誰が消すか
一週間頑張ったので、自分へご褒美をあげる為にケーキ屋さんに行った。
店内には家族と思われる団体が二組。
一組はお母さんと、幼稚園生くらいの息子さん。耳に入って来る会話からすると、どうやら妹の誕生日のケーキを予約していたらしい。息子さんがケーキを持ちたがるので、仕方なく任せたようだったが、お母さんはもの凄く心配そうな顔でお店を出て行った。
残ったもう一組は3人の女性客だった。見たところお母さんと、20代くらいの娘さん、あとの1人は制服を着ていたので、女子高生で間違いないだろう。
ケーキ屋さんに行くとテンションが上がる女性は多いのだろうか? 娘さん達はキャピキャピとはしゃいでいた。今風の若い婦女子がどう言うものか知らないけれど、何となく大雑把に今風の元気な女の子と言い表しても、ケラケラと笑って許してくれそうな、さっぱりとした感じの女の子達だった。
お母さんは黙っていたが、笑い始めると娘さん2人を足して2倍にしたような笑い声の、快活な人だった。
笑った理由は、こちらも誕生日ケーキを買いに来ていたのだが、どうやらお祖父ちゃんへのものらしい。そのチョコのプレートに書かれた名前が店員の手違いで、『おじいちん』になっていたようだ。
『おじい』の部分を早口にして連呼すると、それのように聞こえてきて、
「卑猥じゃない?www」
娘達は喜んだ。
店員はすぐに直すと言っていたが、快活なお母さんは面白いからそのままで良いと言って、こちらも楽しんでいる様子だ。
では、料金を少しオマケしますと店員は言ったが、それもお母さんは、
「いいの、いいの、小さい "や" くらい幾らもしないんだから」
そう言って断ってしまう。店員さんは非常に申し訳なさそうに口籠った。
そんな店員さんの雰囲気を感じ取ったのか、姉らしき娘さんが横から口を挟む。
「お母さん、なんかオマケしてもらおう? でないと店員さんも逆に、ね?」
突然話しかけられた、ホイップのように肌の白い可愛らしい店員さんは、待たせているボクの事もチラリと見てから、
(たぶん、きっと、おそらくボクを見たと思う)
頬をピンク色に染めて、
(たぶんボクと目があったからだと思う、きっとそうだと思う、どうにかしてそうであって欲しい)
「申し訳ないので……」
と呟いた。
快活なお母さんはチョイと考えると、
「じゃあ、ローソクをサービスして頂戴、82本」
快活にそういい放った。
店員さんはたじろぎ、娘たちは音もなく
が、すぐに姉が意見した。
姉:「お母さん、そんなにいっぱい誰が消すのよ?」
母:「えっ? おじいちゃんよ?」
妹:「そんな吹いたら、おじいちゃん死ぬ」
別に近年 年末恒例の笑ってはいけない事をしていた訳ではないが、ここで店員が脱落した。
ボクは辛うじて我慢したが、
母:「そうね、死にゃしいけど、ケーキが涎まみれになりそう」
それを聞いて、プルプルと唇を震わしながらローソクを消すおじいちゃんを思い浮かべて、思わずニヤリとしてしまった。
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