おばあさん友達


ダンス教室に通い,出会った人の中で,一番仲良くなったのは,八十代のおばあさんでした。このおばあさんは,八十代とはいえ,元気溌溂で,いつもぴんぴんしていた。


このおばあさんと仲良くなったきっかけは,おばあさんは運転免許を持っていなかったため,私と同じように歌子に乗せてもらい,ダンス教室に通っていたことだった。


歌子は,小山というおばあさんの話に付き合うのが面倒だったから,後部座席で小山さんと並んで座っていた私がいつも相手をした。


小山さんは,外国人相手でも,少しも怯んだりためらったりせずに,永遠に、よくここまで口が回るなあと感心を覚えるほど,淀みなく色んな話題について喋り続ける技を持っていた。これは,外国人だというだけで,特別扱いをされることに疲れていた私にとっては,有難いことだった。


ある日,小山さんに,一緒に花見に行かない?と誘われた。私は,暇だったし,小山さんを面白くて,好感が持てる人だと感じていたから,一緒に行くことにした。


小山さんが花見がしたいという場所は,非常に傾斜の強い急な坂の上に位置する公園だった。健脚持ちの若者でも,きつい坂なのに,小山さんは,息も切らさずに,楽々と坂を登れた。


「お年寄りは,すごい。なめてはいけない。」と八十歳超えの小山さんの若々しさに感心した。


一緒にランチもした。小山さんと一緒に入ったお店は,人の出入りの少ない中華料理店として知られていたが,店内へ入って,すぐに人の出入りが少ない理由はわかった。店長は,よく煙草を吸う人で,店内には煙草の匂いが充満していた。食事も,煙臭くて,煙草の味がして,不味かった。


ご飯を食べながら,小山さんからびっくりするような話を聞いた。

「私はね,心臓が悪いでね,先生に診てもらってびっくりされたのよ。よくこの心臓で,ここまで長生きできたねってね。もっと早く死んでいたはずなんだって。いつ死んでも,おかしくないって。でも,歌子先生に言ったら,心配させるから,言わないでね。」


小山さんは,いつ死んでもおかしくないくらい心臓が悪いのに,ダンス教室に通っていることを知って,当然びっくりしたが,私がわざわざ歌子に言うようなことでもないと思った。


食べ終わり,お店を出ると,小山さんが私に謝った。「不味かったね。ごめんね。今度は,美味しいところに行こう!」


思わず,吹き出してしまった。お年寄りは,やっぱり面白いと思った。


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