魔人の指輪
ミツラ
第1話出会い
森の中から冷たい水が流れてきて小川を作っており、水辺には黄色い花が群生している。
リベルは、水辺を上流に向かって進んでいる。ブーツのあちこちから冷たい水がしみ込んできて不快な気分になるが、
「すごい、すごい、こんなにたくさん」
川辺に群生している薬草にテンションが上がってブーツにしみ込んだ水が気にならなくなる。独り言が言いながら、夢中になって水辺に生える薬草を刈っていく。
(ここまで来たかいがあったな)
町の周辺では薬草を取り尽くしたため、三時間も歩いて随分遠くまでやって来ていた。
夢中で薬草を刈っていると、ガサガサと藪の方で音がした。リベルは手を止め、顔を上げて様子を窺っていると、緑色の何かが飛び出してきた。
そいつは、1.2mほどの身長で、手に持った木の棒を振り回しながらこちらに向かってくる。
「ゲギャ、ギャギャ」
(ゴブリンだ!)
小川の下流の方へ向かってリベルは慌てて逃げ出す。
走り出した先に、フードを被った子供が立っているのが目に入った。
「伏せて!」
子供はそう言ったようだが、リベルは何のことか分からず子供の方へ走って逃げる。
「伏せて、早く!」
やっと内容を理解したリベルは草原にダイブする。うつぶせになった頭の上を熱気が通り過ぎて行くのがわかった。
リベルは頭を上げて振り返ると、追ってきたゴブリンが炎に弾かれて飛ぶところが見えた。
体を起こそうとしたところで、左手の方から槍を持った女と、その後ろに剣を持った男が走ってこちらに向かってくるのが見えた。
「ジェイク、右へ」
その女は首を少し傾けながらそう言うと、リベルのそばを走り抜けて、先ほど倒したゴブリンの方へ向かう。草むらからは新たにゴブリンが現れていた。
女は、走りながらゴブリンの胸に槍を突き刺すとそのまま持ち上げるように、2mほど先に飛ばした。そのまま流れるように槍から左手を放して体を右にひねる。右手一本となった槍は大きな弧を描いて体の周りをぐるりと回って、左前方から迫ってきたゴブリンの首あたりを切り裂く。その隙を狙って右からやってきたゴブリンがこん棒で殴り掛かるが、槍の柄で受けて右足で蹴り飛ばし、すぐに倒れたゴブリンに槍で止めを刺した。
右手に行ったジェイクは、こん棒を振り回しながら向かってくるゴブリンの攻撃を受けずに走りながら喉元をショートソードで切り裂く。右から現れた別のゴブリンには相手の振り下ろしたタイミングを計って逆袈裟に切り上げる。
フードを被った子供がリベルの方に近づいてきてフードを取った。
「大丈夫、ケガはない」
ウエーブのかかったブルネットの長い髪が流れ、とび色の瞳がこちらの様子を窺っている。
(え、女の子か、140㎝ぐらいしかないがハンターだろうか)
そんなことを考えていたので少し間が開いて、
「ああ、大丈夫だ、ありがとう助かったよ」
リベルがそう言って立ち上がると、少女はほっとしたように笑った。
どうやらすべてのゴブリンを倒し、先ほどの二人が戻ってくるようだ。リベルは礼を言おうと立ち上がってみると男の方に見覚えがあった。向こうも気が付いたようで話しかけてくる。
「お、こんなところで、リベルか?」
「やっぱり、俺の知ってるジェイクだったか」
二人はドニの町の孤児院で育った。十五才になると孤児院出て自立しなければならない。リベルは八ヶ月前に孤児院を出てハンターとして生計を立てていた。
ジェイクがリベルに話しかける。
「昔言ってた通りハンターをやってるんだな、俺もハンターになったんだ」
ハンターは、食肉目的で猪や鹿などを狩ること以外に、ゴブリンなどの魔物の討伐も行っている。
ジェイクがハンターになってまだ半年ほどだろうが随分印象が変わっていた。薄茶色の髪を短く刈り込んで、うっすらと顎ひげもはやしている。身長も180㎝近くはあるだろうか、やや痩せているが締まった身体つきになっている。
「なんか随分たくましくなったなあ、俺なんか全然変わってないのに」
リベルがそう言うとジェイクは少し照れたように笑う。
ジェイクが横に立つ女性を紹介する。リベルより10㎝は背が高いように見える、175㎝はあるだろうか、細身だが筋肉質であることが服の上からでもよくわかる。紺色の髪をポニーテールにまとめ、紺色の目がリベルの方をしっかりと見据えている。
「紹介するよ、リーダーのロスヴァイセだ。槍捌き凄かっただろ、もうすぐDランクになる」
ロスヴァイセはジェイクの方を見て少し苦笑いをしながら、
「ロスヴァイセだ、よろしく。一人でハンターやっているのか」
リベルはハンターになったものの、誰ともパーティを組むことができず、仕方なく一人で薬草採取などを行っていた。
狩猟組合で登録するとレベル1、Fランクハンターとしてスタートする。魔物を倒すとレベルが上がりレベル5になるとEランク、レベル10になるとDランクになるが、Fランクハンターは魔物討伐依頼を受けることができないので、Fランク依頼をいくらやっても一向にレベルアップできない。このため、上位ランク者のパーティに入れてもらう必要がある。
「薬草採取しかしていないのでレベル1のまま、ゴブリンにも逃げるしかないという情けない状況となっています」
リベルは少し自虐気味に答えると、ジェイクが話す。
「ドニは人が少ないからなあ。俺は運がよかったよ、人に恵まれて順調にレベルアップできた」
「ジェイクのレベルはどれくらい」
「レベル3で、剣が2だ」
「へー、凄いな、まだ半年ぐらいだろ」
「あのー、お話し中すいません。何か忘れていませんか」
リベルの後ろの方から声がかかる。
「ごめん忘れてた、そっちはミアだ、こう見えても同い年だぜ」
ジェイクがそういうと、ミアはジェイクのすねを思いきり蹴る。
うずくまるジェイクを無視して、
「ミアです、よろしく」
リベルは少し屈んで握手する。
(同い年には見えないなあと思ったが口には出せない)
ロスヴァイセが話す。
「さっき見たのでわかったと思うが、ミアは魔法を使う。この年でここまでの使い手はなかなかいない。天才といってもいいかもしれない」
ミアはニコニコして機嫌がよくなる。
ジェイクがすねをさすりながら、ロスヴァイセに話しかける。
「なあ、ロズ、リベルをパーティに入れてもらえないだろうか」
ロスヴァイセは少し考えて、
「ジェイクの友達なら私はいいが、ミアはどうだ」
「わたしもいいよ」
リベルは戸惑って、
「皆さんの気持ちはありがたいのですが、役に立たないスキルしか持っていないので、おそらく足手まといになるのでは・・・」
「いや、気にすんなって、みんな最初は同じようなものだからな。ところで、役立たないスキルってなんだ」
リベルは少し考えてから
「時空魔法ていうのが一応つかえる。レベル1だけど」
「ほう、聞いたことないがなかなかすごそうだな、ミアは知ってるか」
ロスヴァイセがミアに聞く。
「いや、聞いたことないね、何ができるの」
三人が期待を込めた目で、リベルを見る。
リベルは言いづらそうに、
「マジックバッグていうんだが、カバンの容量が倍になって重さが半分になる」
三人が微妙な顔になる。
ミアが聞く。
「それって、人の持ち物でもできる?」
「できるよ」
「いや、中々凄いんじゃない」
「でも、一ヶ月しか持たないんだけど」
「うーん、それでも便利には違いないと思うけど、あまりハンター向けとは言えないかも」
ミアはあわてて口を押える。少し気まずい雰囲気になるが、
「あ、でもね、私は火の魔法を使うけど、攻撃魔法はレベル3から使えるようになるから、これからに期待だね」
火や水、風といった一般的な魔法は過去から多くの人が使ってきているため、レベルによってどんな魔法が使えるかわかっているが、未知の魔法、時空魔法はレベルアップによってどのような魔法が使えるか誰も知らない。
「俺たちも時空魔法のレベルアップには期待しているから、これからよろしく頼むよ」
ジェイクがそう言うと二人もうなずく。
(俺にもチャンスがやってきたのかなあ)
リベルはそう思ってテンションが上がる。
「みんなの足を引っ張らないように頑張りますので、よろしくお願いします」
大きな声で答えた。
それから、今後の予定を相談し、リベルが拠点としているドニの町から、三人が拠点にしているサレトの町へリベルが合流することになった。
大陸には、南北に繋ぐ大きな街道が三つあり、その最も西側にある西街道は、ここオルト共和国から北の大国、ラジャルハン帝国へとつながっている。その帝国との国境から、300㎞南にドニの町はある。人口5千人ほどの町は、街道の宿場町となっており、その街道をさらに25㎞ほど南へ下ったところにサレトの町がある。サレトの町は城塞都市であるとともに、交通の要衝でもあるため人口は5万人の大きな町だ。
【ロスヴァイセ 十九歳 レベル9、槍レベル5 パーティリーダー】
【ミア 十五歳 レベル3、炎魔法レベル3、水魔法レベル3】
【ジェイク 十五歳 レベル3、剣レベル2】
【リベル 十五歳 レベル1、時空魔法レベル1】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます