第10話 生まれてきた理由は…

氷柱は黒い何かが周りを覆いかぶさるのをを見るなり「闇さん!!」と言い、自ら黒いなにかに飛び込んでいった。


 な、んだ、これ、黒くてなんにも見えない。そうだ、あいつはどうなった!! 黒い何かの中で闇は、小夜子のことを心配していた。そして、この黒い何かは自分を攻撃していないことに気付いた。狙いは私じゃない?だとしたら、まずい!!!! 闇は、一気に、さっきまで小夜子のいた所に駆け寄った。


すると、彼女は黒い何かにすっかり全身を覆われていた。


「ックソ!!」闇は必死に小夜子を覆う黒いなにかを取り払おうとした。しかし、なんど取り払っても取り払っても黒い何かは止まることなく小夜子の体を覆っていった。


「な、んで、あなたは」小夜子は、自分の意識が遠のく中必死に自分を助けようとしている闇に疑問を持った。


「一体、何なんだよ!!、これは!!!!」その時、ズキッと彼女の左手に鋭い痛みを感じた。


なんだと思ってみると、左手が黒い何かに覆われていることに気付いた。そして、ズキズキとくる痛みははっきりと何かに食われていることに気付いた。


「これは、まさか」


「蟲を生み出す能力!!!」


直後、あれだけ覆っていた黒い何かは一気に消え去った。


「お前、どうして消すことが出来たんだ?」


「わたくしの能力は、凍結能力だけではなく、相手の能力を言い当てたらその能力を凍結、つまり封じることが出来ます。」もちろん、相手に聞かれなければ完全に消すことはできない、つまり、近くに能力の張本人がいたことになる。


「マジかよ、結構すごい能力だな。そうだ、アイツは」闇はそう言うと、小夜子の姿を探した。すると、地面に左胸から下は中の機械が漏れ出して切断というよりは、食いちぎられたような姿をした小夜子の姿があった。


「小夜子、おい、この状態、大丈夫なのか!?」とすぐに氷柱に訪ねると、「ええ、サイボーグは、体内に心臓となる核を持っていますその核を破壊されない限りは、特に今回『DALLS』に限っては相当硬い核を持っているはずです。」そう言って、氷柱は、小夜子の体を抱きかかえ右胸に手をあてた。「右胸に核があります。大体サイボーグが死ぬときは、必ずサイボーグ特有の死相が見えます。今回に関しては、彼女はDALLSの一人であることから、核さえ大丈夫であれば、死ぬことは無いでしょう」


「そうか」


闇がなぜ、安堵しているのか、氷柱には理解しかねた。下手すれば自分も死んでいたかもしれない、元々彼女は闇を殺しに来たようなものなのだ。なのに何故彼女のことを心配するのだろうか。それは、小夜子も思っていたらしく。「な、んで、わたしを」ととぎれとぎれながらにそう言った。すると、闇ははぁ、溜息をつき「だから、さっきも言ったろ? お前の能面が気に入らなかったからだ」と飄々した態度で答える。


「それだけ? 本当にそれだけで、私を助けたんですか?」


「ん? ああ」自身の問いかけに当たり前だろ? と言うように頷いた。


そんな闇を見て、小夜子は「はぁ」とため息をついた。突如、ズズズズズと小夜子の周りに水がオアシスのように集まってきた。そして、ズチュ、ズチュ、と水はスライムのようにぎこちなく小夜子の体を持ち上げ、右胸以外の小夜子の体の組織を修復するように、水は形を作った。そして、それは、体、それだけでなく、セーラー服とスカートを再現した。


 しかし、制服の方は、少し修復が不完全であり、左胸は少し露わとなった。


 乳首が見えるのではないかと言うように氷柱が小夜子を見上げたがそれを闇が殴って止めた。


「私は・・・いえ、私たち『DALLS』はあなたたち『ゴッドハザード』を殺すために生まれてきた殺人兵器です。それ以外に意味はありません」


闇は、自分の左手にある感覚があることに気付いた。見ると左手がさっきまでボロボロになっていたのに元の手の形に修復されている。


「それは、先ほどの借りです」


闇と氷柱が見ると、ちょっと照れ臭そうに少し困った表情をしてそっぽをむいている小夜子がいた。その姿は


「はっ」と闇は吐き捨てるように笑った。


 それに何か不快なものを感じたのか「なんですか、サイボーグが照れたような表情をしたのがそんなにおかしいのですか?」と目に皺を寄せて睨みつけた。しかし、恥ずかしさがあるのか頬の赤るみを残していた。


「いや」そう言うと闇は小夜子に真っ直ぐ顔を向けた。闇の表情は穏やかだった。何か安心しているように見えた。


「お前は、殺人兵器なんかじゃねぇよ、ただの普通の女の子だ」そう言って立ち上がった。


その言葉と言動に小夜子は面食らったようである。頭を後ろからたたかれたように驚いた顔をしていた。随分と懐かしい響きだった、けど、あの時よりも少し荒々しかった。


「な、なにを」


小夜子が戸惑っていると闇がいきなり、クシャッと髪を撫でてきた。


「「なっ!?」」


小夜子と氷柱が同時に声を上げた。


「何を、しているんですか、あなたは、自分がどんな存在にむかって頭を撫でているのか分かっているのですか、私は、あなたを、殺そうとしているのですよ」言葉をとぎれとぎれに、片目、そして、両目を瞑りながら、小夜子は全身に熱を帯びるのを感じた。あの時、抱きしめられた時と同じ感触を感じたからだ。


「知るか、そんなこと」そう言って、撫でるのを止めると、コツンっと小夜子の頭を小突いた。


「お前が殺人兵器として生まれてきたとかどうでも良いんだよ、そんなことは、せっかく生まれてきたんだ、いや、生まれてきてしまったんだ、頼んでもないのに生まされしまったんだ」


 そこで、闇はやり場のない悲しみをため込むように険しい表情になった。


「お前は、自分が『ゴッドハザード』を殺すために生まれてきたって言ってきたよな、残念だがそれは、正確に言うと違う。お前がもし、私に殺されたらまた新しい刺客として、お前の代わりに誰かが派遣される」


小夜子は自分は何を聞かされているのか意味が分からなかった。自分が闇を殺そうとしている事実は変わらないのだ。闇が何を言おうとしているのか分からなかった。


「分かるか? お前のやっていることは所詮、誰か変わりがいれば成り立つものなんだよ。けど」そこで、闇は小夜子を真っ直ぐ、夜明けの空のように熱く、明るい目で見た。


「お前が楽しんで生きることは、お前にしかできない、だから、お前の代わりにできることなんて、その代わりの奴に任せればいい」そう言って闇は再び、小夜子の頭にポンっと手を置いた。


「おまえは、おまえが楽しんで生きるっていう自分だけが出来ることを探してやれば良い」


そこで一呼吸おき、どこか物悲しげな瞳をした。


「生まれてきた理由とか、生きる理由なんて、初めから無い、だから、自分で作るんだよ」






「自分で・・・生きる理由を・・・・」小夜子の脳裏に浮かんだのは今は亡き自分の妹のように大切な存在、海の言葉、『いいな、私も普通の女の子になりたい、ねえ、おねえちゃん!! ここから抜けて、実験が終わったら一緒に映画館行ったり、クレープ食べたり、おしゃれしたり、なんか普通の女の子っぽいことしよ!! 約束だよ!!』


そして、


『生まれてきてくれてありがとう』


『それは、自分で決めるんだよ』


小夜子は肩に重くのしかかっていた何かが落ちるような感じがした、わずかだが、少女の目は、少しだけ澄んだように見えた。


「それでも、お前が、私を殺したいなら、いいぜ、いつでも来いよ、けど、それまでに自分の人生を楽しんで来い、自分が生まれてきた理由を誰かが決められたものじゃなくて自分で探せ、それがお前が私を殺しに来る条件」


そう言って、闇は後ろを向いた。それに後をついて来るように氷柱がきて、「闇さん、私の頭も撫でてくれませんか」と氷柱はしつこく頼んでいた。小夜子はその時、闇が自分につけた名前が誠がつけた名前と同じなのは偶然なのか、疑問に思っていたが、不意に陽光が自分の顔を照らしたので目を細め手をかざしながら、夕日を見つめた。あの日もこんな夕焼けだった。






闇たちが去った後、河原の向こう側では、「ふんふむ、なるほどなるほど、あれがゴッドハザードとDALLSですか。」


「虚淵隊長、やはり、ここに、いらしていたんですね。」後ろを向くと、魔笛交差が立っていた。


「ああ、交差さんですか。」


「どこから、見ていましたか。」


「ん?あの黒髪の短い子からあり得ない量の鋼を出したあたりかな。あれが、黒城 闇かな?」


「はい、そうです。」


「まぁ、彼女については、力をコントロールできることが課題になるねぇ、それよりも問題はDALLSの彼女の方だよ。」


「彼女の方に問題が?」


「うん、問題は彼女の方にある」


「あの子、人を殺している」


「やはり、そうですか」西京橋の水たまり、あれはNO・3がやったもので間違いなった。


「それでは、彼女は暴走した可能性もあると」


すると、沙夜は、手を首の下に当てて、少し間を置いた後に「いや、まだ一つの可能性にすぎません。」


「それは、どういうことでしょうか」と交差は少し沙耶の返答に驚く。


「殺された奴らは、最近、巷で起こっている犬や猫殺しの犯人グループです。ある犬の死体にあった指紋と同じ指紋をしていた。もし、彼女が目の前で、奴らの行為を見つけてあっちから襲われて殺したとなると、それはまた別の話になります」


「つまり、正当防衛だと。それにしてもやりすぎでは?」と交差が疑問を上げた。


「たしかに、正当防衛にしてはやりすぎですね、しかし、相手が相手です。犯罪から自分や他人の身を守るために、やむを得ず行った行為であれば、今回のケースだと自分、または犬や猫の権利を守るために行った行為だとしたら、それは正当防衛ではありませんか?」


「少々、無理矢理な理屈すぎはしませんか?」


「まあ、そうでしょうね」


 交差は少し虚淵沙耶には一つの懸念があった。(この人はサイボーグ関係になると少しサイボーグを贔屓に見る癖がある。今回は犯罪グループが被害者だったから良かったかもしれないが)「一般市民が被害に遭う危険性もある」


!!  突然自分の考えていることを言い当てられて交差は眼を見開いて虚淵の方を見る。すると、虚淵は生気のない虚ろな目を瞑りニコリと笑顔を作り、交差にその顔をズイっと近寄せた。「フフフ、どうでしょうか、言い当てましたか?」


「え?ま、まあ」


「フフフ、紫杏さん、あ、紫杏総副隊長の真似です」と、その場でクスクスと幼い少女のように笑った。生気のない虚ろな目は相変わらずである


「まあ、私刑を行ったって言うことも問題ですが、今後、あらゆるケースで彼女の目の前で彼女の基準で殺しも良いと判断したら、それは間違いなく暴走となるでしょうね」と言って、沙耶は生気のない目を地面に向ける。


「行方不明を依頼してきた方にはどういう説明をするつもりですか」


「鑑識で血液から、死体、服、持っていたものまで、復元できますから、真実を言うつもりですよ」


「言葉を選んでいってくださいよ?」


「だーいじょうぶですよ、大丈夫、間違っても殺されて当然のやつだったなんて言いませんから。」


「本当ですか?なんか言いそうで、こわいんですけど。」


「大丈夫です、私を見てください、親に向かって殺されて当然の屑なんて言いそうにみえるか?」


「いや、屑とまでは言ってませんよ」と交差はジトッと沙耶を睨みつける。


「む?そうでしたか、つい本音が出てしまいました」


「はい、その本音が心配なんですが」本当に大丈夫かなぁ? と心配すると


「まぁ、とにかく、黒腕の少女にかんしてはコントロール、DALLSの彼女に関しては感情による殺意、これが問題ですね」と沙耶は首だけをぐるりと交差にむけて不気味な笑顔をしてその笑顔が交差の不安を煽った。






 次の日、「昨日から転向してきました。音斬 小夜子です よろしくおねがいします。」


と虚ろな目をした少女が挨拶してきた。


「な、なんで」なんで、お前がここにいるの!? と闇は思いすぐさま、氷柱の方を見た。


氷柱は平然として、闇から目をそらした。


「では、小夜子さんの席は、そうですね、闇さんの隣がちょうど空いているのでそこに」


「は!?」闇は思わず、叫んだ。


「・・・・どうかしましたか、闇さん」


「いえ・・・・なんでも」


すると、小夜子は、すたすたと闇に近づいてきて、「どうもよろしく」と愛想無く挨拶をした後に手を出してきた。


「……どうもよろしく」とこちらも愛想無く返事をした。


 すると、小夜子は、ボソッと闇に聞こえるように言った。


「あれから、考えましたが、やはり、私は貴方を殺します。」


闇は表情を変えない。


「ふーん、そう、で? 見つけたのか?」その言葉が何を意味するのか小夜子は理解していた。


『自分で自分が生きる理由を探してこい。だれの人生でもない。自分の人生なんだから』


『おねえちゃん、なんか普通の女の子っぽいことしよ!! 約束だよ!!』


『生まれてきてくれてありがとう』


「ええ、みつけました」その笑顔は陽光に照らされている花のようであった、僅かに目が煌めいたように闇の目には映った。


「そうかよ、良いんじゃね?」闇は微笑んだ。それにつられるように小夜子も微笑んだ、虚ろな目は変わらなかったが表情は肉を帯びていた。


そして、最後に、闇にも聞こえないように、一言だけ呟いた。


「ありがとう」

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