第18話 MPポーション。



「あ、姐さんすんませんっ!」

「さーせんっ!」

「てめぇら、向こうに着いたらせめて役に立てよなっ!? あと姐さん呼ぶなクソがっ!」


 病院で欲した医療品を全て受け取り、ボストンバッグに詰めた私はすぐに帰ろうとした所、タッちゃんに止められ、生き残った舎弟を二人寄越された。

 こき使ってやってくれ、との事だったので人手はあった方が良いかと思い承諾したのだが、走り出すとコイツら私に着いて来れてない。

 聞けばレベルも一桁だと言うので置いて行こうと思ったら、今戻ったらタッちゃんにぶっ飛ばさせると悲鳴を上げる始末だ。

 しょうがないので大の大人を二人小脇に抱えて、ショッピングモールまで爆走中である。

 ちなみに、着いてきそうなタッちゃん自身が来なかったのは、当たり前だが病院を守るためである。


「クソがっ、流石に重いぞちくしょうっ!」

「ほんとすんません姐さん!」

「俺ら馬車馬の如く働きますんでっ!」


 道中出会ったゴブリンは、両手が塞がっているので仕方なく、一番効率の悪い武器も手も使わない魔法で弾き殺した。

 雷飛ばしてバチンッとゴブリンが死ぬと、タッちゃんの舎弟が二人揃って「姐さんパねぇ! 今の何すか!?」と騒ぐ。

 あまりに煩かったから「知りたきゃその身で知るか? あん?」って聞いたら大人しくなった。

 流石に大人二人を抱えて走ると速度が出ないが、でも舎弟二人が走るよりは倍くらいの速度はあるはずだ。

 そんな速度で十分か二十分か、やっとショッピングモールに辿り着いた時には舎弟をぶん投げようかと思った。

 思ったと言うより実際に投げた。


「クソがぁ! まだ居やがったのか!」


 内部に入って目的地まで走る最中、前方に腐肉の生き残りが現れた。

 コイツの相手を両手塞いで行うのは流石に無理だ。

 しかも今はコイツを倒せる程の魔力が残ってない。病院で爆炎エンチャントなんて大盤振る舞いしなければ良かった。


「おい! これ持って真っ直ぐ走れ! そんで秋菜って女の子か太郎っておじさんを呼んできてくれ! 早く! ここを真っ直ぐだ!」


 多分ゴブリン以外のモンスターに初めて会ったのか、本気で怖がってマジ泣きしながら逃げる舎弟達を通すため、ハンドガンに火のエンチャントを込めて撃ち出す。

 燃やせば強化は無し、ついでに足も止まる。秋菜が見付けてくれた弱点だ。

 後は時間を稼げば、太郎さんか秋菜ちゃんが来てくれる。

 体が重い。瞼も重い。寝てしまえば楽になる。

 疲れから来る睡魔は、身を委ねたくなる甘い悪夢だ。


「だぁクッソ、頭がフラフラしやがる!」


 銃把で頭を殴る。

 軽く打撃スキルもついてなかなかの衝撃なのに、叩いた分余計に頭がフラついて始末におけない。

 本格的に魔力が足りない。

 足留めしたなら自分も逃げれば良いのに、フラついて腐肉の横を上手く通れる自信が無い。

 燃えると足が止まると言っても、完全に動かなくなる訳じゃない。近くに敵が居たら襲って来るのは当たり前のことだ。

 だけどこれで良い。近付かなければ安全なんだ。後は秋菜か太郎さんが来るのを待てば良い。


 -ひた、ひた……。


 その筈なのに、後ろから奴の足音が聞こる。距離は五メートル程か。クソ近い距離に何故か、いつの間にか居る。

 本当にコイツら索敵系のスキルが効かない。足音まで聞こえてるのに目視しないとスキルが反応しない。

 そもそもコイツら、ほとんど殲滅に近い形でぶっ殺した筈なんだけど、なんでこんなに居るの? 私の運が悪いだけ?


「塵芥へと燃え尽きたまえ」


 あと三メートル、マジでヤバい死ぬって思ったところで、私の真後ろから熱を感じた。

 次いで目の前の腐肉が足留めのしょぼい炎じゃなくて殺す為の炎で消し炭にされる。


「やぁココロ君。魔力切れかね?」

「……太郎さん、たすかり、ました」

「ふむ。相当キツそうだね。ではコレを飲みたまえ」


 太郎さんが差し出すのは、久しぶりに見た清涼飲料水だった。

 終焉前は良く見た普通のスポーツドリンクなのだが、今では未開封のペットボトル飲料は長期保存出来る貴重な栄養元である。普通なら飲まずに保管する。

 頭が上手く回らないので、とりあえず信用出来る太郎さんの言う通り、差し出されたペットボトルを受け取ってスポドリ飲む。


「…………はぁ? え、なんで?」

「先程、偶然気が付いたんだ。詳しいことは私にも分からん」


 スポドリを飲むと、飲めば飲むほど魔力が回復していく感覚を覚えた。

 五百ミリリットルのスポドリ一本飲み切ると、感覚で最大値の一割近く回復している気がするのだ。


「……これ、割合回復です?」

「いや、固定値みたいだ。学生達に飲ませたら半分から全回復まで居たからな」

「……いやぁ、便利なアイテム見つけちゃいましたね」

「全くだ。ココロ君が言うところの、純魔法使い御用達ってところだろうな」


 ほぼゼロから一割まで回復したのだ、倦怠感は未だ酷いがだいぶマシである。

 これは家の倉庫からスポドリを出して置かなければならないな。


「もしかして探せば普通のポーションみたいな効果になってる飲料もあったり?」

「………流石にその可能性は考えて無かったな。有るとしたら栄養剤系だろうか?」

「エナジードリンク系なんかまさにそれ臭いですよね。翼を授けちゃったり魔剤って呼ばれてたりしますから」

「ふむ。検証は必要だろうね」


 太郎さんに護衛されながら目的地に向かうと、舎弟二人も無事に辿り着いていた。

 ただ気になるのは、やけに秋菜が疲弊している事と、目的地の周辺に真っ黒い消し炭が結構落ちている事だ。


「太郎さん、もしかして増えてます?」

「みたいだね。救助者の容態が安定したら、いや、安定しなくてもここから出るべきだ」

「マジか……。もしかして今の世界ってリポップシステム付きなの?」

「まぁ、最初から世界に居なかった生物が、急に大量に発生したのだから、その可能性は考えておくべきだったね」

「……確かに」


 私が近くに寄ると、近づくまで我慢に我慢をしていた秋菜がテナントから飛び出して来て、私のお腹に頭をグリグリしながら抱き着いてきた。


「ただいま秋菜、ちょっと遅くなってごめんな」

「いいの、おねーちゃん、ちゃんとかえってきてくれたから、いいの」

「ありがとな。そんで、腐肉が蘇ってるっぽい場所に置いて行ってごめんな」

「いいの! あきなつよいもん! そうでしょ?」

「ああ、秋菜は超強い。私が背中を預けられる立派な女の子だ」


 超感覚で感じる秋菜のレベルが上がってる。三十六、くらいだろうか?

 流石に雪子も春樹も棒立ちしてた訳が無いので、経験値を三人で分け合ってコレかと思うと、結構な数の腐肉が襲って来たのだろう。


「ごめん、いや、ありがとな」

「うん!」


 ひとまず、医者が例の親子に処置をしている様子を見守る。

 どうしようか、もっとスポドリが欲しい。少なくともあと四本は欲しい。

 今のままでは完全に足でまといである。せめて魔力が五割無いと、心許ない。


「太郎さん、スポドリもっと有りません?」

「悪いが、無いね。ただ君は飲料より食料を優先して漁ったのだろう? ならそこら辺に残っているのではないかね?」

「うーむ。多分あると思うんですけど、腐肉がリポップし始めてるので探索はちょっと……」


 医者と救助者の様子を見る。

 タンカー的な物が三つ用意され、最悪一気に運び出せる用意がある。

 本当なら一人ずつトラックまで運ぶのだろうけど、腐肉オンパレードな場所で悠長に戦力分散して時間かけるのは愚策である。


「おい、舎弟AとB」

「は、はい姐さん。なんでございやしょ」

「どっちがAでBなんスかね」

「お前らでも全力で走れば腐肉から逃げられるよな?」

「……まさか姐さん?」

「お前らちょっと、その辺からスポドリ探して来てくんね?」


 それ以外に大した仕事が無い舎弟二人のケツを引っぱたいて探索に向かわせる。

 私が今ほぼ戦力外、秋菜も疲弊してて太郎さんしか戦えない様な状況で、中学生六人だって貴重な戦力である。探索に出すのは下策だし、なにより中学生の指揮権は太郎さんにある。

 私が指示できるメンツで秋菜は戦力だし休ませないといけないし、雪子と春樹も相当辛そうなので同じ。ならもう私が抱えて来てまだまだ元気な舎弟二人しか手駒が居ない。


「ひぃぃぃぃっ、姐さん助けてぇぇぇえっ!?」

「スポドリ有りやしたよォ! だから早くヘルプゥ!」


 待つこと五分、両手で大量のスポドリを抱えた舎弟が、腐肉を三匹も釣って帰って来た。


「太郎さん」

「ふむ。スポドリは分けて貰えるのだろうね?」


 三匹の腐肉を太郎さんが燃やし尽くして、舎弟三人から二十一本のスポドリを受け取る。ちょうど三で割り切れる。

 私、秋菜、太郎さんで七本ずつスポドリをガブ飲みし、お腹がタプタプになった。


「よっしゃぁ、私ふっかつ!」

「おねーちゃん、おなかくるしい……」

「吐き出しちまえって言いたいけど、吐き出したら回復した魔力がどうなるのかわかんねぇもんな……」


 戦力は多い方が良い。雪子と春樹の魔力も回復させるために、舎弟二人にスポドリがあった場所まで案内させる。

 回復した私だけならスポドリ回収に回せるだろう。


「もうここ、なんなんすかー!? バケモノがうじゃうじゃ居るし、みんな当たり前に火の玉出すし!」

「姐さんら、ここでシノギ削ってんすね。そりゃ強いハズっすわ」


 舎弟二人に連れて行かれたのは、スポーツ用品店だった。割と近場にあったんだな。

 普通はスポーツ用品店に置いてあるスポドリなんて水に溶いて作る業務用くらいだろうけど、何かのブランドとコラボだったのか、ダンボールで山積みされている。最高かよ。


「あ、舎弟ズは粉スポドリも探して来い。あれでMPポーション作れるなら戦略物資扱いだぞ。ボストンバッグ一つやるから詰めて来い。粉スポドリなら手当り次第でいい」

「はいぃ!」

「腐肉が居たら叫べ」


 私は持参したボストンバッグにスポドリを詰め始めた。 


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