第二話 寮の仲間
「どうかしたの?」
「な、なんでもないよ。さあさあ、早く行こう!」
そういって数分経ち、着いた場所は学校の隣にある寮とは全く違い、二階建ての木造建築のボロアパートだった。とりあえず中に入ろうといい、門を開ける。普通に広い庭があり、縁側がある。入口は引き戸のタイプだった。
「あ、あのーすいませーん!誰か居ま」
と全部言わさずに出てきたのは、女生徒だった。
「千川先生が言ってた二人ね~どうぞどうぞ~」
「千川先生って俺らの担任じゃないですか。どうして」
「ここの管理人は千川千尋先生なのよ~あっ、で私は飯坂。飯坂恵よ~」
「あー、よろしくお願いします。恵先輩」
「とりあえず、入って入って~」
半ば強引に入れさせられた気がしたけど、そんなことはどうでもよくなった。それは、中が思っていたよりも綺麗でちゃんと掃除されていて全然住める場所だった。
「私の部屋ってどこかな?2階かな?」
部屋の表を見る限り、二階が女子の名前で一階が男子の名前が並んでいた。俺の名前は101号室のところに遠野は201号室で恵先輩は202号室だった。
「部屋の中も綺麗みたいだし全然いいじゃないか」
ここで生活をしていくのか。全然普通で変でもない。これなら。これなら。
いろんな人に。周りの人に。クラスメイトに。友人に。寮の仲間たちに。好きな人に。好きな人に。
***
「これでいいかな」
先に寮の部屋に運ばれていた荷物の荷解きをしていた。かなり時間がかかるわけでもなく、すぐに終わる程度の量しかない。
「終わったなら他の部屋にも挨拶とかしてくるといいよ~」
ドアのノックもせず、声もかけず、勝手にずかずかと入ってきた恵先輩。プライバシーってものがないのかここは。
「はい。わかりました。少し時間がたってからそうすることにします…でも、今のうちにやっておく方がいいですね。」
とりあえず、隣の部屋から挨拶していくか。えっと、102号室は天宮遙か。変な人じゃなかったらいいけどなんて思うけど、ろくな人なんていなかったじゃんと落胆する。露骨に嫌そうな顔になってそうだな。部屋の戸を叩く。
「あのー、隣に住むことになった相馬ですー。相馬悠司です」
はーい。と返事しながら出てきたのはジャージ姿の女の子だった。
「え、えっ、んー? なんで一階に女の子?」
「ぼ、僕、女の子じゃないけど…」
まさかあれか。男の娘ってやつか。実際に居たんだな。
「あっ、ごめんごめん。ちょっとびっくりしちゃってさ。隣に引っ越し? って言ったらいいのかな? まぁ、いろいろあると思うけどよろしくね」
「うん! 一年だから同級生ってことになるね。よろしくね!」
可愛すぎて、男子ということを忘れてしまいそうだ。この容姿で問題行動って言ったら、寮の誰かと女子トイレ入ったとかでここに来たとかありそうだけど後々聞けるだろうと思い口にはしなかった。
「そういえば、挨拶するなら、隣の俊介君ならまだ戻ってきてないよ」
「わかりました。上は女子ばかりですけど、入れるんですか?」
入れないのは当たり前だろうとは思うけれど、一応は聞いておきたいものだろう。
「大丈夫じゃないかな? みんなプライバシーとかどうでもよさそうな感じがするけど、そこだけでもちゃんとしてほしいかなって思ってるよ」
「なんかすごい曖昧ですけど……信じますね」
俺は最後のところだけ聞かなかったことにした。まさかとは思うけど恵先輩じゃないだろうな。
階段は玄関から入ってちょうど前にある。そこから恐る恐る階段を上っていくが、「男子禁制!!」みたいな張り紙といった類いのものはない。
「えっと…遠野は201号室で202号室が恵先輩だから、残りは一つだけか」
「あんた何ぶつぶつ言ってんのよ」
「って、先生! 脅かさないでくださいよ!」
職員室にいた時のピリッとした感じから、想像できない容姿だ。上下地味なジャージで揃えて、だるそうにしている。
「明乃に声かけるなら気をつけなさいよ」
「えっ、そんなに大変なんですか?」
「…あんたならきっと出来るわ」
きっと、これは運命。もう逃れることはない。そんな事を先生に言われた気がした。
「ん? なんだこれ。部屋から黒い煙出てますけど、先生にこれって見えてないんですか?」
「あんたならきっと出来るって言ったからな」
「ちょ、ちょっ! 待って先生! 助けてくださいよ! 先生ってそういうもんですよね?」
「それが、あんたの力って奴じゃないの。じゃあ頑張ってね~」
先生が立ち去ってもその黒い煙みたいなものはどんどん出てくる。これは想像なんかじゃない。妄想でもない。幻想でもない。黒色。それは、何もわからない分からないから黒色なのか。心配でしょうがない。
そして、部屋の戸を叩く。
「あのー、大丈夫で」
「ねぇー! 助けてー! すごいから!」
語彙力はどうした。そんなことを思いつつ、部屋を覗くと白い煙だった。どうして。先生も黒く見えてたはずなのに。
「ドライアイスじゃないですかこれ。」
「私、ドライアイスって雲もみたいじゃない?」
「待ってください。助けてって何で言ったんですか。」
「いやー普通の寮に入れなかった相馬君がどんな人かなって知りたくて!」
「もっと普通の方法あるでしょ…」
「そういえばなんで黒! 黒! 黒やべぇ! みたいなこと言ってたの? 部屋から出てる煙も白だと思うけど」
「そんなこと言ってませんけど、多分俺疲れてます。そこに付け込んで先生がからかったんでしょうね」
色に例える癖が、びっくりして勝手に事を大きくさせたのだろう。あと、千尋先生とか言ってやろうか。あの教師。
「さっきから、敬語だけど年上の人は恵さんだけだよ?」
「先に言って欲しかったけど、仕方ないか。まあ、よろしく。涼風さん」
自分の部屋に戻り、電気を点けず、暗いまま感傷に浸る。俺は夜が好きだ。誰にも邪魔されず耽ることが出来るから。
「今日は色々な色があったよな。心配した時の色。下校した時の色。それと、遠野に一目惚れした色。なに口にしてんだ俺は!」
枕に顔を埋めながらも続きのことを考える。これ以上にも色々な色に出会えるかもしれない。だけれど、どうしてもあの時の遠野を忘れることが出来ない。こういうことには慣れてないからかもしれない。
「相馬くーん…起きてるー? もう夕飯出来てるみたいだから呼びに来たけど…」
耳元でささやかれたのは遠野か。どうしてこんな時に。このまま無視したいけれど夕飯なら仕方がない。そう言い聞かせて身を起そうと仰向けになる。その時だった。
すぐそこには遠野の顔があった。こんなご都合主義な展開があってたまるかと思いつつ、そのまま動かず時間だけが過ぎていく。やばい。やばい。やばい。凄い恥ずかしい。先に切り出したのは、遠野だった。
「あっ、ごめんね? あんまり、大声出すと悪いかなって思って」
「う、ううん。別に大丈夫……だけど……」
「遅いから見に来たけど、あらあら、邪魔しちゃ悪かったわね~」
恵先輩が、様子に見に来たのはいいが、その状況が良くなかった。
この人はもう、卒業するまでネタにし続けるだろう。
「先、行ってるね」
そういって、遠野は部屋を出て行った。ここまで恥ずかしい思いをした夜はこれが初めてだった。でも、こういうのも悪くはないかなと心の隅では少しは思っている。
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