バカップルは世界を救わない
おしゃもじ
第1話 下着姿で召喚された!?
私は自他ともに認める美少女、夢川ナナミ17歳。
今はお風呂上り。
美少女はタダでなれるものではないの。努力でなるの。
お風呂上がりは全身に化粧水を。
自分でも、うっとりするくらい白くて、つややかな肌。その肌に化粧水を滑らせる。
首筋から、そして胸にもしっかりね。
若いうちからのケアが大切。
鏡に映るのは、サラサラの長い黒髪に、小顔、パッチリした二重の美少女。出るとこは出て、締まるところは締まっている、完璧なボディ。
丹念にケアをして、下着を身に着けたところで、辺りが眩しくなる。
何事ッ!?
強い光で目がくらむ。
なんとか目を開けると、そこはお風呂場ではなく、教会のような場所。分けが分からなすぎて、あまり驚いていない自分がいる。
目の前には、司祭?のような格好をした、金髪の少年がいる。コスプレした外人?
私を見るなり、少年が鼻血を出してぶっ倒れる。
そうだ! 私は今、パンツとブラだけの下着姿! 美少女のこんな姿、無理もないわ!
納得している場合ではない。人が倒れているのだ、介抱しなくては。
倒れている少年の頭を持ち上げ、太ももに乗せる。
「大丈夫?」
目を開けた少年の顔に、さらりと私の髪がかかる。
また少年が、鼻血を出して失神してしまう。
私のバカ! 美少女の自覚をしっかり持たなくては! いや、内心であろうと、本当にバカなのか、自分! バカだな! うん!
このままでは私の美貌で、人を死に追いやってしまいかねない。着るもの、着るもの。
近くにひざ掛けのような大きめのストールがあったので手に取って、被るように体に巻きつける。
もう一度、少年に声をかける。
「大丈夫ですか?」
少年が飛び起きると、私からすごく距離をとる。
「すみません! はしたない姿を!」
外人みたいだけど、日本語を話すな。
「いや、いや、どっちがはしたないか、わかんないし、気にしないで」
これごときで、怒ったりしない。なんていい女! 私! てか不可抗力だしな、うん。
「いえ、僕が召喚してしまったせいでして!」
「うん?」
少年の話を聞くと、ここは異世界ってやつ!? いや、私はオタクじゃないから聞いた事しかないよ!? 召喚?する人間違ってる! リアルな世界でアイドル、女優になれる私にとって、何一つありがたくない!
少年が私の手を包み込むように握る。
キレイなサラサラの金髪、小さな整った顔に、海のような青い目。どこか儚げな姿。
「この世界を救ってください、女神様!!!」
「はいッ!!! 任せてください!」
私はイケメンに、めっぽう弱いのだ!
ーーー
私は異世界と、こっちの世界を行ったり来たりできるらしい。行けるのは、日に3回まで。なので無駄に異世界に行ってはいけない。魔物が現れた時のために、とっておかなくちゃいけないそうな。
でも会いたい! あの美少年リオ君にッ! もう、私達、付き合ってるよね? だって、あんな姿を見られちゃたし、責任とってもらわなくちゃ、責任って何!? キャーッ!!!
隣の席の子が、シャーペンで私のことを突いてくる。もうッ! 人が大妄想しているときに何? 目の前に先生が……いる……。……なんて怖い目。
そうです、授業中です。
そうです、私は美少女だけど、割とアホです。
ーーー
僕は召喚士。リオ16歳。世界の平和を託された名家の生まれ。
この世界は魔物という災厄に常に脅かされており、召喚士の存在は必要不可欠。
精霊などを召喚して戦うのが普通だが、僕には100年に一度といわれる才能があるらしく、時空を超えた世界の人を召喚できるらしい。
その人が100年に一度現れるおかげで魔物はこの程度で収まっており、召喚できなければ魔物は、増えていく一方。つまり、責任重大。
そして、16歳の誕生日に僕は挑戦してみた。なんせ100年に一度の逸材だから、教えてくれる人なんていない。文献を読むと召喚してはいけない時間が書いてある。
成功するかどうか分からないから、そのことは気にせずやってみる。
すると、黒髪の美しい女神が現れる。……あられもない姿で。
成功……してしまった。
女神様の名前はナナミ様。なんて可憐な響き。
美しいだけでなく、僕を介抱してくれた心の優しい方。
話を聞くとお風呂中だったそうで、召喚してはいけない時間の意味が分かる。やたら、リアルだな……。まあ、考えてみればそうか。今度、他の精霊達の予定もちゃんと聞いてみようと思う。
しかし、僕は健全な男の子なので、考えてしまう。
えっと、この前は下着姿でしょ? 間違えたと言って、もう少しだけ早い時間に呼んでしまったら!? キャーッ! 僕の変態!!! ムッツリ! 女神様になんて無礼を! ダメダメ!
隣の席の子が僕を腕を突く。先生が目の前にいる。なんて怖い顔。
そうです、授業中です。
そうです、僕は名家で、天才召喚士ですが、アホです。
ーーー
もうダメ。リオ君に会いたくて死にそう。3回いいんだから、1回くらい、いいよね。
私が強く願ってもリオ君に会いに行けるって話だから……。
私は、強く、強く願う。
辺りが、急に光でいっぱいになる。
目を覚ますと、リオ君にお姫様抱っこされている。やだッ!
「ナナミ様ッ!?」
「ちょっと愛が強すぎたみたい……。ドストライクで、リオ君の腕の中に」
私は体をリオ君によせ、上目遣いで見つめる、リオ君も私を熱い目で見つめてきている。
それ以外も、視線を感じる。
辺りを見回すと、教室のような…?
先生? のような若い女性が金切り声を上げる。
「リオ! 成功したのですか!?」
「は、はい」
「何で早く言わないのです!」
その後に、大号泣する。
「これで、世界は救われる!」
他の生徒達も、大号泣する。何これ、怪しい宗教?
「すみません、女神様、驚かれましたよね。ぼ、僕も驚きました。だって、僕の腕の中に……」
周りの反応そっちのけで、リオ君は顔が真っ赤。すごく可愛い! 私達の心は同じはず。
「リオ君……好き!」
「えっ!?」
あんまりにも、見上げたリオ君の顔がキレイで! つい私は言ってしまう! キャーッ! 告白しちゃった! だって、異世界でしょ? 日に3回でしょ? 他の女に持ってかれたらどうすんのよ!
「リオ君は……、私のこと好きじゃないの?」
「いえ、そんな世界を救う女神様にそんな、恐れ多い」
「じゃあ、もう来ない」
私はむくれて、そっぽを向く。私のコレをくらって、平気でいられる男の子に会ったことがないのだ! ははははッ!
「そんな……。僕も、好きです!」
「リオ君ッ!」
私はリオ君に抱きつく。
「コラッ! リオ、女神様に何をするのです! 世界を救ってくださる女神様に!」
世界なんて、どうでもいい! リオ君に会えればそれで!
ーーーー
若い女の先生に、リオ君と、私は、学校の中庭のようなところに呼ばれる。
「女神様、失礼かとは存じますが本当に女神様かどうか」
「えー。女神とか、どうでもいい。リオ君といられれば」
私はリオ君に腕をまわして、リオ君を見つめる。
「女神様、すみません。お願いできますか?」
「えー! リオ君は、私が女神じゃないと、嫌いなの!? 利用するの!? ひどい!」
「そんな! 私はナナミ様が好きです」
「リオ君!」
先生が咳払いをする。
その咳払いで、リオ君は少し姿勢を正す。
「ナナミ様、この方はエイダ先生です。とても優秀な方なんです。僕の小さい頃からの先生で」
「もう授業は終わったので、ルイス家の家臣として振る舞います。リオ様」
何? ただの先生じゃないの? ちょっとまだ若いし、ちょっと美人?だし。20代前半? リオ君に親しい口ぶり。
「ふーん。ただのヒステリーなおばさんかと思った」
「やっぱり違いますよ、この小娘ッ!!! ただの色気づいた女ですよ! リオ様、騙されちゃダメです。成功しても違うこともあるって話じゃないですか!」
リオ君がエイダ先生をなだめる。大変ね、リオ君も、おばさんの相手は。
「まあまあ。文献によると、ナナミ様は魔法が使えます! 普通の魔法も、召喚魔法も! たちまちに披露してくださると書かれていました!」
「いや、そんなこと言われても、分からない、分からない。魔法???」
「じゃあ、少し僕がやってみますね」
リオ君が右手を軽くひねると、手から水が生まれ、イルカのような形をつくる。
そして、私の眼前にやってくると、イルカは私の鼻先に軽くキスをする。
すると、サッと消えていく。
何それ! 反則! こんなサプライズをプロポーズでされたら! こんなサプライズされたことない! 惚れた! 惚れてるけど! 惚れた!
エイダ先生がむっとしながら、説明する。
「これが、世界を救う召喚魔法です」
もうっ! 雰囲気台無しじゃない!
リオ君がステキな微笑を称えて、私に説明を加えてくれる。
「ナナミ様、今、水の精霊を呼びました。ナナミ様もできるはずです」
「え? マジで? 全然できる気しないんだけど。この世界の人はすぐできるの?」
「いえ。クラスメイトでいうと、勉強はしていても、誰もまだ召喚できません」
「リオ君だけできるの!? リオ君、すごいんだね!」
リオ君は他の子に比べて優秀なんだ。イケメンで優秀で、エイダ先生は手下!? 下僕!? ますます、素敵!
私はさらにリオ君の腕にきつく抱き着く。
また下僕、エイダ先生が咳払いをする。
「早くやってみなさい、小娘」
「先生、女神様に向かってそんな」
「女神じゃありませんよ、リオ様」
負けるが勝ち! 女の子は可愛ければいいのッと、思っている私も、さすがにやってやろうじゃん!って気になってくる。
「じゃあ、やるわよ!」
手首をひねる。何も起きない。
もう一回ひねる。けど、何も起きない。
何も起きない!!!
だよね。全然出来る気がしない。
他の子が全員出来ないものが、何故に私が即興で出来るのか。ひどくない?
エイダ先生が、満足げに私を見下ろしている。
「ほら、みなさい」
知るか、勝手に呼ばれて、勝手にガッカリされても。ねえ? リオ君?
リオ君の方を振り返ると、リオ君まで残念そうな顔をしている。
リオ君が、私に失望している???
そんな、そんな顔をしないで欲しい。女神じゃなきゃ私は、リオ君にとって無用な存在なんだ。好きっていってくれたのも、女神じゃなきゃナシ?
私の目から涙が溢れてくる。
「ヒドイッ! リオ君は私のこと利用しようとしただけなんだ!」
私は走って、元の世界に帰っていく。
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