5分で解決探偵、あらわる(ミステリーの肝)
カクヨムさんが去年あたり?から始めた児童文庫の『5分で読書シリーズ』
これの新テーマが募集されました。みなさん、すでにご存じの『誰にも言えない恋』と『5分で解決探偵、あらわる』ですね。
僕はミステリー書きですので、今回は参戦しております。たまたま、新規の長編が完結まで書けて、次の新作までのあいまの期間だったこともあって、すでに九話出していて、さらに四話は書きおえてますので、全十三話ですね。まだ書くかも。
この“5分で解決”をどう解釈するかで、求められてるテーマがまったく変わってくるんですが。
一つは、人間が五分間で読める文字数がちょうど募集要項の3000〜6000字くらいとみなし、つまり、その文字数内で完結する、ミステリーの読み切り短編であればいい、と解する。
もう一つは、作品内の時間にして5分で解決するストーリーを作る。
まあ、「私はすべてを五分で解決してみせる」といつも決めゼリフで言うけど口だけ、みたいな探偵を出してもいいんだろうけど、それだとミステリーとして、たぶん、つまらない。
僕は最初、一つめのほうだととって、ミステリーならなんでもありだと考えた。なので、とりあえず6000字におさめられそうな短編ミステリーは全部つっこんだ。
でも、いざフタをあけてみると、意外と皆さん、ほんとに五分以内で事件を解決するストーリーを作ってた。
ちょっとあわてて、その要素を足す僕でした。
ところで、ここまでは前置きです。本題はここから。
自分が出してるので、どのていどの水準の作品が集まってるのかなと、応募作品をけっこう読みまくってます。今日までで84作品ですね。
ただし、読むのが苦痛になったところでやめてるので、最後まで読んだ作品はたぶん10〜20%ていど。半数以上は冒頭の1000字以内でやめました。
以前、エブリスタの妄想コンテストにおけるミステリー作品についてのエピソード(短編ミステリーのコツ)のときにも書いたけど、冒頭でやめてしまう作品の特徴は、とにかくキャラクターの設定が出だしで始まり、えんえんと続く。
正直、事件が起こる前に〇〇はこういうキャラクターで、容姿はこうで、性格はこう、とか書かれても、どうでもいいんですよね。
こういう人たちはたぶん、魅力的なキャラクターを演出したいんだろうけど、キャラの魅力は行動で示すべきだと、僕は思うんですよね。冒頭であれこれ説明されても、それを魅力的だと読者は思わないです。
エブリスタの妄コンは100〜8000字なんですが、カクヨムの5分で読書イベントは3000〜6000字ですよね。
ミステリーはほかのジャンルより伏線が多いので、8000字でも本格的なのを書くには厳しいんですが、6000字はさらに難しい。
事件の起こりから経過、ヒントやらミスリードやら、トリックもあって、どんでん返し。謎解きもしないといけないし……。
だからなんでしょうね。
次に多いのが、冒頭から事件が起こり、その後、事件の説明、または容疑者の説明が、これまたえんえんと続く。
冒頭から事件が起こるのはかまいません。でも、そのあと事件の概要がずっと続くと、問題集を読まされてるみたいで苦しいんですよ。ひどい場合は容疑者の特徴などが箇条書きされてるので。それも二、三行ずつの短いやつならわかりやすいけど、一人につき二十行とか、けっこう長い。
一作はこの書きかたでもトリックがしっかりしてたので、なんとか最後まで読みましたが、小説としては味気なくて、もったいなかったです。
今回、ミステリー限定イベントの作品を多数読むことで、よりミステリーの難しさを感じました。
たぶん、応募者のなかの大多数は、ふだんミステリーを書かないし、読んだことない人も少なくないんじゃないですかねぇ。『ミステリーを書こう』と思うことで、残念ながら、小説になってない話が多い。
ミステリーはたしかに、事件が起こって、それを解決するという最低限のルールがあります。
でも、それ以前に小説なんですよね。小説としておもしろくなければ、当然、つまんないってことになるわけで。
事件をまとめることに精一杯で、小説としておろそかになっている——そんな印象を受ける作品がほとんどです。
では、逆に「これはおもしろい!」と思った作品を例にあげてみましょう。
84作品のなかで、及第点(最後まで楽しんで読めた)のは二割をちょっと切るくらい。さらに文句なしにおもしろいな、レビューを書こうと思ったのは、今のところ四作品。じっさいに書いたのは三作品ですが。
なので、21分の1が抜群におもしろい作品というわけです。ちなみに自作は数に入れてません。当然のことながら。
四作品とも作風はまったく違ってました。作品名とか作者さんの名前、ここでは書きませんが、まあ、僕がレビュー書いた一覧を見れば、ああこれかぁとはわかります。
一つはお伽話をモチーフにしたコミカルな作品。コミカルなんだけど、意外とリアリティがあって、冒頭から文章力でグイグイ読ませる。ラストのドラマ性もお見事。
二つめはタイムリープを数学的に表した内容で、最大公倍数とか公約数とか数学を解いてる感覚をうまく小説に落としこんでました。しかも、ちゃんと読みやすい。一人称で書かれてるせいもあるけど、問題集ではなく、しっかり小説になってました。
三つめは、ほろ苦い青春ミステリー。今回、読者対象が小学高学年から中学生ってことで、ラブレターやバレンタインをあつかった話が複数あるんですが、そのなかでも、ただ可愛いとか、ピュアな恋愛、初恋とか、そういうもの以上に、青春のやるせなさや苦さを感じさせてくれる良作でした。(これだけレビュー書いてない)
四つめは小中学生というよりは、完全に大人むけの読み物かなと思ったんですが、公式レビューが以前についたやつってことで、クオリティには間違いなかった。たぶん、文章力とか作品じたいの質としては、この水準が求められてるんだろうなと。人生の痛みやつらさを知った年代が読めば、その良さがわかる作品だと思います。
で、四つともタイプはまったく違う話ですが、共通点としては、ドラマがあるってことですね。ただの事件の説明ではなく、そこに人間がいて、どういう思いで生きていて、その結果、何が起こるのか。そこがしっかり描かれた作品でした。
自分で書くのは無意識にやってるので、あんまり気づいてなかったんですが、多くの応募作品を読んだときに「まあまあ読めるんだけど、何かが足りない」と思わせるものがなんなのか、これらの四作品が答えを出してくれた感じです。
事件や推理はもちろん、ちゃんとしてないとダメなんだけど、そこに物語としてのドラマがないと、小説としてつまらない。
がんばってドラマを作ろうとしてる人も見かけるんですが、心情描写が足りなかったり、例の問題集的な書きかたで読もうという気持ちをそがれたりしてしまう。
あともう一つはですね。四作品は全部、文章力が高かったんです。小説のおもしろさは文章力よりプロットのうまさだ、と前々から僕、言ってきたんですけどね。
ホラーはちょっとヘタな文章でも、臨場感が出て、それはそれでおもしろかったりするんですよ。
だけど、性質上、説明描写が長々続いてしまいがちなミステリーでは、それを説明だと思わせない文章力が必要になってくるんですね。
それもプロットのテクとも言えなくもないですが、ミステリーこそ、つかみのおもしろさが大事なんだなと。
同じように設定描写を頭に大量に持って来がちのSFも気をつけないといけません。昨今、本格SFがさっぱり受けないのは、そのへんが関係してるのかも。冒頭の重さで、SF=つまらないと読者に植えつけちゃったのかもしれませんね。そういえば、ミステリーも過疎ジャンルだし。二ジャンルの思わぬ共通点。
ミステリーやSFこそ、軽快に動きのある描写から入り、そのまま自然に事件に入っていくべきなんでしょうね。
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