第3話◆◆②ガンゾウと町外れの店◆◆
飛んで行けば、おおよそ一日かからない距離であろう。
さらに、空間をひん曲げて潜れば一瞬でルピトピア国内に入れるだろう。
だが、不死の体を持つ俺には、『無駄に時間を使う』事が大事なのだ。
合理的な考えは、永遠の時間を持つ俺には大敵だ。
かけられるだけの時間をかけるのが、この終わらない時間を楽しむ唯一の手段なのだ。
というわけで、馬に乗るでもなく、俺は自分の足で歩き出した。
まあ、十日も歩けば到着するだろう。
ギルドを出て、特に何かを準備するでもなくルピトピアへの街道を歩き出した。
しばらく歩いて、町外れにある小さな店に入った。
「婆さん、居るかい?」
俺は店の奥の暗がりに声をかけた。
「ああ、カンゾウかい。いつもの奴だね?」
「ああ、頼む。」
そう言って俺はテーブルの上に大金貨を一枚放った。
婆さんは無言で大金貨を懐に入れ、一抱えもある木箱をテーブルに置いた。
そうそう、ギルドでは俺のことを『ガンゾウ』と呼んでいるが、『カンゾウ』漢字で書くと『勘三』が正解だ。
この世界の言葉では、『カンゾウ』とは発音しづらいらしく、『ガンゾウ』が通り名になってしまった。
まあ、どうでも良い事ではある。
「上物か?」
香りを嗅ぎながら婆さんに聞いた。
「わしがカンゾウに粗末なものを渡したことが有るかえ?」
「そうだったな。」
そう言って俺は渡された葉巻をザックに放り込んだ。
そして一本を取り出して火を着けた。
うん、なかなか良い香りだ。
「今度は何処へ行く?」
婆さんがゴソゴソと足元の箱の中をまさぐりながら聞いた。
「ああ、ルピトピアだ。」
「そうかい、もう何人も帰ってこないらしいねぇ・・・まあ、お前さんならそんなことにはならないだろうが、場合によっちゃルピトピアのほうが迷惑かもしれないねぇ・・・」
そう言いながらキシキシと軋むような声で笑った。
「これはおまけだ、持っていきな。」
そう言って婆さんに渡されたものは、古びた短剣だった。
「婆さん、ボケたのか?俺にはこんなもの必要ない。」
そう、便宜上帯剣している。
まあ、無駄に時間を使う事が大事な俺には、剣術の修練も大事な時間の潰し方だ。
なので、いわゆる『業物』的な大剣を装備している。
その俺に錆び付いた短剣を渡して何になる?
使いようがない。
「まあ、そう言わず持っていきな。婆の誠意じゃ。」
ふむ、道々研ぎながら歩くのも時間潰しにはなりそうだ。
「なら貰っていこう。」
煙を燻らせて俺は婆さんの店を出た。
「ルピトピアね・・・カンゾウでも苦労しそうだ・・・」
そう呟いた婆さんの言葉は、もちろん俺には届いていない。
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