第四話 無難な一日

「おはようございまーす!」


 廊下から聞こえてきたのは涼風が思い切り叫んでる挨拶だった。しかし、そのあとに自分部屋のように入ってくる恵先輩の登場。


「ここ、俺の部屋なんですけど」

「そんなの関係ないわよ?」

「関係ありますよ! 俺にプライバシーください!」

「はいはい」


 そういって、部屋にあったプリントの裏に何かを書いてそれを渡される。


「もうなんですか…ってあんたは子供か!」


 『プライバシー』と書かれていた。小学生がやるようなことを平然としてくるのがもう驚きで、容姿と全然かみ合ってない。


「わかりましたから! 受け取りました! はい! 出ていって!」

「もう、相馬君の意気地なし~」


 渋々ではあるが、部屋からは出て行ってくれた。落ち着く暇がないかもしれないと心の隅に置いておこう。そのあとは特に何事もなく、朝食の時間は過ぎて行った。


「鍵はおっけー。これでよし」


 戸締りを確認して学校へ向かう。昨日の桜吹雪は全部ここの寮生だと涼風が言ってくれた。涼風曰く、「えっと、恵先輩につかまってそれで『ちょっとやってくれかな』って言われちゃってさー」と。恵先輩本当に何をやらかすか分からないから用心しておかないといけない。


「今日も一日気を引き締めてやれよ」


 やはり、学校では千尋先生はちゃんとしている。教師としての自覚はあるみたいだからいいのだけれど、みんなに寮の中でのことを言ったらびっくりするだろう。

 どこの学校もとは分からないが、入学して何日かはこうして楽なのは正直嬉しい。色とかもうどうでもいいとか思ってしまうほど気が楽だ。


 今日はとても綺麗な青い空だ。こんな日は散歩でもしたい。春風とかものどかに吹いたりしてさぞかし気持ちいいだろう。青色だ。でもブルーな気持ちにはさせてくれない。当り前だろう。でも、こういう時は色に例えるなら────。


「……さん。……まさん。相馬悠司さん」

「は、はい!」

「話聞いてなかったかしら?」


 凄い怖い笑みでこっちを見てくる。現代文の教師で川島小春だ。名前は可愛らしいのに、見た目とあってない。


「授業を聞いてくれないなら、放課後、手伝ってもらうからね?」

「はい…」


 放課後が来てほしくない!と思っていても時間には逆らえない。と無駄に時間を過ごし昼休みも午後も無残に過ぎて行った。そして川島先生のところへ行き、「倉庫に資料があるからそれ取ってきてちょうだい」と言われ、倉庫にある川島と書かれたメモ帳と積み重ねられた資料があった。


「ったく。でもまあ、これぐらいなら楽勝だろ」


 安心は出来ない。油断大敵ってやつだ。こういう時に限って何かが起こることはもうわかってる。気を付けて歩いていると後ろから誰かがぶつかって、盛大に資料たちをぶちまけた。


「めんご、ごめんご~」

「は?」


 ぶつかってきた輩は適当な謝り方をして走り去っていった。意味が分からず突っ立っていると、そこに俊介さんがやってくる。


「おっ、悠……ってどうしたんだよ……大丈夫か?」

「あ、俊介さん。さっきぶつかられて」

「拾うの手伝うからささっと終わらそうぜ」

「ありがとうございます」


 資料の中はあまり見ないようにして拾う。手際よく拾ってくれる俊介さんに心の中で感謝しまくる。数分も経たないうちに拾い終わった。


「これで終わりと」

「ありがとうございました」

「いいって、いいって。寮の仲間だろ?」

「そうですね。仲間ですよね」

「じゃ、頑張れよ!」


 そういって、俊介さんと別れた。少し時間がかかってしまったが、なんとか職員室に着く。中には千尋先生の姿はなかった。でも、用事があるのは小春先生だ。


「これ、持ってきましたよ」

「もうここに置いておいていいよ」

「はい、じゃあ俺はこれで。それと、案外重くなかったですね」


 「結構重かったはずなんだけどなぁ~」と先生は少し笑いながら言った。


 こうして、俺の一日が終わろうとしたはずだった。

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