ワイン樽

 繁華街の路地を歩いていると、終電も間近だというのに賑やかな店を見付けた。中の様子を見てみると立呑居酒屋らしい。スーツを着たサラリーマンや、大学生であろう若い人らがテーブルに体重を預けながら盛り上がっている。


 賑やかな雰囲気をつまみに酒を飲むのも悪くない。


 引き戸を開け、店内を見回しつつ中に入ると、かなり混雑しているのが見受けられる。そこまで店舗は広くない。席は空いているだろうか。

 店内を観察していると、新規の客わたしに気付いた店員から「いらっしゃいませー!」と元気な挨拶が飛んで来て、すかさずフロア担当であろう男性が近寄って来て声をかけてきた。


「いらっしゃいませ!お一人様でしょうか?」


 席は空いてますか?と問いかけると、男性は店内を見渡し、申し訳無さそうな顔をこちらに向けてくる。


「ただいま店内満席でございまして…入り口すぐ横の外のテーブルでしたらご案内できます。」


 入るときに入口の横に置いてあったワイン樽のことだろうか、そんなところで一人で酒を飲めるのは乙じゃあないか。店内は禁煙だが、外であれば煙草が吸えるとのことなので、そのテーブルワイン樽へ案内をお願いした。


「こちらになります、入り口は開けておきますので、いつでもお声がけ下さい。おしぼりどうぞ!」


「ありがとうございます、とりあえず、ビールとナッツ盛り合わせをお願いします。」


「かしこまりました!少々お待ち下さいませ!」


 店員はにこやかに席を離れ、厨房に向かってよく通る声でオーダーを通す。元気な店員でなかなか好感が持てる。店員の明るさもこの店の繁盛に一役買っているのだろう。


 気分を良くしながら、テーブルワイン樽に灰皿が置いてあることを確認し、煙草に火をつける。


 外で吸う煙草はウマい。紫煙を空に吐き出し、紫煙の流れを目で追いつつ、空に、月に目を向ける。


 ……今日は満月か。


 独り言ちて、ビールとナッツが来るまでの間、紫煙を目で追いかける遊びに興じた。

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