第39話◆◆⑯宴は続く◆◆
翌日の昼近く、宿を出ようとしたところにロベルトがやって来た。
「ガンゾウさん、蛸壺亭まで案内するよ、それと一つ頼みがあるんだが▪▪▪」
「頼み?」
「ああ、まあ飯を食いながら聞いてもらえりゃ有りがたいが?」
「ダメだ。話を聞くのはパエリアを食ってからだ。」
「んっ、分かったよ。じゃあ、飯の後にお願いするよ。じゃ行こうか、ああ、宿代はこちらで持つよ。夕べは皆、しこたま飲み食いさせてもらったからな。」
「そうかい、だがな、借りは作りたくねえ。それはそれ、これはこれだ。」
そう言うと、俺はウラジミールにズッシリと重たい巾着を渡した。
ウラジミールは、それをもって宿代を支払いに行った。
「固いねぇ。まあいいさ、じゃあ案内するよ。」
ロベルトはそう言って店を出た。
◇◇◇
蛸壺亭は、バザールの目抜通りにあった。
なかなか繁盛しているらしく、100席程の店内はほぼ満席だった。
もちろん、俺達の席はリザーブしてあったがな。
店内に入ると、そこかしこから「昨日はごちそうさん!」とか、「一杯おごらせてくれよ!」などと声がかかる。
対応はウラジミールに任せて、俺達はそそくさと用意されたテーブルに付いた。
「よお、待ってたぜ!もう10分ほど待ってくれ!このエールはおごりだ!」
と!カストロが温いエールを持ってきた。
「クリスタ、氷。」
そう言って俺は空間呪で桶を取り出し、そこにジョッキを置いた。
「ハイハイ。」
クリスタはそう言って桶に冷気を吹き掛けた。
やっぱりエールは冷たくねぇとな。
アンブロシウス、フロリネ、ディートヘルムも桶にジョッキを漬け込んだ。
暫くすると、カストロが店員と二人がかりでどでかいパエリア鍋を運んできた。
直径1mは有ろうか?
米が敷き詰められているのだろうが、それが見えない程の魚介類が乗せられていた。
おおっ!オマール海老っぽいな!いか、タコ、ムール貝!野菜もふんだんに使っているな!
「うちで一番デカイ鍋だ!アンタに食って貰おうと思ってな!今朝市場で今日上がった一番デカイ海老を仕入れたんだ!ミソからもいい出汁が出てるからな!美味いぜ!」
んんんっ!良い香りだ!
「そうかい!じゃあ遠慮なく頂くよ!」
大振りのスプーンを差し込む。
おっ!
程よく焦げ目が付いているのだろうな?
カリカリと香ばしい音がする。
音が香ばしいなんて変か?
「いえいえ!素晴らしい表現だと思います!」
ジロリとウラジミールを睨む。
「ちょっと!食欲失くすような事は無しよ!」
フロリネが喚くが▪▪▪
「いや、ウラジミール、分かってきたじゃねえか?」
で、にへらぁと気持ち悪く笑っている。
まあ良いさ。
「んんんっ!魚介の香りがたまらんな。でわ▪▪▪頂きます。」
俺はスプーンに乗った「米」を口に運んだ。
ふわっと海老の香りが口中を満たしていく。
ムール貝の甘さが鼻に抜ける。
イカとタコの旨味と歯応え。
これはブロッコリーか?
サクサクとした歯応えが残る程度に火を入れているな。
カストロ、やるじゃねえか。
だが残念だ▪▪▪
確かに米は米なのだが、出来の悪い長粒米、しかも、古々米くらいの古い奴だ。
微かにカビ臭さが漂う。
香辛料で匂いを消そうとしても、カビ臭さは消しきれないだろうな。
これじゃぁ「白米」としては食べられないな▪▪▪
「?ああ、すまん、声に出てたか▪▪▪」
「いや、ガンゾウさん、アンタの言う通りなんだ。俺が仕入れられるのはこんなリソばっかりだ。いや、この辺りじゃぁ、これが精一杯だな。それでも余程鼻が利かなきゃ分からない程度なんだがな。」
すまなそうに頭を掻くカストロだが、そんな米でも満足できるパエリアに仕上げているのは、なかなかだな。
「いや、これはこれで美味いぞ。海鮮は新鮮だしお前さんの腕も良い。何も恥じることは無いぞ。」
「ありがとうよ!良ければ角豚のオレンジソースも食ってくれ!自慢の料理なんだ!」
「おおっ!豚にオレンジのソースか!そそられるな!頂こう!」
暫くして出てきた「角豚のソテーオレンジソース」。
これは絶品だ!
「この辺で獲れる角豚はな!ドングリを食って太るんだ!臭みがなくて美味いだろ?」
つまり「イベリコ豚」だな。
異世界でも美味い奴は同じような物を食ってるんだな。
いちいち温いエールを氷に浸けるのも面倒になって、ルピトピアでやった永久凍土サーバーを作ってやった。
すると、あちこちのテーブルからエールのお代わりが殺到した。
冷たいエールはうめぇだろう!
ヴァン▪ブランの樽にも繋いでやった。
ヴァン▪ブランも冷やすに限るな。
いつの間にか、店の外でも宴が始まっていた。
そしてそれは夜中まで続いた。
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