第11話 世渡りには多少のあざとさも必要
あれから、闇は、右手に手袋をしていた。一応、黒腕は能力が発動しない限りは現れない。しかし、いつ能力を使うか分からない。それ故に赤い手袋で黒腕のことがばれないようにしていた。
それを提案したのは、氷柱だった。もちろん、自分もそのことは考えていた。たった2日間との出会いだが、こう言う状況の中だと、氷柱は異常にそのことを気にするのではないかと思っていたが、その日の昼休み、闇と氷柱は教室で昼食を食べていたがその時氷柱は、ニンマリと笑顔をしてごきげんな様子だった。
「お前、何薄気味悪い笑顔を浮かべてんだよ」
「いいえ、昨日うれしいことがありまして」闇に問われると、笑顔は冷笑に変わる。だが心のなかは(まさか、虚淵隊長から直々にお褒めの言葉を頂くとはおもいませんでした)と喜んでいた。
昨日、氷柱は、交差に呼ばれ、風紀委員会で話をしていた。
「まぁ、そう言う訳でしばらく、DALLSの彼女は、監視対象となるね。あと、来るべき時が来たら自分で直接確かめることになるらしい」
「来るべき時?」氷柱は首をかしげる。
「さぁな?普通警察課の奴らが、破壊して部品だけを持ってこい。なーんて言われたりでもしたらこっちも無理やりにでも動くしかないだろう」交差はそう手を広げて言った。そして、コンピューターの椅子に座ると、グルリ、グルリと大きく回転させて戯れながら続けた。
「私たち特殊警察課は、表舞台には立てない、と言うか認められない位置にいるからな。ま、能力やサイボーグによる事件、能力者の存在なんて一般の人々に認識されることを防ぐためにいる」
そう、今の世の中は、世界的には少ない数の人数が突然変異で能力が目覚めるとされているので、能力がそうそう認識されていないのだ。
そのような中、能力を使った犯罪を起こっていることを知れ渡ったらどうなるのか、こう言った能力を持っている者が犯罪者予備軍にされて、迫害や監禁されてしまう危険性が高いのである。
そんなことはないのではないかと思う人がいるかもしれないが、現に能力者の存在を危険視する人たちが多くいるのだ。本まで出てきている。スポーツ界に進出してきている者もいるがその者たちも光条グループが運営する全国運動協会では危険視されており、光条グループ特性の能力を制限する機械をつけられている。
再度、問題に戻る。このような中、能力を使った犯罪を起こっていることを知れ渡ったらどうなるか、能力を持っている者が犯罪者予備軍にされてしまうだけではない、能力者、非能力者による戦争が起こってしまう危険性だってある。
だから、能力の犯罪が世間に知られるわけにはいかないのである。
無論、こうなると、本当に能力を悪用する犯罪者たちの好き放題になるじゃないかと思うかもしれないが、そのために、彼女たち、『特殊警察課』がいる。
彼女たちが能力者の犯罪を秘密裏に取り締まっていることで世界の均衡を保たせている。
一方で、能力絡みではない事件は普通警察課が担当をしているが、普通警察課も問題点がある。しかし、それは後ほど。
「まぁ、もう、世間がひと昔前のゲームみたいなことが出来る時代になっているし、いずれは人々がこんな事件を起こす奴やサイボーグも現れるんじゃないか、とも思ってくると思うしな」と交差は未来の危険をよぎらせた。
「今回の件は、サイボーグが事件を起こしたとなると今、家庭用で済んでいるありとあらゆるサイボーグ全てを破壊することを求める運動なども起こってしまう可能性も出てきます。だから、今後は、音斬 小夜子さんは監視対象となるのですね?」
サイボーグ、能力の存在は認められないが、何故かサイボーグの存在は認めている。
それは企業の信頼とも言える。この世の中では、その企業の信頼が全世界にまで及んでいる。
全て、『光条グループ』のサイボーグが優秀なおかげだ。何をしても反抗しないし、高性能である。結局、何もしない人形、自分の絶対の味方、それが人々のニーズなのである。
「音斬 小夜子?」交差は椅子を回すのをやめて氷柱のほうを見る。
「DALLS NO3の彼女のことです。」
「ああ、なるほど。たしかその名前って黒城 闇がつけた名前なんだろ?音斬 小夜子 なかなか良い名前だな。魔笛交差とか訳わかんない名前よりよっぽど良い」
「ええ、私も良い名前だと思います。」
「あいつ、虚淵隊長とは気が合うとは思うぜ。ま、来るべき時がきたらどういう風な反応するか分からないけどな。」
「えぇ、それはそうと、交差さん、貴方の名前も素敵ですよ」
すると交差はそっぽを向いて、
「あっそう」と言った。
「反応が薄いですねぇ、恥ずかしがらずに良いんですよ」と氷柱が言うと、交差は恥ずかしさをごまかすように「それは、そうと、虚淵隊長が『貴方がいなければ、私は彼女たちに接触していました。ありがとうございました』っだってよ」と言った。
すると、氷柱は、「わ・たくしに?」と信じられないと言うような声を出した。
「ああ、そうだよ・・・・っておま」
交差が振り向くと、そこには、制服をはだけだし、すぐそばにある椅子に乗りクルクルと踊り狂っている氷柱がいた。
「あの方から!!お褒めの言葉を下さるなんて、なんて素晴らしいことなんでしょう!! 立場は違えども、また私に友と言う愛の欠片が、あぁ、でもいけません、あの方とは仕事仲間」
(だから、なんでそんな極端な考えするんだよ)と交差は言おうとしたが、愛の矛先が自分に来そうなので、言うのをやめた。
「おーい、聞いてんのか」暫く自分の世界に入っていたので氷柱は闇が何回も呼びかけていたことに気付かなかった。
「ふぇ!?あ、すみません何の話をしていたんでしょうか?」
「あいつだよ、あいつ」
闇が目くばせした方向には、数人の生徒と食事をする音斬 小夜子の姿がいた。
「ああ、彼女でしたら、しばらくは監視することになっています。」
「だからって、同じ学校に転校させることもないだろう?、ほら、よく見てみろよ、あいつの顔、生徒と話してるけど、話している最中でも、時々、こっちをみてくるんだよ」
氷柱は、みると、生徒と会話している最中今でも、時々こちらに顔を伺わせている。いや、顔を伺うと言うよりは目を光らせている言うべきかもしれない。しかし目に光は無く闇が広がっている。完璧に暗殺者の顔だ。
「それにあいつ、時々、まじで私を殺そうとする」
それは、授業中、闇が眠りそうになっていた時、頭にものすごい衝撃が走り出したのだ。
そして、それのせいで闇は「ふぁ!?」と叫び声を上げてしまった。頭に当たったものが
くっついていたので見ると、それは消しゴムの欠片だった。
「ッチ」自分の隣の席で舌打ちしたのが聞こえた。見ると、小夜子が黒い眼で自分を睨みつけている。
「闇さん、授業に集中してください」と先生にしかられるものの、小夜子は「闇さ~ん? だ~いじょ~ぶですか~?」とさっきまでの黒い眼から一変、目には普通の人が気遣いするような優しい目と声をしていた。
しかし、闇はその声があざとく聞こえて胸倉を掴み食って掛かりそうになると「ど、どうしたんですか?私は、ただ、闇さんを心配しただけなのに」と演技をした。当然、非難の眼差しが闇を見つめる。 クラスの同情を買い、結果的には闇が悪者になってしまう。
「まぁ、彼女はしばらくは、わたくしたち、主に同じクラスであるわたくしが監視を任されているのでそこらへんは安心してて下さい。」
「ホントウかぁ?なら良いんだけどさ」
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