鎮 魂

鷹鷺鴛鴦

はじめに

 あては京都深山の古寺に一人で住む老尼や。最近は熱帯夜が続いてかなわん。そんなある日、遅い時間に寺に泊めてほしいというご家族が来た。真っ暗闇の山中で迷子になる人は、十年にいっぺんぐらいは、いてはる。せやから、最初はそれやと思てん。 

 五十代前後の夫婦と二十才前後の娘さんやった。もちろん初対面や。迷子やなかった。三人とも苦悶の表情を見せてた。特にご主人は首に縄をつけてはって、引きずってはった。奥さんと娘さんの下半身は血塗れや。とにかく惨い有様や。ここまでよう歩いてこられたもんや。この辺りは車は通れない。参拝客もいない。地図も出ない。ほんまにようここまで来はった。ほんで、あては誰が来ても驚かへん。


 あては、しんどかったな、よう来はったなとねぎらった。それから僧堂に案内したげた。三人とも仏像を見るなり、泣き崩れてはった。

 あてはぜひ話を聞いてくれというので、聞いた。それから経を唱えながら、時間をかけて縄をほどき、井戸水を汲んで沸かして血の跡を拭き取ってやった。三人はあてのなすがままにじっとしていた。どこに行くか決めかねているのやったら、しばらく寺に、いときなはれと申し出た。

 三人は涙を流すだけや。あては、布団を三人分しいてやり、枕もとに水を供え線香を焚いてやってん。しかし、朝になると、影も姿ものうなった。


 あては、若い人に言うとくわ。これからする話をよう聞いてや。



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