第3章 寿司ネタの宝庫

第42話◆◆①ガンゾウと穏やかすぎる海◆◆

「ああ、退屈だ▪▪▪」


シブルッカから船を出してまる3日、何の変化もないベタ凪の海は退屈極まりない。


俺の船は俺の呪力で動いているから問題ないのだが、このベタ凪じゃあ帆船は1ミリも進まんだろうな。


何だろうな?


またまた誰かに化かされているのか?


「いや、今回はそんなことはないようだね。ほら、鏡に映るのはこの景色その物だよ。」


アンブロシウスが無駄に装飾された鏡に景色を映していた。


「ウラジミール?」


「はい、ご主人様!」


「周辺に海賊らしい臭いはねぇのか?」


「残念ながら何も感じません。」


んん、まあ、もう少し進んで様子を見るか▪▪▪


この3日の間、フロリネは一歩も船室から出てこない。

森に棲むダークエルフにとって、海の上はお世辞にも快適とは言えないのだろうな。


少し外に出すか▪▪▪


「ご主人様ぁ、あんなもの甘やかしちゃつけあがるだけで御座いますよ?」


「ああ、ウラジミールがゲロの始末をするならこのままにしておくぞ?」


「ご主人様、フロリネは船から下ろすべきだと拝察つかまつりまする。」


恭しく一礼するが、完璧に打算だな。


まあ、あの温泉洞窟にでも放り込むか。


で、フロリネを降ろすのに船室に行った訳だが▪▪▪


「あら、ガンゾウ?何か用?」


フロリネ?元気だな?


「ええ、おかげさまで船にも慣れたわ。」


「ああ、ゲロ撒き散らされるくらいなら温泉洞窟にでもぶっこんでおくかと思ったのだがな?その必要も無さそうだな。」


「ええ、もう大丈夫よ。」


そう言ったフロリネの顔が少し赤いな。


ん?


視線が下に有るな▪▪▪


「なら良い。」


そう言って船室を出ようとした。


「ねえガンゾウ?」


と言いながらフロリネが後ろから俺の腰に抱きついた。


「最初は怖いと思ったけどガンゾウって優しいよね?

そう思ったらたまらなくなっちゃってさ▪▪▪」


おいおい?

フロリネ?

股間をまさぐるな。


俺は不死の体を手に入れてから、性欲と言うものが無くなっているのだ。


何故かと言えば、種の存続を担わなくても良いからなのだな。


だが、だからと言って「機能不全」な訳では無いのだな。


フロリネ?

お前がその気ならやってやるぞ?


「ホントにぃ?」


甘えた声を出してもダメだぞ。


「お前がこれを受け入れられるならな?」


ランプの灯りがつくる影。


俺の影の股間から延びる巨大で激しく反り返った影▪▪▪


「ひっ!」


「止めとくか?」


「は、はい▪▪▪

ごめんなさい▪▪▪」


分かればいい。


◇◇◇


「しかしこの凪、凄いですねぇ。見てください、風が無いから海面が鏡の様ですよ。」


鏡男のアンブロシウスが鏡のような海面を覗き込む。


ああ、なんか『合せ鏡』ってオカルト的な謂れが有ったよな?

まあ、元の世界での話だがな。


「アンブロシウス?」


クリスタが呼び掛けたが返事がない。


しかも、アンブロシウスは、全身鏡のミラーマン化しているな。


ああ、ちょっとヤバそうだ。

海面に映ったアンブロシウスが、海面に映ったアンブロシウスを映して、そのアンブロシウスが更に海面に映ったアンブロシウスを映している。

それが果てしなく続いている。


冷静沈着な魔道器が喪失しかけているな。


そう言えば船を揺らしても海面が波立たないのは何でだ?


「ホントに不思議で御座いますねぇ、ご主人様。」


「おい、アンブロシウス!」


俺はアンブロシウスの首根っこを掴み海面から引き剥がした。


ゴロンと転がったアンブロシウスは、人形が溶け、不必要に豪華な縁を持ち、上1/3が欠けたかのように見える『ただの鏡』になっていた。


「▪▪▪」


「何かの冗談?」


フロリネが呟いたが▪▪▪


「アンブロシウス殿の性格から、この様な振る舞いを意図的に行うとは思えませぬが?」


ディートヘルムも遠巻きに見るだけ。


もしや?と思い、海面を覗く。


「何やってんだ?アンブロシウス?」


鏡のような海面にアンブロシウスの顔が映っていた。


しかも海面を覆い尽くす程に。


『やられました▪▪▪』


念話だな。

直接頭のなかに届く。


『誰か分かりませんが、海に封印されたようです。』


「ああ、この世界でも合せ鏡は曰くが有るのか?」


『ええ、魔道の術式の一つに有りますが、まさか海面を利用するとは▪▪▪』


「どうしたら良い?」


『分かりませんが、これをやった者は何等かの意図が有るはずです▪▪▪出方を待つしか無いですね▪▪▪』


と、頬に風を感じた。


顔を上げるとベタ凪の海が消え普通に波立っていた。


海面に目線を戻したが、波に揉まれた海面から、アンブロシウスの顔は消えていた。

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