第14話 パワーレベリング。
「構えっ、ってぇー!」
ショッピングモールのエントランス。
一階のテナントを手筈通りに手分けして索敵すると、見事私たちのグループが当たりを引き当てた。
一度に四体もクソグロい化け物が出て来てユッキー達もリバース寸前だったのだけど、私が火属性に風属性を混ぜて斬撃を飛ばした所テンションがヤバい上がり方をして、一気に持ち直していた。
風で煽った炎で足止めして、男の子達に魔法を撃たせる。
彼らは魔法剣士志望らしいけど、あの燃え盛る化け物に近付くのは許可出来ない。
レベルが低いとは言え太郎さんが培養した純魔法使い型なのだから、腐肉にしっかりダメージを与えるくらいは出来るはずだ。
しっかりと彼らが腐肉に魔法を叩き込むのを確認した私は、そのまま風炎の斬撃を七回飛ばした。
【ココロ:Lv.32】
レベルアップを確認したので、確実に仕留めたはずだ。
残心をとって周囲を警戒してから振り返ると、私の魔法の斬撃に大興奮した中学生男子が三人居た。
まぁ気持ちは分かる。風で強化した炎は迫力あるし、上級剣術で滑らかな太刀筋から一息に七発も魔法が飛んだ様は、結構見応えがあった事だろう。
「でも、周囲を確認しないではしゃぐのはダメだよ。レベル二十を超えてる太郎さんでも、三十を超えてる私でも、不意を打たれたら殺されるヤバいモンスターなんだから」
きろっと睨むと、シャキッと姿勢を正す男の子達。
「ぶっちゃけると、あの腐肉があまりに強過ぎてチートだから、遠距離から苦手属性を延々と撃ち込むチキン戦法じゃないと勝てないの。それくらいヤバい奴狩りに来てるの。絶対に油断しないでね?」
「はいっす!」
「さーせんしたー!」
「気を付けます!」
「ま、良いけど。で、レベルは上がった?」
すぐに撤退出来るエントランスで腐肉と遭遇出来たのは僥倖だった。
四匹潰してトドメを刺した私のレベルが上がっているのは当然として、男の子達のレベルが上がってないと連れて来た意味が無い。
今の世界に実装された経験値システムが等分式なのか貢献度式なのか、はたまたラストアタック持って行った奴の総取りなのか、とても大事な情報である。
「あ、レベル上がってます! すげぇー!」
「レベル十二!?」
「一回で四も上がったの!?」
「えーと、全員同じかな?」
「あ、はい! 俺も十二レベルっす」
「でっす」
「いえすっ!」
全員が同じくらいの攻撃をしていたから、等分か貢献度方式が当てはまりそうだ。
自分がレベル十七の時に一体倒して七も上がった事を考えると、四体倒してレベル四つは少ない気がする。
逆に、レベル三十一から四体倒してレベルが一つ上がるのは妥当な気がしなくもない。
「………ふむ? やっぱり貢献度方式なのかな?」
「あ、経験値分配の話っすか?」
「うん。私もレベル一個上がったんだけどさ、レベル三十超えると本当に上がりが渋いんだよね。四匹倒して一個は妥当な気がする。それと君たちの経験値が少な過ぎると思う」
「………え、でも一回でレベル四っすよ?」
「私がレベル十七の時、コイツ一体で七個上がったからね。レベル八が四人、四体倒してそれじゃ少な過ぎる……」
「……ココロさんパねぇ」
ひとまずエントランスへ戻り、他のグループと合流して意見を交換する。
効率は悪いけど、私達のレベリングのついでに他も引っ張れるなら、それはそれで効率的とも言えるし、ある程度レベルが上がれば貢献度も上がって取得経験値も増える。さらにレベルが上がれば自分達だけで倒せる様になるのだから、このままで良いと太郎さんが意見して、私と秋菜が了承。
春樹を見ると顔色が悪かった。どうやら向こうも腐肉が出たようだ。
「……春樹、大丈夫か? パイン飴要るか?」
「姉ちゃん、パイン飴は要らない……。俺ちょっと姉ちゃんの事なめてた」
「なんだ、私が知らない内に私の体をペロペロしてたのか? 厳罰だぞ? 今日の夕食はパイン飴な?」
「姉ちゃんどんだけ俺にパイン飴食わせたいん?」
軽口を叩くと、春樹はちょっと元気になった。
「そら頑張れ男の子。秋菜より強くなって守ってやらにゃどうするんだ。良いのか? このままだと自分も雪子も秋菜が守るんだぞ?」
「あぅー、ああぁぁ、もう分かったよ、殺ってやるよ!」
「そうだそうだ殺ってやれ。この世にモンスターなど要らん。ぶち殺してやれ」
「おう! 俺、姉ちゃんより強くなってやるからな!」
「やってみろ。出来たらパイン飴をくれてやる」
「姉ちゃんほんとパイン飴好きだなっ!?」
春樹は元気になったので、雪子と秋菜に目配せしてグループに戻る。
秋菜はニコニコして手を振っていた。
その後、充分に安全を確保しながら少しずつ腐肉を討伐して行き、午後二時を回った所で殆どのレベリング勢が魔力不足でダウンした。
魔力切れと言うほどでは無いけど、残り三割を切ったくらいの残量だろう。
そうなると足でまといが大量発生なので、綺麗に腐肉を排除して来た道を辿ってエントランスから外に出て、トラックまで戻って来て休憩だ。
「し、しぬ……」
「ココロさん達いつもこんな事してんのか、強いはずだよ……」
「ばっかお前、俺ら補助されてコレなんだぞ……、自分達だけで戦ってる黎治の親父さんとかココロさんはもっと辛いに決まってるだろ」
「……そうな、ココロさんさっきレベル十七で一体倒したって言ってたじゃん。俺絶対むり……」
「今レベル十九なんですが? 倒せる気がしないんですが?」
疲れてるなら黙った方が良いと思うんだけど、男の子達は辛そうにしながらも和気あいあいとしていた。青春かな?
あと太郎さんの息子さん、名前黎治って言うんだね。
高レベル組の私たちの三人は比較的余裕があるので、ペットボトルに入れたお茶を飲みながら余裕を持って休んでいる。
ついでに目を閉じてステータスを呼び出す。
【ココロ:Lv.35】
かなり上がった。
魔力の質も量も上がってる実感がある。
今なら必殺スキルを数回撃っても倒れないかも知れない。
「秋菜、レベルどんな感じ?」
「んーとね、あきながレベルさんじゅう! だった」
「くそ上がってんなぁ。雪子と春樹は?」
「いまどっちも、にじゅう、ご? だって」
「いいねいいね」
超感覚を意識して、太郎さんを見る。
感じる生命力の強さは秋菜と殆ど同じか、少し低いくらいか。
二十九レベルと言ったところか。
割と全員が適正レベルになって来た。
腐肉は物理攻撃で肉を削ると強化されて行くが、そのままならレベル三十相当の強さである筈なのだ。
私と秋菜と太郎さんはもう、レベル的にも腐肉と同格になっているのだ。
「太郎さんどうします? 休憩したら続けますか?」
「どうだろう。急ぐ訳でも無いのだし、また後日にレベルが上がった分の魔力でしっかり戦うのが良いと思うがね」
「まぁ、わざわざ不足がある時に挑む理由も無いですよね」
私は少し考えて、メンバーを見て、人選を考えて、決める。
「太郎さん、どうせここまで来たんですから、物資漁りましょうよ。秋菜はここで皆の護衛してくれる?」
「あい! あのね、いいこにまってるからね、あきなおかしほしいなー?」
「分かった分かった。雪子も索敵スキルで周り見ててね」
「任せて下さい。疲れてても銃を撃つくらいは出来ますから」
私は装備を見て不備が無いことを確認すると、太郎さんを見た。
「ふむ。取り分は?」
「自分で回収した分は全部自分の物でどうです?」
「よし行こう」
驚いている中学生男子達をよそに、私と太郎さんはショッピングモールに向かって走り出した。
エントランスを抜けて大ジャンプを一回でエスカレーターを登り、まずは衣料品店に飛び込む。
「太郎さんパース」
「うむ。こっちのボストンも良さそうだ。それっ」
「あざまーす」
そこでリュックサックやボストンバッグなど、持てるだけ持ってすぐに出る。
途中、蠢く腐肉を見付けても軽く燃やして足留めだけして、消費は最小限に駆け抜ける。
「ココロ君、結構ごっそり行かれてる店があるが、君だろうか?」
「美味しく頂きました」
「ふむ。酒類は?」
「私十七歳ですよ?」
「このご時世、誰が叱ると言うのだね?」
「………リカーショップ寄りましょうか」
「良しきた」
ショッピングモールを走っていると、まだまだ大量の腐肉が居ることが分かる。
普通にウザったいが、レベリングが捗ると思えば喜ばしくもある。
「………あ、こんな店あったんですね」
「登山・サバイバルグッズ専門店。これは入るべきだろう」
「長いナイフとか持っていったら中学生達喜びますね」
私達は様々な店舗に入って様々な物資を漁った。
ショッピングモールはまだまだ物資に溢れている。
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