奏への報告


歌子に引っ越す予定であることを伝えてしまった以上,奏にも,報告することにした。


奏は,驚かずに,「そうか。唐の家族も色々と考えているんだね。まあ,コロナがなかったら,もう少し違う展開になっていただろうけど,どこにいても元気に暮らしてね。」と思いの外、とてもあっさりとした返事だった。


少し考えて,私は奏にちゃんとお礼を言って、自分の気持ちをきちんと伝えたことがないことに気づいた。この機に,きちんと伝えようと決めた。


「コロナがあるし,引っ越す前に直接顔を合わせることは多分難しいから,メールで恐縮ですが,お礼だけを言わせてくださいね。


地元を離れて何も知らない町に来て,仕事をめぐるトラブルもあって,本当に心細かった。でも,奏と歌子が親みたいに見守って,色々手伝ってくれたおかげで,大したことはできませんでしたが,この町で良い思い出をたくさん作り,楽しい時間もたくさん過ごすことが出来ました。


奏の誰に対してもおおらかで優しく,同じように接するところにたくさん癒されました。音楽も,私にとって疎い分野ですが,奏たちにたくさん聴かせていただき,自分で何かをするのがまだ無理でも,大好きになりました。ダンスも,最高に楽しかったです。


何よりも,何かがあれば,いつでもうちに来てもいいと言ってくれて,いつ行っても歓迎してくれたのは,有り難かったです。行ける場所があると言うのは,いつも救いでした。


歌子と揉めたりすることで,奏にまで迷惑をかけることもたくさんあったと思います。これについては,深く謝ります。


奏はこれまでの長い人生できっと数えきれない数の出会いと別れを繰り返して来たと思いますので,私のような若い外国人の女の子との出会いなんて,すぐに忘れるようなものでしょうが,私はまだ短い人生で,これまで来て奏と歌子の他に,ここまで親しく関わろうとしてくれた人がいないので,とても印象に残っているし,忘れられない人です。本当にありがとう。」

と心からの気持ちを綴って,送った。


すぐに,返事が来た。

「旅立ちのメッセージありがとう。


人の出会いや別れは,沢山ありましたけど 唐が言うように外国人の若い人との親交は、特に唐とのことは,とても特別で印象に残っています。このコロナ禍がなかったら,もう少し違う展開だったでしょうけど,若人にはまだ洋々とした未来が待っているし,このようなツールもあるから,どこにいても応援してますよ!


またいつでも メッセージ待ってます。あなたのことをずっと思っていた。またいつかきっと会える!」


私は,奏からの返信文を読み,彼がずっと私のことを思い,見守ってくれていたことが有り難くて,この町を離れても,奏との繋がりは,きっと変わらないことが嬉しくて,しばらく涙が止まらなかった。


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