公然の秘密

 末弟にかがむようにおねだりした娘が何事か耳打ちをしている。末弟は思い切り破顔し、恭しく手を差し出した。娘は妻譲りの蜂蜜色の瞳に星を浮かべ、嬉しそうに小さな手のひらを重ねた。

「タイニー・ベル、どうした? 迷子みたいな顔をしているぞ」

 末弟の婚約者殿は、三度大きくまばたきをして一つ息を吐いた。それから人差し指を立て、秘密にしてくださいね、と淡く微笑む。

「……わたしだけのヘンリーおにいさまではなくなってしまったみたいでなんだか少し寂しいな、と」

 可愛らしい嫉妬につい頬が緩んだ。すると、妻が細い指でラグランドの腕を突き、窘めるような目線をやんわりと送ってきた。笑い返して咳払いを一つ落とす。彼は眉をきりりと引き締め、未来の義妹を小さく手招きする。そして、首を傾げたイザベルの耳元にとっておきの秘密を囁いた。

 あれはお兄様ではなくて君だけの王子様になれる日を昔から首を長くしてずっと待っているよ、と。

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