賢者達の楽園
ぜうす
0章 賢者達の楽園
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2013年2月16日 文部科学省庁のとある会議室にて政界に名を馳せる面々が大きなスクリーンの中央に立つ男を揃って見つめている
男の名は奈咲承、新たに発足された茅場内閣に籍を置く現文部大臣である
この日は中央省庁の新たな長の今後の活動方針や理念の発表という形で彼らは集められた、筈なのだが
奈咲の後ろに写し出されている文章がその場に集められた者達の思考を止めていた
高等基準共通学習プログラム
通称HCP、その下にはその謎のプログラムを伴った法案の一部が綴られていた
HCP法
第1項
高等基準共通学習プログラムに於ける
指定学習プログラムの修了及び
全三次のHCP試験に合格した者のみに
適用される私的公的を含めた社会的
全般の援助(公用サービス等)の保証
法的手続きを行っていないHCP不適合者は
例外なく上記の援助を受ける事は出来ない
又、HCP試験に合格していない場合戸籍を
含めた個人的財産の全ての凍結及び破棄
しなければならない
第2項
1項に於ける法的手続きとは特殊な都合に依る
試験への受験資格が得られずかつHCP試験の合格基準を満たしている場合にのみ法規的処置として施行される場合がある
第3項
1項に於けるHCP試験不合格となった者は18歳以下は高等基準からのHCPのプログラムを再度受けた後再度受験が認められる
これは一度に限る
18歳以上の者は再度受験が一度のみ
認められる
10分程の静寂が会議室内の温度を下げているとようやく一人の男が挙手をした、同じ茅場内閣の財務大臣だった
「疑問点が多過ぎて質問すらも難しいが一つ一つ聞かせて貰う、まずこのHCPとはどの様な基準で教育と試験を行うのか?」
眉一つ動かさず奈咲は淡々と答えた
「この一般社会に準えている「常識」という物を我々は数字で表す事に成功しました、
これによりあらゆる面におけるこのHCPの値を基準として教育と試験を執り行います」
回答が返って来ても誰も疑念が晴れた様子が無い
財務大臣がもう一度挙手をした
「具体的にはどう言う事だ?
漢検やら英検やらの様な形式か?
それで個人の戸籍やらに手を出すのか!?」
誰もが抱いた疑問点を声を荒げて問い詰めた
それでも奈咲の表情は変わる事なく答えた
「例えば1+1=2を答えられればHCP指数は5とします、次に246×82=20172というのを答えられればHCP指数は20、という風に基準を設けています
勿論、現教育において必修とされている科目全てに適用されます
次に戸籍に手を出す、という質問でしたが
我々が提唱しているのは一般的に頭の良い人と呼ばれる人間のみが社会に出れるシステムです
国全体の知能を底上げする事で犯罪率を下げる等は勿論、国そのものの生産性や自給率、科学技術の向上等誰もが求める理想の国家像を作る事が可能です」
今一度静寂が会議室を包み込む
尤もらしい答えが返っては来たが無論、納得する者は居なかった
その心の疑問が届いたかの様に奈咲は語りだした
「皆さんは今のこの国でHCP試験に合格する割合はどの程度と思われますか?」
外務大臣が声を上げた
「そりゃあ7、8割はおるだろう?
仮にも先進国だ、君がどれだけこの国を諦観してるかは知らんがよその国からすれば我が国は頭の良い国ではないか?」
堂々と簡潔な答えが奈咲に当てられた
その言葉に頷く者も何人か居た
が、奈咲は少しにやりと口を緩ませ明るく答えた
「我々の目算では5割弱程度と見ています
今の日本の教育を受けている者では半分近くが不合格となるでしょう、恐らく8千万人程度の人が受かれば御の字と言った所でしょうか」
奈咲は続ける
「ですが十分な人口です
不合格となった者達は国や合格者の為に働き合格者達は生を謳歌する
やがてこの政策は世界に広がり文字通りの平和が訪れます」
財務大臣が声を荒げる
「ふざけるな!そんなのは独裁以外の何でもない!第一他の政治家や国民が黙ってないぞ!」
奈咲はまた口元を緩ませ答えた
「既に茅場内閣の皆さんを除いた9割の賛成を受けています
あ、1割の内の半分が皆さんですよ、法改正は十分に容易です
そして国民に対してですが、、」
奈咲は間を置き少し力強く放った
「通貨を廃止します」
どよめき、とは呼べない程の困惑が部屋に満ちる
だが疑問を投げる間もなく奈咲は続ける
「HCPに合格した者の社会では金銭の必要は無く労働の必要も無い、誰もが色々な事に取り組み励む
勿論戦争なども無く犯罪も無い
これこそが人が目指した楽園ではありませんか?」
この場に居る人間全てが既に正しい判断力を失っていた
「皆さんの賢明な御判断、宜しくお願いします」
2013年4月よりHCP法が施行されると共に
全国民にHCP試験が行われ教育現場ではHCPプログラムが導入された
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