えている西側。

どれも同じ都会の街並みが見えるのに、その景色はまったく違うものだった。


「うわあ、すごい!こちら側は川が見えるんですね!ビルが少ないから遠くまでよく見える!」


「子供みたいなはしゃぎっぷりだな。」


一花が興奮して言うと、柳田はからかいながらも満足げに笑った。


「さてと、そろそろ行くかな。」


「あ、はい。」


時計を見て歩き出す柳田に、一花も慌てて着いていく。


(もしかして景色を見せるためだけにここに来たの?)


景色を見た以外は特に何もなく、そう思うと妙な嬉しさが込み上げてくる。


「社長、ありがとうございました。」


「おう。」


一花のお礼に柳田は振り向きもせず短く返事をした。そっけない態度がなんだか可笑しくて、一花は柳田の後ろを歩きながらこっそりと微笑んだ。

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