さよなら、小さい罪
麻木香豆
第1話
ここは小さな写真館。栄えている商業施設に行けば大手の写真スタジオはいくつもあるのだがこの店はとある老夫婦から後を継いだものでありとてもレトロ感漂い、その雰囲気を気に入った若い家族から昔からの常連の人たちが利用している。
後を継いだ店主がまだ40前ともあり、デジタル技術を生かして効率を上げ、腕もピカイチという口コミでわざわざ遠くから来るものもいた。
その奥には住居スペースがあり、風呂場では2人がかりで1人の男の体を洗っていた。
「ああー気持ちええわ……そこや、
男はアキラ。下半身麻痺だが車椅子を器用に乗りこなし、写真館を経営する。
そんな彼の体を洗うのは派遣されてきた中年女性のヘルパー、五十嵐。
そして手伝うのはアキラの仕事のパートナーであるヒナタである。
「五十嵐さん、いい加減嫌だったらアキラからセクハラされたって言って辞めてもらってもいいですからね」
「そんなことはしませんよ、気持ちいいってはっきり言ってくれるとやりがいがありますから」
アキラは180超えの大柄でヒナタ1人では流石にできない。2人がかりでないと難しい。五十嵐を雇ったのもそれまでは何度かヘルパーは入れ替わり立ち替り。
ようやく相性の良いヘルパーが見つかったとずっと近くで看病していたヒナタはほっとしている。
「ちょっとアキラさん、背中赤いし少し汗疹出来てる」
「そうなんやて、痒くて痒くて仕方ない。ヒナタ呼んでもすぐ来なくて」
ヒナタはハイハイと返事をする。彼はアキラの介助とカメラの助手、事務などをするため一緒に暮らすが、それだけでは生活できないから別でライターの仕事もしている。
「まごの手があるでしょう、なんならそこに定規もある。 手は動くんだからそれを使って」
「五十嵐さん、聞いた? ヒナタは冷たい。もう五十嵐さんを住み込みで雇いたいわ」
ヒナタはアキラの足先を叩いた。
「うっわ、暴力! 見たやろ、暴力やて」
五十嵐は笑う。そして彼女は足に優しくお湯をかける。
「スッキリしたわ。また今度よろしゅう」
「汗疹良くなるといいんですけど……ヒナタさん、こまめに拭いてやってくださいね」
五十嵐は汗を拭い、荷物をヒナタと共に車に運ぶ。アキラはニコニコしながら見送る。体もさっぱりしたようだ。
「五十嵐さん、ほんと冗談抜きで……嫌だったら変わってもいいですよ」
ヒナタはそこまでして心配するのはヘルパーさんの入れ替わりが早いのもアキラのわがままなところとセクハラな発言が多いこともある。男性が代わりに来るときもあるが、アキラはその時は不機嫌になる。
下半身麻痺になる前からアキラは人に対してのあたりが悪かった。心を打ち明けられる相手は同じ児童施設出身のヒナタだけであり、写真館での仕事はお金をもらってるからと割り切ってにこやかに接しているが、払う立場になると気に入った相手でないと態度が横柄になる。
「アキラさんにチェンジって言われるまで働かせてもらいます」
「どうしてあなたはそんなに心が広いんだ」
「息子だと思えばあれくらい……て、子供扱いすると怒りそうだから内緒ね」
ヒナタは荷物を詰め込み、車の扉を閉めた。すると五十嵐が運転席から窓を開け、顔を出した。
「じゃあ、反対に聞くけどさ。ヒナタくんはなんでアキラさんのそばにいるの? ……。じゃあ、また今度」
五十嵐の乗せた車は去っていった。
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