第一話 現実で死んだらリアルで目が覚めた

 ゲームをしていた。


 戦略ゲームだ。自分で言うのもなんだが、そこそこ強い。


 プレイ人口100万人に対して、だいたい1000位くらいだ。


 そしてたった今、オンラインプレイをしていて負けた。

 その理由は、サーバーの調子が悪かったらしく、バグって負けたのだ。


 その事に酷く怒り、コントローラーを全力で投げ、モニターに当たり、その破片が首元に刺さり、


 午前2時35分かしわ悠人はるとは死亡した。 それと同時に……







 目を覚ますと、ベッドの上に横たわっていた。


 誰かの家だろうか、普通、救急車の中か、病院の中のはずなのに。辺りを見渡すと、木造か? 誰かの家だろか、それに、蛍光灯の様な物は無く、代わりに壁に嵌め込まれている石が白く光っていた。 そして更に驚く事に、




「ハルト! ハルト! ハルト!!」


 黒髪の美少女が自分の名前の力強く叫んでいた。



 その美少女はサラサラの黒髪ロングで目は空のような鮮やかな水色。

 服装は前身頃が青色、それ以外は白の特徴的なTシャツに、白くて大きめのストールを羽織っている。

 足には黒いストッキングの様な物を履いており、半ズボンがちょうどいい気温に暑くないのかと気になる所だ。


「えっと、その、あなたは誰? ああ、もしかして閻魔大王的な人?」


「えん、また訳の分からないことを言って、こんな時にも変な話にする。いい加減私も怒るんだたからね」


 その少女は「ぷんすか」と言わんばりにハルトの目の前に顔を近ずけ、腰に手を当てながら怒る。ハルトはただ「えぇ」と困惑することしか出来ず、眉間に皺を寄せる。


 彼女が閻魔大王では無いのであれば誰なんだろうか? 天使とか? いや羽が付いてないしな。と、ますます彼女の存在がわからなくなる。


 もしかして死後の世界じゃない? 意識を失っているだけでここは夢の中の世界? と考察していると少女が明後日の方向を見ながら「まあ無理もないか」と呟き、言葉を続ける。


「私はアイリスあなたの親友的な存在よ。わからないことがたくさんあるかもだけど、よろしくねハルト」


 ハルトはアイリスと名乗る少女の言葉に色々驚く。一つはもう既にこちらの名前が割れていること。親友を名乗るのだ、名前ぐらい知ってて当然と言えば当然なのだが。

 もう一つはこんな美少女と親友になれるハルトの紳士性によるもの。


「そりゃあどうも。アイリスちゃんが俺の名前を知っているってことは俺の自己紹介入らない感じ?」


「そうね。私、ハルトの事ならなんだって知っている自信があるわ」


 軽くガッツポーズを決めながら目を凛々しくするアイリスに一瞬心を奪われる。が、よくよく考えればただのヤンデレ発言だったので複雑な気持ちだ。


「まあなんにせよ出来れば今の状況を教えてくれないかな?」


「そうよね。ハルトも今何が起こっているのか分からないものね。えっとそれは」


 アイリスが口も籠らせながら天井を見つめて少し息を吸って「よし」と決心した顔に切り替わった時、状況を説明する。


「えっとね、単刀直入に言うとねハルトは記憶喪失になったの」


「は?」


「うん、それでね」


「いやちょちょちょちょっとまってよ」


「うん? どうしたの?」


「ん? どうしたの? じゃなくて、えどゆこと? 俺が記憶喪失!?」


「うんそうよ。ハルトは記憶喪失。何か問題でもあるの?」


「いや問題しかないでしょ」


 するとアイリスは「やっぱり問題だったかー」と言いいながら目を瞑り額に手を添える。いやわかってるんだったら最初からその質問しないでくれる? と言う意見が頭の中を満たす。


「つまりえっと、俺は君たちとは、実は知り合いでそれを覚えて無いのは俺だけ、要は俺は記憶喪失になった、と」


「うんそういう事。ハルトが、私を守ろうとして庇ったら、相手の剣が首元に掛かって、それですぐに治癒魔法かけたんだけど意識までは戻らなくて」


「ん?? 今、魔法って言った!?」


「うん言ったよ、なにか問題でもあるの?」


 元来日本生まれの人間としては心底から魔法を信じている人は極々わずかだろう。俺は信じていない派の人間だ。もしかしたらと、ハルトはアニメで見たとある光景を思い浮かべながら呟く。「異世界転生なのか」と、

 

「いや問題無い。そうか、で、君の後ろにいる子供は俺と、どういう関係なの?」


「え? あー、もしかして精霊のフィーリアの事?」


「精霊?」



「うん精霊。ハルトは精霊術士の素養があるから、確かハルトは精霊と契約していたはずだよ」


 一度に大量の情報が入ってくる。まず、この世界に精霊がいる事。そして、俺は精霊術士の素養がある事。そして何より、その精霊と契約している事。


「身に覚えの無い契約とか、いくら何でも危険過ぎるだろ。それも精霊の奴なんて特に……」


「精霊との契約を忘れるなんて、ハルトは精霊術士としての自覚が足りんのよ。それも大精霊であるフィラとの契約を……最悪の極みなのよ」


 ずっと黙っていた幼女がやっと口を開く。シーグラスの様な紫色を腰まで伸ばした髪に、透き通った鮮緑の目をしている子だ。しかし、開口一番罵るとは、俺の契約した精霊は気難しい奴なのかと少し残念に思う。


「あれ? 幼女ってこんなに口悪かったけ?」


「フィラを幼女扱いしないで欲しいのよ! フィラはもう300年以上は生きているのよ!」


「意外と熟女だった!?」


「熟女扱いも許さないのよ! 精霊じゃ300歳は結構若い部類に入るのよ!」


「じゃあ、幼女だな!」


「幼女でも無いのよ! フィラとっくに成人しているのよ!」


「成人って人間かよ、」


 なんて馬鹿げた会話をしていると、アイリスが苦笑しながら話し掛ける。


「ふふ、ハルトは、記憶を失ってもうるさいのは変わらないのね」


「うるさい言うなし!」


「そういえば俺が記憶を失っても君たちは、あまり驚いていないんだね……」


「何っているの? そりゃ最初は驚いたけどハルトが目を覚ます頃にはちゃんと落ち着いてました!」


 えっへんと言わんばかりのドヤ顔を決めながら、話す彼女が少し可愛く見えた。


 あ、これは天然だ。時に優しく、時に攻撃的な弄りがいのある事で有名な天然だ。これほどメインヒロインに相応しき才能を持った美少女はこれまでいただろうか、否、断じて否だ! 俺的天然ポイントは星5! 最高評価を叩き出せるとは! このハルト一生ついて行きます!


そんな空想を膨らませていると、


「でも必ずハルトの記憶を取り戻して見せるから安心してね!」


「それに関してはフィラも同意なのよ」


「お、おう心強い。」


「ふふ、ありがとう。私たちにできる事があったら、何でも言ってね! 私はハルトの力になりたいから!」


「そうか、なら君たちの名前を聞かせて欲しい。まだ自己紹介していないから、」


「あっ、そうだったね、ごめんなさい。私の名前は、アイリス。これからもよろしくね!」


「フィラの名前はフィーリアなのよ、しっかり肝に銘じるのよ」 


「なんだフィラメントじゃないのかよ……」


「一人称から勝手に名前想像をして、間違ってたからって落ち込むなんて酷いのよ、それで、フィラメントってなんなのよ?」


 と、幼女(仮称)が白熱電球のフィラメントに興味を持つとは、いや待てよ、俺がフィラメントと言う言葉を発したから気になったのか? 俺の言葉は全て理解出来る様にするために興味を持ったのか? だとしたらめっちゃ理想的なツンデレでは無いか! なんだここは! 天国かここは! ど天然とツンデレ! 異色に見えて実はそうでも無いコンビ! 漫画やアニメじゃあ結構メジャーになりつつあるこのタイプをまさかリアルで見る日が来るとは! おっといかんいかん。気持ちが盛り上がってしまった。一旦、落ち着こう。


「何となく分かってきた。んでそういえば、切られそうになってたって言ってたけどその時何があったの? 切られそうになるなんて滅多に無いことだけど、」


「その事なんだけど、さっきまで私誘拐されてて、それを助けにハルト来てくれて、そして誘拐犯がナイフを持って追いかけて来たところをハルトが身を呈して守って、今の状態に至るのです」


「誘拐って、まあ、アイリスは可愛いし、分からなくもないけど……」


「そんな恥ずかしい事、言わないの!」



「そういえばフィーリア、俺とお前契約してるって話だが、どんな契約しているんだ?」


「契約内容は、フィラがハルトの事の夢や、命を助けるという内容なのよ、それで、その対価として、」


「その対価として?」


「ハルトとフィラが1日1回ハグする契約なのよ、」


「へー意外と可愛いところあるじゃん。もしかしてツンデレってやつ? それでもし、ハグしなかったらどうなるんだ?」


「ハルトは死ぬのよ、」


「は!? 怖っ、前言撤回! えっ、すっごい怖いですけど、もしかしてサイコパスって奴!? この見た目で?」


「さいこぱす、がなんなのかは別として、そうなのよ、だからフィラをあまり怒らせない方が得策なのよ、」


「得策も愚策も何もねーよ!」



 こうして、世にも奇妙な異世界生活? が幕を開けた。

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