「ハイ☆ジャンプ」
サカシタテツオ
第1話 願い事はシンプル
「お兄ちゃん! お願いがあるんだけど!」
ノックもせずに俺の部屋に飛び込んできたのは制服姿のままの妹だ。
「なんだよ突然。というかノックしろって」
普段からそういったマナーやエチケットにうるさいくせに自身がソレを守らない妹には本気でムカつく事がある。
「そんな事は今どうでもいいから!」
「どうでも良くねぇ! まず自分のマナー違反を謝罪しろ。話を聞くのはその後だ!」
いつもならこの後しばらくギャアギャアと言い合いになるはずなのだけど今日の妹は少し違った。
「わかった。ごめん。ノックしなかったのは反省します」
「お、おう。なんか今日はえらく素直じゃん」
素直に自分の非を認める妹にコレ以上強気にでるのも兄として大人気ない。
「エロ動画鑑賞の邪魔してごめんなさい」
「見てねーよ! ゲームしてたんだよ! ホラ! コレ見ろよ! ゲームだろ!」
結局普段通りの言い合いになってしまった。
「で? お願いってなんだよ?」
一通り騒いだ後、なかなか本題を切り出さない妹に助け舟を出す。兄として当然の気遣い。
「・・・」
「なんだよ、どうしたんだよ」
いつもと様子の違う妹を見て少し心配になる。
「お兄ちゃん・・・」
「どうした? なんかあったのか?」
妹は俯いたまま少し肩を上げる。両手の先は強く握りしめられ、フルフルと震えている様だった。
こんな思い詰めた雰囲気の妹を見るのは初めての事なので動揺してしまう。
「おい、大丈夫か?」
ただ事ではないのかもと思い俺は妹の側に寄ろうと椅子から腰を浮かせる。そんな俺の様子に気づいた妹は右手をコチラに向け俺の動きを制止する。続けて大きく息を吸い込み『何かを決意』したかのような真剣な表情で俺を真正面から見つめ声を上げた。
「ヌード撮らせて!」
「 ! 」
唐突に発せられた妹の言葉は意味不明だった。いや妹が何を言ってるのかは理解できた。できたけれど何を意図しているのか見当がつかない。
「お願い! はだか撮らせて! お兄ちゃん!」
今度は暴走スイッチが入ったかのように妹が迫ってくる。
「いや、待て!お前は自分が何言ってるのか分かってんのか?」
「分かってるよ!」
俺の方が怒鳴られた。
「いや、お前、なんかソレおかしいだろ?」
「おかしくなんかない!」
さらに怒気の強まる妹の勢いに負け俺は壁際まで追い詰められる。
「ちょっと落ち着こう。な?」
煽られて興奮しきった闘牛みたいな妹をなだめるべく少しゆっくりと喋りかける。そんな俺の思いが伝わったのか妹の纏う空気も穏やかなモノへと変化して行く。
「ねぇ? お兄ちゃん」
「なんだ? 妹よ・・・」
普段なら妹に対して妹と呼び掛ける事なんて絶対にないのだが、今、この雰囲気の中でいつもと同じように名前で呼び掛ける事は出来なかった。
「脱いで」
「やだよ」
断固拒否の意思表示を男らしく3文字で返す。そんな俺の態度が気に入らなかったのか妹の目に再び凶暴な光が宿る。
バンッ!と大きな音が両耳のすぐ傍から発生した。
ーー壁ドン・・・だと・・・
「ねぇ、いいでしょ?」
とても自分の妹から発せられたとは思えない艶かしい声に俺は心臓を下から上へと絞りあげられる。喉の奥が狭まり呼吸も乱れ鼓動は早くなり思考もだんだんと怪しいものへとなって行く。
ーー理性のあるうちに正しく判断し正しい行動をしなければならない。
ーー兄として!
俺はオスの野生を押さえ込むため、狭まった喉の奥に無理やり空気を送りこむ。続けてなるべく低い声を使い優しく言葉を送り出す。
「俺のヌード写真なんかどうする気なんだ?」
実のところ妹に質問を投げた俺の方こそ冷静では無かった。
自身の鼓膜を直接揺らすほど心臓の動きは早く激しくなっている。眼球の奥に熱が篭もり俺の視界は既に妹の顔以外認識出来なくなっていた。
ーー早くこの状況から抜け出さなければ、かなりの高確率で兄としての道を踏み外す可能性がある。
ーーけれどもし妹がソレを望むと言うのならば、あるいは・・・
「ん? 投稿するんだよ、SNSに」
妹の声が俺の耳に届いた。
妹の言葉は脳内で高速処理され瞬時に全身へとSTOPコマンドが送られる。
高鳴っていた心臓に急ブレーキがかかり、酸素過多で暴走していた神経細胞達は省エネモードに切り替わって行く。
その際に沢山のデータが海馬から失われた俺は妹にこう言わねばならなかった。
「パードゥン?」
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