第五話 目覚めは悲劇と共に
その晩、俺は考え続ける。
夜、静けさだけが残るこの時間。耳を澄ませばフクロウの鳴き声でも聞こえて来そうな夜だ。寄木細工で作った様な机の前に座り、ロウソクに灯り揺れ動く小さな火をじっと見ながら考え込む。
無論、副能についてだ。フィーリアは未来予知と言っていたが、未来予知にしては感覚がリアル過ぎる。他にも時の巻き戻し等言っていたが、無意識下でそんなことが出来るとは思えないし、そんな力があるのならフィーリアやアイリスが気づかない筈がない。そんな何故か盲目的な信頼を持っているのだ。
「結局考えても無駄ってことか?」
「仕方ない。今日は寝るか」
「考えて事は終わったのかしら? ハルト」
「うん、まぁーな」
「悩み事があるならフィラに頼るべきなのよ」
「ありがと」
フィーリアはいつもは毒舌だが、こういう時何かと頼りになる。俺はこれにこれからどれだけ助けられるだろかと少し考える。
おもむろに立ち上がりロウソクの火をそっと息をかけて消す。火が消え真っ暗になる部屋の隅、ベッドがある所まで行き流れる様に横になり目を閉じる。数多くの疑問と不安を持って。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一週間が経った。今日はちょうど前回時間が戻ったであろう日だ。こういう時どうしたらいいか分から無かった俺は出来るだけ前回と同じ様に振る舞うことを決める。
いつもの様に木でできたリビングのドアを勢いよく開け、階段を駆け下りながら叫ぶ。
「夏だ! プールだ! 水着だーー!」
「ちょっと何言ってるか、分かんない。でも朝から元気なのは、良い事よ。いい子いい子」
「薄い反応&良い子評価って、なんかへこむ評価。しかし、そのへこむ評価を脱却すべく、今日もハイパーウルトラ元気に生活し、日々テンションアップを心掛けて生活するのであった!!」
「これ以上テンションあげたら、心臓がショックを起こして死ぬのよ」
やっぱりだ。俺は前と同じ様にに振る舞うと、二人の言動も全く同じ様になる。今回は前回と同じ様に立ち回って何か異変が無いか考えよう。やはり全ての受け答えを知っているとなるとどこがむず痒い所がある。なんて考えていると、
「ハルト、アイリスから買い物のお使い要請なのよ。急いで準備のよ、レデイを、それも精霊のフィラを待たせるなんて、契約者であってもやってはならないことなのよ」
「おう、分かった。今準備する」
階段を飛び降り、何書いてあるか分からないメモを見ながら準備する。
「なあ、アイリス。なんて書いてるんだ?」
「それはね、お米、お肉、胡椒、とうもろこし、ネギって書いてあるのよ」
「いやはや、これで何を作るやら。米と肉と胡椒までは分かるけど後続の二つよ二つ」
「むぅー、そんな事言って。夜になったらすごい料理が出てくるんだから!」
毎度恒例。これで何作るの論争が繰り広げられる。しかし、アイリスが作る料理はどれも絶品であり、ハルト自身もこの二週間でそれはすごい分かっているので言われた通りに買ってくる。
そんな中、フィーリアが「いい加減に準備するのよ!」と、堪忍袋の緒が切れかかっているので「へいへい」と短く返しながら口ではなく手を動かす。
前回同様、左手に鞄。右手にフィーリアの手を握る。前回と違う所と言えば鞄を肩まで持ち上げ、左手でドアを開けたと言うところだ。そしたらフィーリアが「よく分かっているのよ」と、薄ら笑みを浮かべながら話す。やっぱりこうして正解だったなと考えるのだった。
その夜。またあの男達がやって来た。フィーリアに事情を説明し、ドア開けた瞬間、フィーリアの魔法が炸裂する。男達は一瞬訳が解らなそうに呆けていたがすぐに状況判断し、飛んでいくように逃げていった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「やっぱりこうなった原因はあの男達じゃないかな?」
「フィラもそう思うのよ。ここ一週間で一番怪しい奴らなのよ」
「それな」
あの後俺とフィーリアで会議する。議題は勿論、仮称、
「今夜かしら? 前回時間が戻った日って言うのは」
フィーリアが心配そうに、覗き込む様に目線を合わせながら問いかける。
「あぁ、そうだ。今夜だ」
その問に対し俺は短く肯定する。
「寝るの、怖くないかしら?」
「大丈夫だ。何も怖くない」
嘘だ。怖いに決まっている。だって考えても見ろ、今夜寝て起きたら今までの一週間忘れられるかもしれない。また一週間同じ事を繰り返さないと行けないかもしれない。そう考えると全身が震え出しそうだ。でもフィーリアを心配させてはならないと自分を強く戒めていると、
「その言葉、嘘と見たのよ」
「え?」
なんでだ? なんで嘘だと分かったのか? もしかして契約した精霊には嘘が通用しないとでも? なんて野蛮な事を考えていると、フィーリアが過去を思い出す様にそっと天井を見つめながらカシワハルトを語る。
「ハルトは嘘をつく時、必ず全て間違った事を言うのよ。今回だって『大丈夫だ。何も怖くない』って言ったのよ。いつもだったら『多分大丈夫だ』とか少し曖昧にしたり、はぐらかす様に喋るのよ。だから嘘だと見たのよ。フィラとハルトがどれだけ長い事一緒にいると思ったのかしら?」
図星だった。確かにいつもなんでもかんでも文頭には多分や大体、確か見たいな言葉をつける事が癖となっている。
「やっぱフィーリアには敵わねぇーな。すごいわ」
「ハルトの方がすごいのよ」
なんて何気ない会話をする。そんなこんなしていると、いつの間にか恐怖は消えリラックスしていた。それを察したのかフィーリアが「ハルト、今夜は抱き合って寝るのよ!」と、満面の笑みで話すのだった。
目覚めと言うのは何も未来があると言う希望や喜劇だけではない。辛い一日が始まると言う憂いや悲劇を伴う事もあるのだ。
そして今日俺は悲劇を噛み締め目を開ける。
「あっ、ハルトが起きた! えっと記憶を無くしているんだよね。私はアイリス! あそこにいるかもしれないのが精霊のフィーリア! よろしくね!」
「ちっちゃい言うななのよ! アイリス!」
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